トランプ政権は過去の経緯や常識にとらわれない、極端な政策を打ち出している。勢いはあるものの失策も目立ち始めており、ここまでの政権運営は決して盤石ではない。こうした状況では民主党はあえて行動せず、静かに状況を見守るのが得策という見方がある。実際、今年に入ってから実施されたアイオワやペンシルベニアの州議会の特別選挙、ウィスコンシン州の最高裁判事選挙、オマハ市長選挙などでは民主党候補が勝利するなど、地方選挙では健闘している。
それでも、民主党の中で活発な政治活動が影を潜めているわけではない。代表的なのが83歳のバーニー・サンダース上院議員と35歳のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員がタッグを組む「オリガルヒと闘う」全国ツアーである。背景には、イーロン・マスク氏などテック業界の資産家の政治への急速な接近がある。企業家や一部富裕層の過度な政治的影響力や政治腐敗に対する警戒心は根強い。同ツアーは2月に開始以降、既に20回近くの集会を行い、数万人を集めたケースも少なくない。
民主党はトランプ大統領の再選は民主主義にとっての脅威となるとの主張を繰り返してきた。だからこそ、三権分立や法の支配といった国家の基本的な価値観を守るために立ち上がる動きもみられる。イリノイ州のJ・B・プリツカー知事は自身も資産家でありながらトランプ大統領に反対する急先鋒に浮上しており、とくに議会や司法の軽視や独裁を止めるために、市民の大量動員を先導している。ピート・ブティジェッジ前運輸長官なども積極的に発言しており、カマラ・ハリス前副大統領も表舞台に戻りつつある。
一方で、従来型の主張のみでは民主党は復活できないという見方もある。そこで、有権者の価値観の変化に合わせ、共和党の主張を取り込む動きも見られる。カリフォルニアのギャビン・ニューサム知事は不法移民への医療保険の提供を制限、州内における路上生活者の不法占拠の取り締まり強化、女子競技におけるトランスジェンダー選手の参加に反対などの保守寄りの政策を支持する他、自身のポッドキャストではMAGA派の中心人物と積極的に対談を行っている。また、デレク・トンプソン氏やエズラ・クライン氏が提唱するアバンダンス・アジェンダのように規制緩和と公共財への投資を組み合わせることで国際競争力の強化と社会課題の解決を目指す新しい発想も生まれている。
政治不信がかつてないほど高まっている中、有権者の信頼獲得は容易ではない。また、多様化が進も中で多くの人を惹きつけることも難しくなってきている。それでも、来年には中間選挙が待ち構えている。有権者は現状に満足しているわけではない。州知事なども含め豊富な人材が存在すると言われている中、民主党から生まれてくる新しい政策及び将来へと導く次世代のリーダーの出現にも徐々に注目が集まりそうだ。