現在2期目のバーナンキFRB議長は、来年1月末の任期満了で退任するとの見方が大勢である。とはいえ、金融市場やFRBとその周辺では、次期議長はイエレン副議長で決まりとの見方が多く、しばらく主要メディアの次期FRB議長人事への関心は盛り上がりを欠いていた。
しかし7月下旬、次期FRB議長の人選をめぐる論争が突然燃え上がった。きっかけは、ワシントンポスト紙の人気ブログに載った「現時点では次期FRB議長の最有力候補はラリー・サマーズ氏」という一記事。しかも情報源はホワイトハウスの候補者選定に関わる関係者であるという。元財務長官とはいえ、金融政策の形成に深く関わった経験のないサマーズ氏など想定外だったFRB内部や主要メディア、ニューヨークの金融市場には、大きな衝撃が走った。FRB内部や市場がイエレン副議長を推しても、オバマ大統領がサマーズ氏の方が適任と判断すれば止めようのないことに気付かされたからである。
興味深かったのは、かかる報道後の他メディアや市場関係者の動きであった。「反サマーズ、親イエレン」が露骨に表れた記事や有識者のコメントが大量に流れたのである。その冷静さを欠いた報道ぶりには、FRB・市場・メディアの自負であった議長人事への影響力が、実は限られると認識させられ、焦りが表れたようにみえた。
とはいえ、彼らの驚きも理解できる。過去、彼らの影響力は実際に大きかった。バーナンキFRB議長までの人事は新任・再任とも、ホワイトハウスの経済チームがFRB内部や市場との意思疎通を通じて絞込み、大統領がその意をくんだ指名をしてきた。大統領と経済チームも、FRBや市場が支持しない人物を議長に指名すれば金融政策の決定に混乱が生じて、政権の経済運営にも悪影響が及びかねないことという警戒感を持って選考に臨んでいた。