ポトマック河畔より#42 | Gen Zがもたらす個人と企業の新たな関係

これは、丸紅グループ誌『M-SPIRIT』(2022年10月発行)のコラムとして2022年9月に執筆されたものです。

丸紅米国会社ワシントン事務所長 峰尾 洋一

要求の背景にあるもの

「今どきの若い者は」というのは、筆者の世代には耳慣れた言い回しだ。だが平成も終わり令和に入った今、こうした自分より若い世代を批判する声を聞く機会は少なくなったように感じていた。ところが最近、「今どきの若い者」批判を2人の米国人から聞いた。仕事がたまっているのにいきなり休む。楽しくない仕事はやらない。それが本当なら仕事に差し障るが、彼らには彼らの言い分や行動の背景があるのかもしれない。そんなことを考えながら、普段数多送られてくるメディアやシンクタンクからのメールを意識して見てみると、「今どきの若い者」を代表するであろう、Generation Z(Gen Z)の分析記事や論考が相応に含まれていることに気付く。

Gen Zは1997年から2012年にかけて生まれた世代を指す。アメリカではこのGen Z人口が7200万人(総人口の2割)に達する。そしてその世代が徐々に社会人として仕事を始めるタイミングに差し掛かっている。Gen Zの論考が散見されるようになったのはそんな背景もあるのだろう。論考を概観して、この世代に顕著な特徴がいくつかあることが分かる。まず、勤務先とのつながりが薄い。2年以内に仕事を辞めたいと思っている割合が40%に上る。これ以外にも、(1)会社に対して自らのメンタルヘルスのケアを求める、(2)性別や人種、性的嗜好におよぶ多様性を会社に求める、(3)会社に気候変動への対処を求める、(4)Work life balanceを最重視する、等が挙げられる。筆者の世代には考えもつかないような要求もあるが、その背景を考えてみる。

まず、彼らの世代が始まる1997年以降の世界を振り返る。冷戦は終わり、September 11発生時はわずか4歳。その記憶は薄い。思春期に金融危機を、社会人1~2年目でコロナ感染のロックダウンを経験した。米国が民主主義のリーダーとして世界の危機に立ち向かう姿を彼らは見ていないだろう。金融危機で銀行が救われる一方で自宅が競売される姿を見て育ったのがこの世代だ。また、筆者が注目するのは彼らのインターネットとの関わり方だ。ネット接続の主流がダイアルアップからブロードバンドになったのは2004年。Googleが動詞として辞書に載ったのがそれから2年後の2006年だ。彼らが物心ついた頃、ネットに接続しGoogleで知識・情報を得ることが一般化していたとみて良いだろう。これは何を意味するのか。

筆者世代が中学高校時代、何か新たな知識を得ようとした時、そこに図書館が、本屋が、学校や塾が存在した。そうした物理的な場所に足を運び、場所を管理する人たちと面と向かって会話をする必要があった。Googleを通じた知識獲得はどうか。知識や情報は無限大に存在し、探すよりも選ぶ方が大変だ。そして、膨大な情報を選ぶのに自宅を出る必要はない。その多くは無料であり、ワンクリックで閲覧が可能だ。場所も、管理する組織も、組織との会話も不要。そんな風にして育った世代が、コロナ・ロックダウンで事務所にも行くことができず、会社という組織との接点が曖昧な中で社会に参入してきた。それがまさに今起きていることだろう。

こうした環境で育った者たちには、組織を重視したり、そこに属する発想が希薄かもしれない。彼らの目には、会社は属するものではなく、ネット上に存在する選択肢の一つであり、容易に代替がきく存在である。勢い、自分の時間や労働を提供する対価として、報酬以外に、自分のWork life balanceの達成や、自らのイデオロギー(多様性や気候変動)の実現を要求する。長期にわたって束縛される意識はなく、常に他の選択肢を探し、条件が良ければ他に移る。

目が離せない、個人と会社の関係の変化

コロナ禍以降人材確保に苦労する会社側が、Gen Z世代の要求に応える動きも出ている。コロナ禍をきっかけに始まった自宅勤務やハイブリッド勤務の恒久化や、週4日勤務を導入する会社もある。人材維持のために、新人研修やチーム育成プログラム導入への関心も高い。

だが、こうしたGen Z世代と企業側の関係が今後調整されていく可能性もある。コロナ対応で成立した措置は社会の再開に伴って形を変えていくだろう。Gen Z世代の動き方の分析も進み、会社対応も洗練されていくだろう。会社の目的がWork life balanceやメンタルヘルス対応そのものではないことを考えれば、そういう対応(=投資)に対するリターンも要求されるようになる。足元は好景気だが、トレンドに調整が入れば、会社の対応も見直されることになろう。

Gen Zという世代がもたらす新たな個人と会社の関係。それをアメリカがどう判断し対処していくのか。今後の動きに目が離せない。