しかし、そのアメリカン・ドリームが今揺らいでいる。最近の世論調査によれば、「米国は成功するチャンスが均等に与えられない国」と考える人が全体の64%を占め、「与えられる国」と考える人の2倍近くに達した。別の調査では上のアメリカン・ドリームを信じない人の割合が45%に達し、信じる人の54%に迫ってきた。
失望する人が増えた最大の理由は、近年の所得格差の異様な拡大であろう。世帯間の所得格差を示す代表的な指標であるジニ係数は、2012年に過去最大を記録した。過去20年間に所得階層の上位1%である富裕層の所得が86%増えた一方、残り99%は18%しか増えていない。物価上昇分を割り引いた実質ベースでみれば、最低所得層の2012年の平均所得は1968年よりも少ない。この間に上位5%の所得層は約2倍に増えている。しかも金融危機後の格差拡大はより顕著であった。金融危機後の景気回復は、FRBの超金融緩和策と資産価格の上昇に頼らざるを得なかったとはいえ、社会の安定という観点では、このまま持続できる状態でないことは確かだろう。
一方で、所得が順調に伸びた富裕層も、現状に懸念を訴えている。社会全体として膨らむ所得格差への不満が、富裕層に対する非難の高まりを生み、富裕層がスケープゴートになりかねないという不安を感じているのだ。実際、最近の世論調査では「貧困層の支援拡充のために富裕層や企業は増税すべき」という意見が回答の54%を占め、逆に「減税して経済成長を促進すべき」という意見は35%しかない。富裕層が社会全体の尊敬の対象でなくなり、逆に所得階層間の対立が生じつつあるという見方も広がっている。
当然、こうした変化は政治の重要課題にもなっている。従来から格差是正に積極的なオバマ大統領と民主党はもちろん、政府による格差是正を嫌い、経済成長による中間層以下の底上げを訴えてきた共和党も、格差是正を取り上げ始めている。主要メディアも連日、異常な所得格差をさまざまな切り口から報じている。そうした動きが、「格差是正のために最適な政策は何か」という建設的な議論を促進しつつも、社会の富裕層・高所得層に対する不満をあおることにもなっている。