オバマ政権の対テロ戦争は、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の殺害や主戦場の一つのイラクからの米軍の撤退など一定の成果を上げている。だが、実績の割にはオバマ政権の対テロ戦略についての社会の評価は低い。保守派は、アルカイダが関連組織であるイエメンやソマリアなどへ拡散している点や、昨年9月の米大使ら4人が殺害されたリビア・ベンガジの米公館テロ事件を取り上げて、対テロ戦争に対して消極的過ぎると非難する。一方、リベラル派は対テロ戦争に積極的すぎると批判する。キューバ・グアンタナモ米軍地にあるテロ容疑者の収容施設閉鎖という公約はいまだ実現せず、またCIA(中央情報局)による無人機攻撃はブッシュ前政権よりも増えて一般市民の犠牲者が多く出ていることが主な対象である。
もっとも、オバマ政権の一つの政策に対して保守・リベラルの両極から批判が出ること自体が、批判する側の妥当性を疑わせる。オバマ大統領は5月23日の演説で、批判を崩す攻勢に出た。米国が直面するテロの脅威について現状分析を二つ示し、批判する側の認識不足を突いたのである。その一つは、アルカイダは弱体化しているという主張である。関連組織は拡散したがその力は限られ、中核組織の米国を攻撃する能力は大幅に低下している。それも、強化したCIAによる無人機攻撃によってアルカイダ幹部を数多く殺害したからであり、アルカイダは幹部の逃亡に懸命で同時多発テロのような大規模攻撃の準備などできなくなっているという。実際、米国内では同テロ以降に海外のテロ組織による大規模攻撃が発生していない。もう一つは米国育ちの国内過激派という新たなテロの脅威である。今年4月のボストン爆弾テロ事件も近年多発する銃乱射事件も、いずれも容疑者は米国育ちの過激思想に感化された若年男性だった。さらにオバマ大統領は米国における大規模テロの始まりは同時多発テロではなく、国内過激派の犯行である1993年のニューヨーク・ワールドトレードセンターや1995年のオクラホマシティー・連邦政府ビルの爆破事件であることも指摘。米国のテロの脅威は国内に戻ってきているために対策が必要だと説いた。