しかし、この長い景気拡大のペースはあまりに緩慢である。過去7年の実質経済成長率はわずか年平均1.9%。しかも、その前の景気後退中にはリーマン・ショックがあり、米国経済は4%も収縮していたから、この程度の拡大では金融市場にも、企業にも、そして有権者にも景気がよくなったという実感が生じない。認識はむしろ長期停滞だった。今年の大統領選で共和党候補に政治家でない不動産王ドナルド・トランプ氏が指名されたことも、民主党候補に指名されたヒラリー・クリントン前国務長官が選挙戦では不人気に苦しんだのも、この長期停滞が強く影響している。
専門家の中で、この長期停滞を最初に米国経済の構造的な問題として指摘したのは、2013年11月、オバマ政権1期目にNEC(国家経済会議)委員長を務めたサマーズ元財務長官だった。米国経済が慢性的に投資よりも貯蓄が好まれる状態になり需要不足が生じて低い経済成長が続いてしまうという同氏の主張に対しては、当時は異論も多かった。しかし、その後3年も投資の停滞と低い経済成長が続き、長期停滞は事実になっている。しかも投資不足が長引いて、米国経済の労働生産性の伸びが低下し、潜在成長率も2%を割り込むようになっている。
過去に比べた潜在成長率の低下は、米国でも高齢化は緩やかに進み、人口の多いベビーブーマー世代が引退年齢を迎えていることから避けられない現象なのだが、長期停滞では現役世代でも失業状態が長引いて労働能力を失い、労働市場から退出してしまう人が増えてしまう。実際、現役世代で就業をあきらめる人の割合は、金融危機前と比べてかなり多くなっている。その結果、潜在成長率が高齢化で予想された以上に低下してしまっているのだ。