筆者の住むペンタゴン(米国国防総省)近くで、太鼓や鐘が打ち鳴らされ歓喜の声が上がったのは、2020年11月3日の選挙から10日余り後のことだ。それは、バイデン候補(当時)の当選が確実となり、それを祝う人々の歓声だった。それから15カ月。大統領の支持率は政権発足時の53%から今年の2月半ばには41%まで落ちた。本稿では、バイデン政権の政策とその効果から、この凋落の背景を探る。
バイデン政権の一年を振り返ってみると、大統領自らがリードし、骨太の変革を目指して取り組んだ政策と、当面の政策遂行を省庁に委ね、時間をかけて取り組もうとした政策があることが分かる。
まずバイデン主導の政策を見てみよう。これはコロナ対策をはじめとした国内政策だった。前政権時にそれまでの外交・通商政策の多くが覆され、アメリカの信頼は傷ついた。海外で再びリーダーを標榜するには、選挙を経ても変わらない、持続安定感のあるアメリカの再生が必要だった。そのためにはまず国内。これがバイデン大統領の頭にあったはずだ。国内政策推進の軸となる方針は二つ。所得格差是正とマイノリティ地位向上だった。所得格差対策として、足元では、コロナで傷ついた家計への所得補償や育児補助。中長期的には、製造業国内回帰やインフラ投資による雇用創出、労働組合梃入れ等の策が示された。マイノリティ対策としては、黒人への暴行が問題視された警察の改革、LGBTQの地位向上を目指す動きが見られた。この方針の下、バイデン政権高官は、性別・人種において多様性に富む顔ぶれが占めることとなった。
省庁に委ねた分野には、対中をはじめとした外交・通商政策、移民政策が含まれた。こうした政策の多くは前政権のそれを引継いだ。対中関税はそのまま残った。対ベネズエラ制裁が見直されることはなかった。移民問題は、国境の壁建設や入国制限等が廃止された一方で、その他の施策は継続された。