ポトマック河畔より#40 | 15カ月後のバイデン政権

これは、丸紅グループ誌『M-SPIRIT』(2022年4月発行)のコラムとして2022年2月に執筆されたものです。

丸紅米国会社ワシントン事務所長 峰尾 洋一

支持率はわずか41%に

筆者の住むペンタゴン(米国国防総省)近くで、太鼓や鐘が打ち鳴らされ歓喜の声が上がったのは、2020年11月3日の選挙から10日余り後のことだ。それは、バイデン候補(当時)の当選が確実となり、それを祝う人々の歓声だった。それから15カ月。大統領の支持率は政権発足時の53%から今年の2月半ばには41%まで落ちた。本稿では、バイデン政権の政策とその効果から、この凋落の背景を探る。

バイデン政権の一年を振り返ってみると、大統領自らがリードし、骨太の変革を目指して取り組んだ政策と、当面の政策遂行を省庁に委ね、時間をかけて取り組もうとした政策があることが分かる。

まずバイデン主導の政策を見てみよう。これはコロナ対策をはじめとした国内政策だった。前政権時にそれまでの外交・通商政策の多くが覆され、アメリカの信頼は傷ついた。海外で再びリーダーを標榜するには、選挙を経ても変わらない、持続安定感のあるアメリカの再生が必要だった。そのためにはまず国内。これがバイデン大統領の頭にあったはずだ。国内政策推進の軸となる方針は二つ。所得格差是正とマイノリティ地位向上だった。所得格差対策として、足元では、コロナで傷ついた家計への所得補償や育児補助。中長期的には、製造業国内回帰やインフラ投資による雇用創出、労働組合梃入れ等の策が示された。マイノリティ対策としては、黒人への暴行が問題視された警察の改革、LGBTQの地位向上を目指す動きが見られた。この方針の下、バイデン政権高官は、性別・人種において多様性に富む顔ぶれが占めることとなった。

省庁に委ねた分野には、対中をはじめとした外交・通商政策、移民政策が含まれた。こうした政策の多くは前政権のそれを引継いだ。対中関税はそのまま残った。対ベネズエラ制裁が見直されることはなかった。移民問題は、国境の壁建設や入国制限等が廃止された一方で、その他の施策は継続された。

支持率低下を招いたのは、自ら指揮した政策か

では、こうした政策のどの部分が、現状の低支持率を招いたのか。筆者は、大統領が自ら指揮した政策にその原因を見る。

格差解消を目して給付された政府資金はインフレを呼んだ。実は、バイデン政権誕生以前に総額4兆ドルのコロナ対策支援が投じられていた。企業向け支援で倒産は防がれ経済の骨組みは維持された。家計は、給付金や融資・家賃の支払繰延で手元現金を増やし、消費の落ち込みは短期間で終わった。新政権誕生時にはワクチン接種も開始されており、経済は回復軌道に乗っていた。そんな中、さらに追加の2兆ドルの財政出動が行われる。外出の制限が残る中、余った金はモノの購入に向かった。政権発足から3カ月もたつと、近年経験したことのない価格上昇が起きていた。

マイノリティ地位向上のための警察改革には、人道的な対応の導入や、警察の予算を減らす動きも含まれた。これらは直接的にはバイデン政権の問題ではないが、政権と議会を押え勢いに乗る民主党側が推進した政策だ。こうした動きと時を同じくして犯罪件数が増えた。両者の因果関係は判然としないが、警察の縮小と犯罪増加は容易に関連付けられてしまった。

バイデン政権の苦戦はこのまま続くのか。そうならないシナリオはあると思う。給付金は徐々に底を尽き、人々の買い物熱も冷却するかもしれない。犯罪の増加を受けて、警察予算を増やす動きも出てきている。それが犯罪抑制に機能することも考えられる。

その中で、バイデン政権にとってのリスク要因は何だろうか。例えばアフガン撤退時のような事件の再発だろう。決定打の見えない対中政策かもしれない。さらに、ロシア・ウクライナ問題、特にそれが一般市民に影響が及ぶようになると、政権の痛手になるだろう。

こうした複数の要素が、バイデン政権の今後に影響を与えていく。2022年の中間選挙は、このダイナミクスを考えると容易に目が離せない。