第1回 ※で取り上げたのは、2009年1月に行われたオバマ前大統領の就任式。当時の米国は深刻な金融危機に陥り、市場も経済も就任式当日の天候のような厳寒の様相だった。この就任式に過去最高の約180万人の観衆が押し寄せたのも、「オバマ新大統領に米国の再生を賭けるしかない」という期待の表れだった。
オバマ前政権はその期待にある程度は応えた。同政権の景気・金融安定策とFRBの超金融緩和により、暴落していた株価が先行して09年春に底打ちし、同年半ばには景気も回復に転じた。そこから始まった景気拡大は今も続いている。大恐慌再来の恐れさえあった米国経済を、緩やかとはいえ回復に導いたオバマ前政権とFRBの功績はもっと高く評価されてよいと思う。
とはいえ有権者の評価がそれほど高くないことにも意味がある。景気回復の恩恵が企業と高所得層に集中し、中所得層以下である大半の米国民が回復を実感できなかったからだ。オバマ前政権と民主党にとって、その政治的コストは非常に大きく、議会選での不振の連続や16年大統領選の敗北につながった。
当時の深刻な金融危機に対して、超金融緩和を続けて資産価格のてこ入れを促すという政策は適切だった。いや、他に選択肢はなかっただろう。前政権にとっての誤算は、家計の所得格差の拡大や企業の経営姿勢の保守化によって、資産効果が景気拡大の加速や幅広いセクターへの波及につながらなかったことだ。雇用の回復も遅れ、12年の大統領選直前の失業率は8%近くに高止まり。オバマ氏の再選が阻まれてもおかしくなかった。
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