5月下旬「ニューヨーク・タイムズ」の論説面を開いた筆者は驚いた。ミシェル・オバマ大統領夫人が寄稿した「ジャンクフード・キャンペーン」という見出しの論説が載っていたのだ。
ミシェル夫人は、熱心に子供の肥満対策に取り組んできた。その成果が、2010年12月の「子供たちの栄養法」の成立と全米学校給食プログラムの新栄養基準である。しかし、同基準に基づいて学校給食が刷新された昨秋から1年も経たないのに、議会では共和党が「新栄養基準を骨抜きにする法案」を提出する事態になったので、夫人は反撃に出た。政治の表舞台とは距離を置いてきた夫人の寄稿は、子供の肥満撲滅運動に対する思わぬ逆風への危機感の表れである。
同法案は、せいぜい下院を通過するまでで民主党が多数派の上院で廃案になるだろう。それでも、子供の肥満を減らすために学校給食のメニューからジャンクフードを減らして野菜や果物を増やそうという科学的な裏付けを伴う正論が、ここまで簡単に追い込まれるとは、筆者にとっても衝撃である。
新栄養基準への反対の声は、昨年秋の時点で給食を利用する子供や運営する栄養士からは上がっていた。慣れ親しんだメニューが消え、野菜や果物を食べなさいといわれた子供たちは、給食がおいしくないと反発して野菜や果物は食べずに捨ててしまった。総摂取カロリーの抑制も、量が足りないと文句を言う子供を増やすことになった。栄養士からは「ジャンクフードに比べて野菜や果物は高価なため、コストがかさむ」「メニューが組みにくい」といった反発の声が上がった。
もっとも、こうした現場の反発を連邦政府や肥満撲滅キャンペーンを推進する側は理解していた。子供が野菜や果物を嫌わずに食べるようになる方法や、野菜や果物を増やしてもコストを抑えるメニューの開発など、新栄養基準を定着させるための啓発運動も進められ、成果も上がりつつあった。それだけに、現場の反発の声が中心になって下院での法案通過の見通しになったとは考えにくい。