コロナ感染拡大から3年が経つ。だが、あの緊張感と不安感は未だに記憶から消えることはない。全ては急激だった。数日前まで普通だった町中のレストランやカフェから忽然と人が消えた。事務所に行けなくなった。早朝のスーパーに長蛇の列ができ、ようやく中に入ると見渡す限りの棚が空だった。生活必需品が買えず、フードスタンプ取り扱いの店に行った。そういう店では買い溜めする客が少ないから、という友人のアドバイスだった。事実、そこには不思議なほど品物が残っていた。マスクにも事欠き、ガーゼとゴム紐でマスクを作った。街に出ると、どこから調達したのだろう、ガスマスクをつけて歩く者がいた。アパートのエレベーターの空気が殺伐となった。それまでにこやかに挨拶していた隣人に、距離を取られ睨みつけられるようになった。一触即発。まさにそんな感じだった。
それが今。ここでコロナの残像を見つけるのは困難だ。店はモノで、レストランは人で溢れかえる。マスクを見かけるのは稀だ。イベントでは、人はためらいなく握手し、ハグし、密閉、密集した空間で声を張り上げる。コロナはもはやバックミラーにも映らなくなった。事実、指標を見ればアメリカ経済は思いのほか好調だ。過熱した景気は徐々に収まる一方で失業率は歴史的な低レベルを更新する。バイデン大統領が自らの経済政策を自慢しても、異を唱える者は多くないだろう。
一方、マクロ経済指標から一度目を離して生活実感を見直すと、やはり腑に落ちないことが多い。まず、上昇率は落ちてきたものの、物価は高いままだ。2022年、豚肉は8.7%、鶏肉は14.6%、乳製品は12%、卵は32.2%値上がりした。外食はそこまでではないが7.7%だ。ファストフードの店で、昔は考えられなかったチップを要求される。それも「標準チップ」として20%だ。3年前、2~3年内の航空旅客数の回復を予測したら笑われたものだ。それが今、国内線の航空券は年間12.7%で上昇している。それだけではない。高い値段を出しても欲しいものが手に入り難くなっている。レストランでメニューに載った料理を注文しても平然と断られる。人手不足で作れないからだ。銀行に行って両替しようとしたら現金が足りないと断られる。こちらも現金運搬の回数が減らされたことが原因だ。サービスエリアのレジに人が少なく長蛇の列になる。トイレの清掃も手が回っていない。