今年4月、オハイオ州コロンバスで16歳の少女が、警官に射殺される事件が起きた。奇しくも、昨年5月ミネソタ州で起きた警官による黒人男性暴行死事件で、元警官に有罪評決が下る直前のことである。この男性暴行死事件に端を発した抗議活動が、選挙直前のタイミングもあり、全国的な抗議運動に発展したことは記憶に新しい。今回の件も、白人警官による黒人少女射殺、ということで人々の耳目を集めることとなった。今年に入ってからの警官による射殺件数は既に300件を超えているが、 黒人に係るものは60件を超えており、人口比で大きな割合となっている。
白人警官と黒人の関係に加えて、事件の現場が少女の里親の家だったことも注目に値する。この少女が児童養護の対象となったのは、この事件の数年前のことだ。元々父親は別居しており、母親が一人で5人の子どもを育てていたが、親子間には問題があり、祖母が子どもを預かることとなる。ところが、この祖母が契約外の人数を自分のアパートに同居させたことで家主から退去を求められ、結局、子どもたちは別々の児童養護施設に入ることになった。少女がグループホームや里親を転々とし、今の里親のところに来たのは今年の2月だった。この里親の家には、この少女と少女の妹が住んでいたようだが、少女たちと里親との関係も必ずしも良好ではなく、事件の前にも、少女側・里親側の両方から複数回にわたって警察への通報があったと聞く。
アメリカの児童養護の施設には、里親・グループホーム・規模の大きい施設・精神疾患や薬物依存の治療を行う施設等が含まれる。2019年のデータでは、こうした施設に住む児童数は42.4万人。その中、里親に預けられている数が一番多く、32.9万人(全体の78%)であった。日本で里親や児童養護施設に住む児童の数は、2018年時点で4.6万人である。単純比較はできないが、この数字だけ見ればアメリカでは日本の9倍以上の児童が何らかの児童養護の対象となっていることが分る。
今回の事件は、以前この里親の元にいた里子が家を訪問したことから始まる。元里子の女性と、少女・妹がささいなことで言い争いとなる。争いの中で両者が応援を呼び事態はエスカレート。刃物が持ち出され、少女の妹が警察を呼んだ。たまたま警官が到着した時にナイフで相手を襲おうとした少女が撃たれることになった。