ScopeNEXT GENERATION #3 | 丸紅ベンチャーズ

オンラインショッピングに「リアルな顧客体験」を

Eコマースの出現により、我々の買い物の在り方はがらりと変わった。より幅広い選択肢を享受できるようになった一方、購入の意思決定に繋がるようなコミュニケーションや買い物を通じた様々な体験の機会は減ってしまったといえるからだ。

最新技術を活用して従来の買い物の在り方の「良い部分」を取り戻す方法を考えたのは、丸紅ベンチャーズが2021年4月に出資を発表した、シリコンバレーに拠点を置くスタートアップ企業Shop LIT Liveだ。同社は店舗を訪れるという顧客体験をオンラインで行う仕組みを創り出した。この世界では、スタイルやトレンドを知る専門家としてソーシャルメディアのインフルエンサーが様々なブランドや製品を説明し、参加した消費者から質問をリアルタイムに受け付けることで、双方向的なコミュニケーションを実現している。

「この方法により、インフルエンサーと消費者がお互いのニーズを知ることができ、さらに消費者は商品を購入する意思決定をするうえで知りたい情報を入手できます」と語るのはShop LIT Liveの創業者、Toby Zhangだ。「インフルエンサーは私達のビジネスモデルにとって欠かせない存在です。いわゆるブランドイメージを作るうえで『本物の声』を提供してくれるわけですから」

Shop LIT Liveにとって重要なのは一定数以上のファンを有するインフルエンサーだけではない。インターネットのオープンな特性を反映したこのプラットフォームは、新規のコンテンツ提供者や企業の上層部までもターゲットにしている。「必要なのは、最新のトレンドを見極める目、製品とその後ろに秘められたストーリーに対する情熱、そして魅力的で親しみやすい存在感です」と同社のウェブサイトには綴られている。

サンフランシスコで2020年3月に設立されたこの会社は、そのわずか6カ月後にオンライン展開を開始、既に大小合わせて200以上のブランドにプラットフォームを提供し、100人以上のインフルエンサーがホストを務めるプログラムを提供するなど、早くも事業を軌道に乗せつつある。すばやく行動に移すことが消費者のニーズを満たすために不可欠であることを証明した形だ。実際、こうしたインフルエンサーが主催するライブイベントで紹介した商品の購入率は非常に高い。一般的なECサイトにおいて、実際に商品の購入に至るのはサイト訪問者の1%から1.5%であるのに対し、Shop LIT Liveのライブイベントでは参加者の10%から15%が購入する。

もっとも丸紅ベンチャーズにとっては、これはあくまでShop LIT Liveの魅力の一部にすぎない。

「私たちが最も注目したのは、多くのグローバルトレンドが融合していることです。ソーシャルメディアとEコマース、この2つが融合しており、人々はインフルエンサーをフォローすると同時に、より深い形で製品とつながる方法を見つけることができるのです」 と語るのは、シリコンバレー支店のシニア・ベンチャー・アソシエイトでShop LIT Liveへの投資を担当する、Tristan Jenningsだ。Jenningsによると、Shop LIT Liveのコンセプトは、人と人との関わりが薄いEコマースの世界に、ショッピングの重要な要素を取り戻すものだという。「Shop LIT Liveが提供するのは、まるでお店を訪れたかのようなパーソナライズされた体験です。単なる取引というよりは、インフルエンサーが信頼できる情報源となり、商品購入までの手助けをしてくれるお店の人のような役割を担っているのです」

強みを生かした独自の投資メソッド

Shop LIT Liveのように新しい分野で急成長するスタートアップ企業に投資するには、スタートアップ市場のトレンドを察知して迅速に行動する能力が必要だ。なかでもスタートアップ企業がひしめくシリコンバレーでは、有望な企業への出資をめぐる投資家の間の競争が激しい。意思決定に時間がかかると、他の投資家に出資枠をさらわれかねない。「シリコンバレーに合った投資先の発掘から投資実行までのプロセスを確立するために、相当の苦労がありました」と、同じくシリコンバレー支店のディレクター、Mark Sherは語る。スタートアップ企業のスピードに遅れをとらず迅速な投資を行っていくために、小規模な組織ながら丸紅ベンチャーズには、大きな権限を与えられている。より良い社会の実現に繋がる革新的なスタートアップ企業であると判断した場合には、自社の独立した承認プロセスで投資の意思決定を行うことができるというものだ。「最初にコンタクトしてから早ければ2カ月以内に投資を実行しています」と同社の代表取締役社長、マネージング・ディレクターである枝 洋樹は説明する。これまで丸紅ベンチャーズは、Shop LIT Liveの他に、生鮮食料品のオンラインマーケットプレイスを運営するGrubMarket、画像データのプライバシーを保護する技術を持つイスラエルのD-ID、IoTデバイスにおけるAIアルゴリズムの高速実行などに利用できるフラッシュメモリを開発している日本のフローディアなどに投資を実行してきた。

こうしたスタートアップ企業への出資を行ううえで、上述した革新性に加えて重視しているのが、「投資先とのリアルな繋がりを継続的に保つことができるか」である。Shop LIT Liveの場合、創業者のToby Zhangは会社設立を構想する前から丸紅のメンバーと仕事をしており、そこで築かれた信頼があったことが、投資の意思決定において決め手の一つとなった。投資実行後も事業支援などを通じて創業者を中心とした経営幹部とのリアルな繋がりを持つことで、投資先との信頼関係を深めることができ、ここでは丸紅グループがこれまでさまざまな事業領域で培ってきた実績や知見、グローバルなネットワークが重要な役割を果たす。Sherは話す。「シリコンバレーのスタートアップ企業の人達は、しばしば丸紅の規模や幅広い事業分野に驚くかもしれません。しかしすぐに、我々が提供できる価値の大きさを理解してもらえるでしょう。丸紅のグローバルネットワーク、幅広い事業分野、グループ会社、そして新しいことに挑戦する意欲、ここではこれら全てが強みとなります」

Shop LIT Liveにとって、丸紅がもたらすメリットは明らかだ。丸紅は、人材採用や国際的なブランドへの成長まで、Shop LIT Liveを様々な側面からサポートしている。「私たちは成長を続け、現在の市場を超えていくという野心的な目標を持っているので、丸紅とのパートナーシップをより深め、この目標の実現を支援してくれることを期待しています」とToby Zhangは語る。

既存の事業領域にない“White Space”を開拓する

世界に45,000人以上の従業員を抱える丸紅グループと比べ、創業して間もないスタートアップ企業の規模はまだ小さい。しかし、こうしたスタートアップ企業に投資を行う丸紅ベンチャーズは、2030年に向けた丸紅グループの成長戦略において重要な役割を担うことが期待されている。既存事業の持続的な成長に加えて、次世代の事業開発を行うことが、丸紅グループの長期的な目標の柱になっているためだ。

枝は今後の展望を語る。
「丸紅ベンチャーズがグローバルな投資活動を通じて得た知見と、丸紅グループが積み重ねてきた経験やグローバルネットワークを融合させることで、これまでになかった新しいビジネス領域を生み出し社会に貢献していきたい」

(本文は、2021年3月の取材をもとに作成しています)