Scope#43 | 穀物事業
世界の食を支える穀物トレード
By James Simms
「Farm to table –農場から食卓へ–」と聞くと、料理人や消費者が夕食の食材を地元のファーマーズマーケットで買うシーンが思い浮かぶ。しかし丸紅グループが取り組む「Farm to table」はもう少し、いや、かなり複雑で、奥が深い。
日本で人々が食べる穀物や家畜飼料を安定的に確保するためには、数千キロ先、太平洋を越えてアメリカ大陸中央部からの調達が必要だ。その間には、何百人、何千人もの人々の手が介在している。穀物の市場予測、栽培、収穫、調達、加工、検査、輸送といった工程が、安全かつタイムリーに執り行われる必要があり、緻密な連携が不可欠だ。
このグローバルなサプライチェーンで中心的な役割を担っているのが、丸紅の100%子会社でオレゴン州ポートランドに本社を置くColumbia Grain International社(CGI)だ。CGIは、太平洋岸北西部における、小麦やとうもろこし、大豆といった穀物輸出市場の最大の供給業者の1社に数えられている。太平洋岸にある輸出ターミナルを2つ運営するPacificor社株式の約46%を保有して、調達から輸出までを一気通貫で担う。

CGIの CEO で、同社で 34 年のキャリアを持つジェフ・ヴァン・ペヴェニッジは次のように語る。 「CGIには独自のサプライチェーンがあります。中西部北部と北西部の穀倉地帯全体に穀物倉庫を保有し、文字通り「農場から食卓へ」穀物を届けることができます。わたしたちは、市場を開拓し、農家の生産環境を整え、物流網を構築し、穀物を世界中の消費者に届けることを使命としています。」

丸紅は、CGIのサプライチェーンを通じ、米国産小麦、とうもろこし、大豆などの穀物を日本に輸入している。輸入量におけるマーケットシェアは小麦では50%、とうもろこしでは約20~25%を占めている。 「グループ全体で穀物の安定供給に取り組んでいます。CGIは米国内陸部での調達・集荷を、Pacificorはターミナルから世界中へ輸出を、そして丸紅はCGIや他の企業からの調達、販売、陸上・海上物流を、そして、日本のパシフィックグレーンセンターでは、世界各国から輸入される穀物の荷降ろしや、一時保管を担う等、グループ各社が各々の役割を全うし、お客様に届けています。」とCGIのトレーダーである渡邊友太郎は言う。
日本の穀物自給率は他の先進国と比べても著しく低いため、穀物の安定供給は極めて重要だ。例えば、農林水産省によると、小麦の自給率はわずか29%(イタリア66%、英国77%)でOECD加盟38か国中32位である。飼料もわずか27%に過ぎない。「丸紅グループは日本企業で、米国の内陸集荷に注力している数少ない企業です。たとえ紛争やパンデミックなど不測の事態が起こったとしても、独自の調達網や50カ所以上の穀物倉庫を活用し、他社から高値で買わざるを得ない状況に陥るリスクを回避できます。こうして安定的に需要に応えることができるのが強みです。」
売買だけにとどまらない農家との包括的なパートナシップ
50年程前の創業当初、CGIが持つ穀物倉庫は3つのみであった。その後、穀物倉庫の増設・買収を通じて事業を拡大、現在は調達のみならず、肥料や種子などの資材も提供するアグロノミーサービスも始め、農家にとってのワンストップ・ソリューション企業へと成長している。

アグロノミーサービスでは、例えば、過去の作付け実績や市場の動向に基づいた品種選択のアドバイスや、土壌の状況に応じた施肥調整のコンサルティングなども行う。さらに、収穫量の経時変化を示した衛星画像の使用により、農家が施肥や植え付けを調整し、収穫量の最大化を図る作業にも貢献する。「これらは農業においてとても重要な要素です。同じ農場でも土壌のタイプは様々ですが、施肥調整で農場の画一化ができれば肥料の無駄を削減できます。アグロノミーサービスにより収穫量が増えればCGIの買い付けが増え、収入が増えた農家はさらに作付量を拡大し、それがさらなるアグロノミーサービスの利用につながる。このようにして農家との信頼関係が深まり、ビジネスも拡大していくのです。」とアルビラ拠点に勤務するアグロノミストのコール・ラバレーは言う。

ニューロックフォード拠点で穀物の買い付けを手がけるハンター・デイビスは、農家に市場情報を提供し、農家の収益性を最大化するための販売方法、契約体系の提案・アドバイスを行っている。
現在では、取引の約半分が最低価格を保証した先物取引であり、農家が市場リスクをおさえて安定的に収益を確保できる体制を整えている。また、農家の資金繰りを考慮した施策として前払契約なども提供する。「穀物を調達する際に、業者が競争上の優位性を得るためには、ビジネス上および個人的な信頼関係を構築・維持し、その改善をはかるのが極めて重要です。」
ノースダコタおよびネブラスカ地域担当副社長のセルジオ・ヘルナンデスも「農家との信頼関係構築と多種多様なサービス提供力が、おそらく私たちの最大の強みです。」と付け加える。
こうした彼らの取り組みは、確かな成果を上げているようだ。
ノースダコタ州で3代目農家を営むテリー・ペッツィンガー氏は、収穫した作物の約95%を、20年近くCGIに卸している他、種子や肥料の資材購入といった農業サービスも利用しているという。「CGIには穀物を育てるのに必要なものがすべて揃っています。まさに、市場のリーディングカンパニーといえます。」と収穫したとうもろこしをCGIの穀物倉庫に運ぶ道中に話してくれた。
穀物のジャーニー

収穫シーズンである10月、ニューロックフォード拠点では、開店午前9時の15分前には20トンのとうもろこしを積んだトラックがすでに穀物倉庫の前に並んでいた。ピーク時には1日で300台以上のトラックで穀物が運び込まれるそうだ。

買い付けた穀物は穀物倉庫で一時保管された後、110両編成の鉄道や川船、トラックで約2500キロ先のPacificorの輸出ターミナルに輸送される。そこで再度品質検査を行い、通関後に船へ積載される。そして約2週間の航海を経て日本に到着し、パシフィックグレーンセンターが所有する拠点に運び込まれる。荷降ろし後は、エンドユーザーの需要に応じて、ベルトコンベアで直接つながれた工場へ送られるか、トラックや廻船での国内の他拠点へ配送される。こうして最終的に小麦粉、油、飼料に加工され、わたしたちの食卓に届けられている。

農家のペッツィンガー氏はいう。
「私たちの穀物が世界の人々に届けられることをとても誇りに思います。この仕事に携われて幸せです。」
(本文は、2024年10月の取材をもとに作成しています)
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