Scope#33 | GridMarket
世界中に散らばるデータを活用し、電力消費量を抑える - その建物に合った解決策を
By William Sposato
インターネット時代に必要不可欠な、電気を供給する送配電網が危機に瀕している。電力供給システムはトーマス・エジソンの頃からほとんど変わっておらず、自然災害や技術的なメンテナンスの難しさ、老朽化による故障のリスクにさらされている。一部の起業家にとって、これらリスクが好機となっている。最新技術を活用し、需要が高まる電力供給システム全体の再構築を図っているのだ。
この新分野に取り組んでいる勢力の一つが、GridMarketである。GridMarketは2014年に設立されたスタートアップで、分散型電源の新時代を担う強力なオンラインプラットフォームを構築している。いまや顧客は電力を供給されるだけの立場ではなく、供給側のパートナーともなるのだ。
「我々が分散型電源に関する議論を続けていくことが、より効率的で耐久性のあるグリッド(電力供給設備)を実現する方法を見つけていくことに繋がります。電気の需要家たちが、自ら電気を発電し、コントロールできるようになることで、電力供給において彼らの担う役割は更に大きくなっていくでしょう」とGridMarketの共同創業者であるNicholas Davis CEOは語る。
GridMarketのプラットフォームは、世界中の3億6000万を超える不動産データ等、何十億ものデータを含むデータベースによって構築されている。これらのデータは、太陽光発電や燃料電池などを始めとした分散型電源に関わる、顧客、ソリューションプロバイダー、政府などに活用される。建物それぞれについて、予測分析と共にプロファイルがまとめられ、最適な電力調達の方法を見つけることができるのだ。
1970年代に先進的なデザインで注目を浴びたブルックリンの低所得者向け住宅マーカス・ガーベイアパートメントは、今日再び分散型電源モデルの一例として注目される。6つの街区にわたるこの住宅団地に設置された、ニューヨーク初の複合的分散電源プロジェクトは、GridMarketが導入を支援したものだ。太陽光パネルや、燃料電池、蓄電池を導入し、自らの発電・蓄電設備を持つことで、災害時でも安定的な電力の確保が可能となった。
「マーカス・ガーベイはGridMarketと分散型電源市場にとって最初の成功事例です」とDavis氏は語る。「様々な分散型電源を導入することで、大幅なコスト削減と、災害時の電力供給源確保、環境負荷の低減が実現されました」。
分散型電源が実現する、3つの“Save”:コスト、エネルギー消費量、そして命
2003年にアメリカ北東部で発生した過剰なグリッドの使用による大規模停電を機に、Davis氏は、従来のシステムを見直す必要があると確信した。2012年のハリケーンSandy上陸により一部の都市で2週間電気が止まり、病院などの主要施設での救命設備が使用不可となったことで、Davis氏は再びこの思いを強くした。
「電気は私たちの生活になくてはならないものです。今日の私たちの生活は、デジタルデバイスに依存しています。当たり前のように感じるデジタルライフはすべて電力に依存しているのです」とDavis氏は言う。
GridMarketはデータやアルゴリズムを活用した同社のプラットフォームを通じて、それぞれの建物に合った解決策を提供する。さらには潜在的なコストメリット、環境的価値など、詳細な効果を予測できる。これらの分析機能は顧客に最適な解決策を提供するために役立てられる。
「私たちのプラットフォームを活用することで、不動産のオーナーは電気代削減方法を知ることができます。気温、風速、ヒートマップなどの様々な条件を変えて、どこに改善の余地があるかを示せるのです」とGridMarketのシニア・プロジェクトアナリストのRobert Gottsegen氏は語る。
オープンであることがGridMarketの重要な特徴だ。高額のフィーを支払って雇うコンサルタントや複雑な契約を取っ払い、アプリに登録するだけでだれもが電気代の節約方法を確認できる。
GridMarketのプラットフォームは、プロジェクトの初期検討段階のみに活用されるものではない。顧客は電気代削減の可能性を知るだけでなく、プラットフォーム上で分散電源導入の意思を表明し、GridMarketが認証したベンダー各社がこれらの案件に提案を行い、顧客はその中から最適な提案を選ぶことができる。そのほか、予定通りに電力削減が実現しているかを確かめるための分析ツールも提供している。こうした一連のデータは、データベースに蓄積され、プラットフォームの更なる向上に役立てられる。
相互に利益をもたらすパートナーシップ
日本の大手総合商社で、グローバルに電力事業を展開する丸紅は、GridMarketに可能性を見出し、出資参画した。丸紅にとって、GridMarketから提供される豊富なデータは、丸紅が持つ幅広いエネルギー関連の商品やサービスを提案する際の武器となる。
「GridMarketと協業することで、分散型電源という新しいアプローチから得られる具体的な利益を、不動産オーナーに理解してもらえるようになりました。これがパートナーシップの狙いです」と本案件の主担当者である丸紅米国会社の長井は語る。
GridMarketにとって丸紅は、不動産、電力、アジア市場に関するキーデータから世界中の顧客ネットワークまであらゆる側面から支援するパートナーだ。「丸紅は素晴らしいパートナーです。彼らの世界規模のサポートによって私たちの発展は加速するでしょう」とDavis氏は話す。
スピードとシンプルさが潜在顧客にとってカギになる。New York Health and Racquet Clubで財務部の副部長を務めるAlexis Geller氏は、日頃から公共料金の値段が高過ぎると感じていた。フィットネス設備、冷暖房、照明、ガスの料金が経費の大半を占め、従業員の給与の次に高かった。節約しようと考えても無数に存在する規制や優遇税制の1つ1つを確認するのは、悪夢のように骨が折れる。
「私たちの電力料金をGridMarketのアルゴリズムに投入したところ、こんなに電気代を削減できるものかと驚きました。他社や同僚にGridMarketを使ってみるように教えたくらい、衝撃的でした。」
マンハッタンから遥か離れた地域にも顧客が存在する。GridMarketはサモアやトンガといった太平洋諸島でも分散型電源の普及に貢献している。サモアは、自国の電源を100%再生可能エネルギーとすべくGridMarketを通じて入札を開始。「サモア首相は数カ月で入札手続きを終えることを望んでいる」とDavis氏は語る。
電力の将来を先取りする
新たなエネルギーのインフラ構築を迅速に行い、二酸化炭素の排出量を減らすことは、環境や顧客のためであることはもちろんGridMarket、丸紅にとって重要な命題である。
「丸紅はこの分野に大きな可能性を見出しています。分散型電源が普及した世界が実現すれば、当社がそれを先導するためには、技術的な知識の深化、ビッグデータへのアクセス、各分野の専門家をまとめて大規模なプロジェクトを管理する能力等が必要になってきます。GridMarketとのパートナーシップは幅広い専門性を獲得するための戦略的投資の一部です。これらの活動を通じて分散型電源市場に関わる多くのステークホルダーを支援し続けることで、今日にはない新しい価値を創造できるようになると信じています」と長井は語る。
公共事業体も分散型電源の登場を「脅威」ではなく、「機会」と捉えて動き始めている。ニューヨークの電力供給会社、Consolidated Edisonはマーカス・ガーベイプロジェクトに対して補助金を拠出した。そして、これは決して慈善活動ではない。同地区において分散型電源システムに約2億5000万ドル投資することで、12億ドルかかるローカルグリッドの補修の必要がなくなったのだ。この投資は、堅実な経営判断であり、まさにGridMarketが描く将来のビジョンとも合致するものであった。
「分散型電源はとても複雑な領域です。私たちのプラットフォームの目的は、この複雑さを生み出しているあらゆる要素を集約し、シンプルな答え、解決策を導き出していくことです。」とDavis氏は語る。
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