Scope#13 | Agrovista
環境へのやさしさを念頭に、農業にイノベーションを
By James Simms
MAIDWELL, England ─ こちらの畑には雑草がはびこる一方で、ほんの20m離れた場所では、見事な小麦畑が広がっている。
しかしここはただの農場ではない。ここでは様々な種類のカバークロップがテストされている。昔からある手法だが、農家は収穫後、次の播種の間に、雑草除去・土壌改良の為に、作物としてではなく、こうしたカバークロップを植えるのだ。これが農薬や肥料の過剰散布の防止にも繋がっている。
近年、雑草に対する農薬の除草効果は薄れてきており、一方で農薬や肥料に対する政府の規制強化や消費者の意識向上によって農家の負担は増加している。英国だけでなく世界的に環境に優しく、経済的かつ効率的な農法へのニーズが高まっている。
今日、小麦や大麦の農場に生える雑草、とりわけブラックグラスと呼ばれる雑草に多くの農家が悩んでいる、とAgrovista UK Limitedの社長であるChris Claytonは語る。Agrovistaは売上1億5千万ポンド超と、英国では売上規模において第3位となる農業資材販売会社だ。
「このブラックグラスはこれまで使用されてきた多くの農薬に対して耐性ができてしまい、農家に対し深刻な負担となっています。この雑草を農薬だけに頼らず如何に抑え込むか、が我々の研究開発チームの課題となっています。」
カバークロップは経済的で環境にもやさしい有効な手段だが、植え付けるタイミングや作物との相性を緻密に考えながら使う必要がある。カバークロップは何十年も前から使われてきてはいるが、その効果はまちまちだ。一番効果的な使用法を見つけ出すには、膨大な時間と知見、投資が必要となり、科学的なトライアルを繰り返していく必要がある。
この4年間で、アグロビスタでは40エーカー(16ヘクタール)のLamport試験農場でブラックグラスの抑制法を研究してきた。14区画でのテストの結果は、雑草の密集度や作物の収穫量を見れば明らかだ。特に、冒頭に紹介した2つの区画では大きな差が出ている。
最も成功した事例では、除草剤とカバークロップとなるオーツ麦、ベルシーム・クローバーを組み合わせ、その後に春小麦を植えたケースにおいて、ブラックグラスが“極端に”減っただけではなく、収穫量が20%も増加したとAgrovistaのアグロノミスト(農業技術普及員)、Robert Sheetsは語る。雑草が大量に生い茂ってしまった区画では、除草剤だけに頼っていた。
R&Dを通じて、より高付加価値分野へ
カバークロップの大きな成果の背景には、Agrovistaの長年の努力と投資がある。業界きっての研究開発プログラムを持つAgrovistaにとってカバークロップは一例でしかない、とClayton社長は言う。Agrovistaが稼いだ利益の中からR&Dにお金を廻す比率は、おそらく競合他社よりも上だ。
「私たちは我々の顧客たる農家に実用的な解決法を提供する為に、多くの投資を行っています。これが競合他社と一線を画す強みだと考えています。」Claytonは言う。「英国の農家にとって重要なのは、単に収穫量を増やすことだけではありません。環境と調和し持続可能な方法で収穫量を増やすことが大切なのです。」
現在アグロビスタの売上の約80%は、小麦や菜種その他の穀物向けの農薬によるものだ。(菜種は食用油、飼料に使われる。)収益を分散させる為、Agrovistaは他の分野での売上を伸ばす戦略をとっている。たとえば、穀物だけでなく生鮮野菜、ハウス栽培の作物向けの栽培コンサルティング、ゴルフコースや公園のメンテナンスサービスなどだ。将来有望な分野である高付加価値の独自製品や高度な技術を要する精密農業のR&Dに注力することは、この産業における強いニーズを受けてのものだ。
Agrovistaのオリジナル製品ラインであるDiscoveryシリーズは、単独で、あるいは農薬、肥料と混ぜて使用し、その散布効果を増進する。こうした製品は展着剤と呼ばれ、たとえば、肥料と混ぜて作物の肥料の吸収を向上させたり、除草剤と混ぜて散布の際に除草剤が飛散するのを防止したりする効果を持つ。
少ない資材で多くの収量を、つまり農薬や肥料の散布量を抑えながらその効果を維持もしくは向上することで、農家はより環境にやさしい形で収穫量を増やすことができる。Discoveryの海外営業を担当するMark Palmerは、小麦畑で病害や雑草防除に展着剤を使い、収穫量が増加した事例について話す。それは農家にとって最大8倍の投資リターンをもたらすことになるという。
もう一つの注力分野は精密農業だ。英国の農家全体の30%、大規模農家にいたっては70%が既に精密農業に取り組んでいる、と精密農業の技術責任者であるLewis McKerrowは言う。
精密農業では、土壌の栄養・健康状態や収穫量、天候などのデータを、ドローンや衛星にも搭載可能な様々なセンサーを通じて収集し、GPSで地図上に視覚化し分析する。土壌の状態によって適切な肥料を自動散布することは今では当たり前に行われている。この技術は除草剤や殺菌剤などの自動散布にも応用することができ、散布実績や散布量管理など厳しい規制に従う必要のある英国農家にとっては大きな助けになる。更に重要なことは、ウェブポータルやスマホやタブレットのアプリを使って農場でこうした情報にアクセスし、最終的にビッグデータを活用し分析できるようになることだ。
「これからの5年間でこうしたデータセットを統合し、農家に対し最適なアドバイスが出来るように、農家がデータによって精度を高めた判断ができるようお手伝いをしたい」McKerrowは話す。そうなると、たとえば、土壌のタイプや質、天候に応じて、特定の農場向けに最適な種子を選ぶといったこともできるようになるだろう。
農家を現場で支えるAgrovistaの専門家たち
しかし、データやR&D、テクノロジー、農薬のような資材だけでは日々拡大していく農家のニーズに応えることは難しい。Agrovistaの社員が現場に立つことが必要だ。そして現場でこそ、Agrovistaの専門性が活かされる。
John Hammond Farmsの3代目で、じゃがいも、甜菜、小麦、大麦を育てているEd Hammondは、Agrovistaが「群を抜いている」と話す。R&D部門で行ったトライアルの情報を、アグロノミストを通じて得られるからだ。カバークロップの導入を決断した「重要な局面」もその一つであり、また日々の農作業や今後の計画に熱心に関わってくれることもありがたいのだと言う。
Hammondは続ける。「昨年Agrovistaのおかげで、農薬に関するコストを5%削減することができました。日々のコミュニケーションで、様々な製品とアドバイスをタイミングよく手に入れることができるのが大きいです。」
Westerhill FarmのClive Baxterは350エーカーの果樹園で梨とりんごなどの果物を栽培している。彼もまた、Agrovistaのチームの熱意と専門性に驚かされたという。作物の生育状況と天候をモニタリングし、病害や害虫対策のタイミングや方法を決める手伝いもしてくれる。
「うまく行っていないときは特に、彼らの熱意に助けられるよ」とBaxterは言う。果物栽培はまるでジェットコースターに乗っているかのように、作物の価格や天候に左右される。「午後のお茶を楽しみながら様々なアドバイスを聞いていると、果樹園主としての熱意が湧いてくるんだ」。
この果樹園を担当するアグロノミストであるAlex Raduは、Agrovistaと顧客の結びつきは「私たちの専門的なアプローチやアドバイスが評価されており、良好な関係のベースとなっているのは一貫性や過去からの信頼です」と語る。
Clayton社長は顧客からのフィードバックやAgrovistaが英国の農業にもたらしているイノベーションを誇りに思っている。「農家の方々に幸せになっていただくことが、我々にとって優良な顧客を得ることや永続的なビジネスを行っていくことにつながります。これからも農家の方々の課題に一緒に立ち向かい、彼らのビジネスの成功を支援していきます。」
(本文は、2017年6月の取材をもとに作成しています)
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