ScopeNEXT GENERATION #2 | 復紅康合医薬江蘇
正しい”処方箋”:丸紅の合弁会社 復紅が日本の医薬品メーカーと共に巨大な中国市場に挑む
次々に変更される規制に確実に準拠しながらビジネスを推進する。人々の健康に直接影響を与える重要な業界である。さらには言語の違い、異なる商習慣、馴染みのない文化という要素も加わる――これらが、急速に拡大する中国の医薬品市場への参入を試みる日本の医薬品メーカーに立ちはだかる課題だ。一方ではこの世界第二位の規模を誇る医薬品市場では、欧米の競合メーカーは既に大きな利益基盤を構築し、その拡大に向けて動きだしている。
日本の商社である丸紅と、中国の巨大な医療企業である上海復星医薬集団の間で設立された合弁会社が、日本の医薬品メーカーと連携してその勢力図に一石を投じようとしている。2018年に復星医薬が51%、丸紅が49%を出資して設立された復紅康合医薬江蘇有限公司は、新薬承認やコンプライアンス対応、マーケティングや販売など、日本の製薬メーカーの中国進出を支援し、また、復星医薬の海外展開を後押しする。
上海を拠点とする復紅で、森島礼司は、復紅が日中の架け橋としての機能を果たすと語る。
「中国では、法規制を理解して、政府に対応していけるかどうかが鍵を握っています。また、文化や言語の違いもあるため、日本の会社が全ての舵取りを直接行うことは非常に難しいのです。我々の知見を活かし、中国と日本のギャップを理解する。これこそが復紅がやろうとしていることです」。
高齢化と所得の拡大による疾病の増加
この事業は世界最大の中産階級をターゲットにしていると言える。中国は、スマートフォンや高級車、保険、映画といった分野で10億人を超える巨大市場とであると同時に、世界で最も急速に高齢化が進む社会の一つでもある。国連によれば、今後30年間で、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は倍増し、これは予想される人口14億人の約4分の1に相当すると試算されている。
14兆ドル規模の経済で、所得の拡大に加えて高齢化が進むことにより、医療拡充と、そのための財源の確保が急務となっている。高齢者人口の増加と所得の向上による“不健康な”ライフスタイルの広がりにより、糖尿病や高血圧といった病気が急増している。現在、1兆2,000億ドルの世界の医薬品市場のうち、中国の市場は約11%を占めているが、これらは2018年~2024年の間に1.6~1.7倍に急拡大し、2,340億ドル規模になると見込まれている。
復紅のPresident & CEOである李厚勤は、「現在中国では、高尿酸値、高血圧、高コレステロールという、いわゆる「3つの高」の生活習慣病が拡大しており、これら以外の病気も含めて、医療の重要性が急速に高まっています」と語る。
「経済の成長に伴い、健康や医療に対する関心が着実に高まっています。少し前までは、健康に関する問題のほとんどは栄養失調と伝染病でしたが、ここ数年で様々な病に悩む人々が増えてきました。」と同氏は語る。「効果的な医薬品や治療法の必要性が高まる中で、アンメット・メディカル・ニーズに応えること、それが復紅を設立した理由です」。
様々なハードルに挑む
中国で日本の製薬メーカーが成功する可能性は高い。しかし、リスクもあるために、進出には後れを取っている。
日本の会社が慎重になる理由は、目まぐるしく変化する規制への対応、先端的医薬品の知的財産権の保護、新薬承認に要する時間といったことへの懸念だ。日本企業の売上の市場シェアは、約2%であるのに対し、欧米企業は5~7%であり、成長の余地は大いにあると言える。
復紅は、日本の医薬品メーカーが、コンプライアンスをはじめとする懸念を払拭し、自動車や電子製品と同様に中国で信頼されている“日本品質”を武器に成長できるよう支援する。
「中国の政策や規制への対応方法を日本企業に説明することによって、私たちは信頼を得ることができました。互いに信頼し合うことが非常に重要であり、信頼があってこそ、私たちはたくさんの誤解やリスクを回避することができます」と李は語る。「日本の会社が一番懸念しているのが、知的財産権保護を含むコンプライアンスの問題です。しかし、中国も国際基準と歩調を合わせるようになってきたことから、リスク管理は可能になっています」。
復星医薬の社長兼CEOである呉以芳は次のように語る。
「現在中国の市場では、40~50社の日本の医薬品メーカーの売上を合算しても、米国の医薬品メーカー1社分に届きません。」
しかし、呉は日本の医薬品メーカーの将来性に期待している。丸紅の支援により復星医薬と連携することによって、日本の医薬品メーカー中国進出は加速するだろうと考えている。
「丸紅が橋渡し役をしてくれているおかげで、交渉の期間を短縮することができるので、機会をつかむことができるでしょう。」と同氏は語る。「日本のメーカーと私たち復星医薬が連携することで、欧米のメーカーの脇役に甘んじることなく、主導権を握ることができると思います」。
実際に、復紅と日本の製薬会社との初めての契約はすぐに成果を上げた。医療用医薬品メーカーである協和キリン社の中国現地法人である協和麒麟(中国)製薬では、2018年12月の共同販売契約の締結後、わずか数カ月で、同社の主要製品の一つであるレグパラの売上が倍増した。両社は中国全土をカバーする復星医薬グループのネットワークを通じた治療薬の販売促進を目的に、契約を取り交わしたのである。
「全国のレグパラを必要としている透析患者さんにレグパラを届けるには販売ネットワークの拡大が必要です。そこで、幅広い地域と多くの施設を網羅することのできるパートナーとして復紅と契約することに決めました。自分達だけで取り組むより格段に速いスピードで目的が達成されたことは言うまでもありません」と協和麒麟(中国)製薬社長である参川和伸は語る。復紅との提携は、市場環境や各種の規制を理解する上でも助けになったという。
医療パイプライン
復紅と丸紅、そして復星医薬が目指す将来像は、さらに先に広がっている。
丸紅は、医薬品・医療事業を中国からさらにアフリカや東南アジアまで拡大し、復紅の事業を他の医療分野や医療機器、OTC医薬品※、さらには新薬の製造と研究開発にまで拡大しようとしている。復星医薬は、丸紅の日本における広範なネットワークを利用して、自社の先端的な医薬品を日本で販売し、また、日本の最新の医療機器や、健康管理や定期健康診断といった洗練された医療システムを中国に導入することを目指している。
※ Over The Counterの略。薬局等で処方箋なしで購入できる医薬品のこと。
インドネシアとフィリピンで自身の医療ビジネスの経験を積み重ねてきた森島にとって、様々な困難を乗り越えてきた復紅の仕事は、やりがいのあるものだ。
「医薬品のような社会インフラを支えるビジネスに携われることは非常に有意義ですし、医薬品のみならずさまざまな機能へと事業を拡大して 、医療インフラを支えるようなビジネスをどんどん作っていきたいと思っています」。
(本文は、2020年12月の取材をもとに作成しています)
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