ScopeNEXT GENERATION #7 | MERRELL KOREA
自然を愉しむことと都市のライフスタイルをサポートする「MERRELL」を韓国で展開するMBD KOREAのブランドビジネス
韓国は国土の7割が山地だ。高層ビルが建ち並び、人と車がせわしなく行き交うソウルも、都心から地下鉄に乗って30分ほどで行ける範囲にハイキングを気軽に楽しめる低山が点在している。英エコノミスト誌によれば、国民の3分の2がハイキングシューズを持ち、年に一度は山に登るという。近年は、若者を中心にキャンプも人気だ。
そんなアウトドア大国の韓国で、丸紅の100%子会社であるMBD KOREAは、高品質のアウトドアシューズで知られる米国のブランド・MERRELL(メレル)を、2023年の春夏シーズンから約40の店舗や自社のECサイトなどで展開している。
人々にアウトドアを楽しんでもらうために、高い機能性と快適さを追求し続けるメレル。そのルーツは、ウェスタンブーツ職人のランディ・メレルが1970 年代、自然を愛する人々のためにこだわり抜いてつくっていたオーダーメイドのハイキングブーツだ。今日では代名詞のハイキングはもちろん、多彩なラインナップのアウトドアシューズを中心に世界各地で展開しており、日本では丸紅フットウェアが1998年から輸入総代理店を務める。MBD KOREAは丸紅グループで培った知見を活かし、メレルの価値を韓国で広め、市場のリーダーへと成長させることを目指している。
幅広い世代でアウトドアウェアの日常使いが浸透しているため、韓国のアウトドア市場ではアパレルの需要が大きい。特に冬は寒さが厳しく、ソウルの平均気温も氷点下を大きく下回る。丈の長いダウンのアウターや保温性の高いミドルレイヤーなど、高機能素材を用いるアウトドアブランドの服は、防寒に欠かせない。
靴と同様に機能性と快適さを極めた韓国オリジナルのアパレル
「韓国はアウトドア市場が非常に大きく、さらなる成長が見込まれる一方で、新規参入も含めてプレーヤーが多い。ほかのブランドといかに差別化していくかが、カギになる」。そう話すのは、MBD KOREAの代表理事・井上雅文だ。韓国繊維産業協会の調べによると、韓国のアウトドアアパレル市場は約6兆ウォン(45億米ドル相当)。韓国の人口は約5,170万人で日本の半分以下だが、アウトドア市場は日本と同等かそれ以上の規模を誇り、国内外のブランドがひしめき合う。
MBD KOREAでは、靴はグローバル規格の商品を米国から輸入しているが、アパレルおよびバッグや帽子などのアクセサリーは、米国のWolverine World Wide 社からライセンスを供与され、韓国人の好みやニーズや体型などに合わせて独自に企画している。
メレルの靴が誇る高い機能性と快適さを、アパレルでも体現する――。デザインチームを率いるチョ・スジンは、つねにそのことを強く意識している。メレルの靴には3つのカテゴリーがあり、服もそれぞれの特性に合わせてデザインする。「ハイク」はアウトドアアクティビティーをサポートする高い機能性、「トレイルランニング」は快適に走れる工夫、「アフタースポーツ」はリラックス感と同時に街中でも着られる高いデザイン性を追求する。「お客さまの声も商品企画に反映しています」とチョは話す。新しいシーズンの企画を始める前に店舗を訪ね歩き、売り場のスタッフから顧客のニーズなどを聞き取っている。
「トレンドを過度に考慮せず、靴と合うオリジナリティの強いパンツなどの代表的なアイテムをつくることが大事です。それを続けることによって、メレルのブランドアイデンティティを守っていく」。そう話すのは、マーケティングやブランディングなどを担当する専務の悦恭寿だ。2022年に丸紅グループに入社する前は、日本の大手アパレル企業に在籍していた。数多くのブランドのマネジメントを手がけており、韓国に駐在した経験も持つ。
日本から韓国へ、韓国から世界へ、ブランドビジネスを広げていく
メレルはおよそ15年前に韓国でデビューし、現地企業が輸入代理店を務めていた。丸紅は新たな担い手として名乗りをあげ、みずから販売と商品企画を行うと決めた。井上、悦、そして管理本部長のホ・ビョンホが日本から駐在し、ソウル市内のシェアオフィスの一画を借り、急ピッチで創業準備を進めた。
準備に与えられた時間は、わずか数カ月。しかも、約30の店舗の内装を一新する工事をほぼ一斉に進めていかなければならなかった。この不可能とも思えるミッション――店舗の測量、デザイン、図面の作成、工事の立ち合いや店舗との調整、アフターケアなど――をたったひとりでやり遂げたのは、ビジュアルマーチャンダイザーのバン・スジだ。「商品デザインのチームや営業のみんなが頑張っているのに、私が失敗すればすべてが台無しになる。そう考えて、一生懸命やりました」とバンは当時を振り返る。現在は、2024年から順次導入する新しい店舗デザインを考案中だ。現行のデザインは木材を中心に据えて自然を感じられるようにしているが、より都会的な要素を組み入れ、都市と自然の境界を感じさせない店づくりを目指す。
韓国のアウトドア市場におけるメレルの規模は、まだ大きいとは言えない。「認知度を上げていくことが自分の役目」と管理本部長のホは言う。彼は財務、経理、人事、総務、さらには物流やカスタマー対応も管轄している。韓国の大学を卒業後、「日本の総合商社で大きな夢をもちたい」と2014年、丸紅に入社した。想像もしていなかった数々の仕事を任され、大きなやりがいを感じているという。文化の違いや言語の壁などで苦労した丸紅入社当時から、「頑張れば、明日はきっと今日よりもいい日になる」が座右の銘だ。
丸紅はアジア諸国を中心とする海外で、さまざまなブランドビジネスの展開を構想している。「まずは韓国においてメレルを成功させることが最優先だが、将来的にはアウトドアに限らずMBD KOREAでほかのブランドのビジネスも展開していきたい」と井上は語る。「ここで得た経験が、丸紅が海外でブランドビジネスを広げていくきっかけになればいい。そう思いながら取り組んでいます」
(本文は、2023年10月の取材をもとに作成しています)
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