Scope#42 | Chenya Energy

見渡す限りに浮かぶ太陽光パネル、世界最大規模の浮体式太陽光発電所

台湾中部西岸の風光明媚な海岸線に広がる彰濱(チャンビン)工業区。古くからの港街、鹿港にも近い産業集積地には化学、セメントなど重化学工業の工場だけでなく、台湾経済の心臓とも言える重要施設が立地している。火力、風力、そして太陽光の3種の大型発電施設である。なかでも工業区にある干潟の水面上に太陽光発電パネルを並べた浮体式太陽光発電所は壮観であり、この方式としては世界最大規模を誇る。丸紅グループの辰亜能源(Chenya Energy)が建設・運営し、台湾にとって貴重な再生可能エネルギーの電力を供給している。

日本でも全国各地で目にする一般的な太陽光発電所は平地や緩斜面などに設置した堅牢な鉄製架台にパネルを載せ、固定している。彰濱の浮体式太陽光発電はまったく異なる構造で、専用ブイの上にパネルが載せられ、水面に浮き、潮の満ち引きによって1日のうちに2~3メートルも上下する。9月から2月にかけ、台湾海峡特有の強い北東季節風が吹けばパネルが揺さぶられることもある。

彰濱の干潟は日本の九州西部に広がる有明海を想わせる。浮体式パネルが干潟の底に着地する干潮時には、発電を続けるパネルの周辺の泥海を小さなワタリガニがせわしく歩き回り、ムツゴロウや貝類がのんびり顔をのぞかせる。白サギなど多数の野鳥もエサを求めて飛来するのどかな風景だ。太陽光発電所が干潟の生態系を乱すことなく、運営されている証といえる。

だが、「自然と共生する太陽光発電所には人知れない苦労も多い」とプロジェクトマネージャーを務める陳昶達(Alan Chen)は言う。パネルの表面には海水に含まれる塩分や砂、鳥の糞など汚れが付着しやすいため、定期的に人手による清掃作業が不可欠。海流に乗って流木や様々なゴミが発電所を囲む防護ネットに押し寄せる。それを毎日、保全担当者がジェットスキーで巡回し、地道に取り除く。浮体式太陽光発電所は維持、管理の負担がきわめて重い。

干潟の利用が太陽光発電の可能性を広げる

では、何故、Chenya Energyが浮体式太陽光発電に挑んだのか。

台湾経済には「6欠」と呼ばれる課題があるといわれている。電力、淡水、労働力、高度人材、産業用地、廃棄物処理場の6つが不足していることを意味する用語。とりわけ台湾経済を支える世界トップレベルの半導体や電子部品の生産拠点には、電力を瞬時も止めることなく安定供給する必要がある。一方で、台湾は地球温暖化対策を世界と協調して進めており、2016年に総発電電力量の46%を占めていた石炭火力を削減し、6%にすぎなかった再生可能エネルギーを拡大するのが大きなミッション。台湾当局は「2025年に総発電電力量のうち石炭火力のシェアを30%、再生可能エネルギーを20%にする」という野心的な目標を掲げ、推進している。

※ 2022年1月に2025年の再生可能エネルギーの目標比率を15.2%に引き下げることが決定されている。

再生可能エネルギー開発を進めるにあたって立ちはだかる課題のひとつが、「6欠」のひとつでもある土地不足。原子力発電所1基分の約1,000メガワットの発電能力を太陽光発電で得るには平均的な発電効率のパネルを約500ヘクタール敷き詰め、さらに付帯設備や作業用スペースを含めると総面積は東京ドーム217個分にあたる約1,000ヘクタールが必要になる。Chenya Energyが運営する彰濱発電所は248ヘクタールに約80万枚のパネルを設置、約250メガワットの発電能力を持っており、まさに標準的な面積効率の太陽光発電所だが、それを平地を使わずに干潟で達成している点に大きな意味がある。

台湾の面積は3万6,193平方キロと九州とほぼ同じだが、3分の2は山岳や森林地帯で平地は限られている。そこに九州7県の2倍弱の2,350万人が暮らすため、太陽光発電に利用できる土地は実はわずかしかない。台湾各地の干潟、湖沼、ダムなどは重要な浮体式太陽光発電の開発可能地点であり、Chenya Energyはそのパイオニアとして既に数カ所で浮体式太陽光発電を手がけている。

美しい環境を次の世代に。太陽光発電を推進し地球温暖化緩和に貢献する

調達部門の責任者を務める李貞樺(Toto Lee)は、2019年にスタートした彰濱発電所プロジェクトについて「資材の高騰、人件費の上昇に加え、新型コロナウイルスの影響による物流の途絶など苦労が絶えなかった」と振り返る。そうした困難を突破する力になったのは「4人の子どもの母として、美しい自然環境を未来の世代に残したいという切実な想いだった」という。

丸紅は2021年3月に気候変動長期ビジョンを策定し、中期経営戦略「GC2024」においてもグリーン戦略を企業価値向上に向けた基本方針の一つと位置付け、太陽光、風力、地熱など再生可能エネルギーの開発に積極的に取り組んでいる。Chenya Energyで4年近く電源開発に取り組んできたIRマネジャーで会長補佐の柳沢泰佑は「今、再生可能エネルギー事業には時代の追い風が吹き、プロジェクトにスピード感が増している」と仕事の面白さを語る。柳沢が重視しているのは「地元の人とのコミュニケーションと情報開示」。台湾社会に根を張り、信頼感を得ることで、再生可能エネルギー事業はさらに成長していけると確信している。

総経理の游祥益(Austin Yu)は力強く語る。「彰濱発電所での経験を他の現場でも生かし、太陽光発電を推進することで地球温暖化の緩和に貢献していきたい」

(本文は、2023年10月の取材をもとに作成しています)