シドニーの交通渋滞。経済発展と世界で最も住みやすい都市の一つという評判が人を呼び、この問題は深刻化し住民の通勤時間は増加してきた。もはや単に高速道路を増設しただけでは解決することが出来ず、シドニーを擁するニューサウスウェールズ州政府は新たな解決策を求めて、海外の専門家とチームを組んだ。それがSydney Metro Northwest プロジェクトである。
Sydney Metro Northwestは世界に誇る鉄道として、2019年5月にシドニー北西部で営業運転を開始した。Sydney Metro Northwestは13の駅と4,000台分の通勤者用駐車場からなり、豪州初の自動運転技術を搭載している。
Sydney Metro Northwestはシドニー北西部における初の本格的な公共交通機関である。この地域における移動手段は車がほとんどで、世帯当たりの自動車保有数は豪州一。今後数十年間で、さらに20万人がこの地域に移住し、人口はワシントンD.C.に相当する60万人以上になることが見込まれている。Sydney Metro Northwestは域内の交通渋滞を緩和し、さらにはシドニー北西部とシドニーの主要地域を結ぶ役割を担っている。
速くて安全、かつ信頼性の高いSydney Metro Northwestの車両には空調設備が整っていることはもちろんのこと、その他にも荷物やベビーカーを置くための多目的スペースや車椅子用のスペース、優先席が設けられており、乗客にとっての使いやすさを重視している。
OTS契約には、Sydney Metro Northwestの車両基地建設、22編成(6両1編成)の車両製造、8つの新駅建設、2つのトンネル用施設の建設、23kmの軌道敷設、4,000台分の通勤者用駐車場の建設、変電所の建設、Epping駅・Chatswood駅間の既存路線の改修工事、そして15年間にわたる駅と鉄道システムの運行・保守が含まれている。
Sydney Metro Northwestは豪州では初となる無人での完全自動運転システムによって運行されており、平均して駅には100台、各車両には1編成につき38台の監視カメラがそれぞれ設置されている。列車の運行状況や、監視カメラを含む各システムは中央指令所で常に監視されており、乗客の安全性を確保している。また、これにより運転士や車掌の人件費を削減出来るだけでなく、システムや運行上のトラブルが発生した場合により早急な復旧が可能になる。
世界ではすでに一般的になっているが、Sydney Metro Northwestは豪州で初めてホームドアを採用している。ガラス製のドアにより列車を待つ人々やベビーカーの線路への転落や路線上への侵入を防止するとともに、列車の発着をより速く・スムーズに行うことが可能になった。
Sydney Metro Northwestの注目すべきもう一つの特徴は、機能性を追求するだけでなく、開放的で自然光に満ち溢れた駅である。
Sydney Metro Northwestプロジェクトで駅の設計を担当したHassellの建築家であるRoss de la Motte氏は、駅の建設における重要な要素として高い天蓋、広い改札エリア、自然光の取り込みを挙げた。
「駅へ行くことは単に雨風をしのぐだけでなく、駅に迎え入れられるということなのです。」と彼は言う。「Sydney Metro Northwestは交通機関ですが、それだけではありません。駅は待ち合わせや楽しい時間を過ごすための場所になり得ます。それはまさに新しい公共の場なのです。」
Sydney Metro Northwestは豪州では初となるバリアフリーな鉄道でもある。「全ての駅にエレベーターが設置されており、身体が不自由な方やベビーカーを押している方のためにプラットホームと列車の段差や間隔を小さくしています。その他にも、広い改札やトイレへのアクセスの良さなどが挙げられます。」とNRTコンソーシアムのSteve Herman CEOは言う。
Sydney Metro Northwestは運行開始から最初の4か月間で700万本以上運行。乗客からのフィードバックは非常に肯定的で、成功だったと言える。
駅周辺には住宅や商業施設等の建設現場が点在しており、このプロジェクトへの投資が既にシドニー北西部へ利益をもたらしていることが伺える。「私の様な小さなビジネスオーナーは、このプロジェクトによりこの地域を訪れる人が増えたことで、多くのメリットを実感しています。さらに、交通渋滞の緩和によって環境に良い影響をもたらすだけでなく、Sydney Metro Northwestを利用すれば市の中心部など、どこにでも行けるようになりました」と、Sydney Metro Northwestの駅があるCastle HillでレストランYoueni Foodstoreを経営するGavin Gui氏は語る。
鉄道の未来
丸紅は1980年代からアジア、中東、ラテンアメリカで交通インフラプロジェクトに携わってきた。今回、Sydney Metro Northwestプロジェクトで更なる知見を獲得し、「この経験を活かして、世界中でプロジェクトに携わっていきたいです」と丸紅の竹岡は言う。
竹岡は豪州から離れる必要はないかもしれない。Sydney Metro Northwestが完工し運行を開始した今、Sydney Metroは第2ステージに向けた準備をしている。第2ステージは、2024年を目途にSydney Metro Northwestをシドニー市内に導く30km・31駅の延伸計画で、豪州は旅客輸送の新しい時代を迎えることになる。