Scope#28 | 京都丸紅 着物の伝統と未来
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「着物の持つストーリーを伝えたい」着物人口の拡大に向け
京都は五条にある京都丸紅。訪問着や小紋に加えて振袖や浴衣、袴、帯など和装品全般を扱っている。
着物産業は昭和56~57年のピーク時に売り上げが1兆8000億円ほどあった。しかし現在は大体3000億円程度で下げ止まっている。こうした中、京友禅や西陣織などの伝統技術の継承は今どう行われているのだろうか。
「着物の産地はどこも高齢化問題や後継者問題を抱えています。若手の友禅作家や、モノづくりが好きな若い人が入っている産地とパイプを太くする努力をしています。」颯爽と着物姿で現れた、京都丸紅梅島義之社長(当時)は話す。
京都丸紅には3つの営業部がある。1つは<フォーマルきもの部>という絹を扱うセクション、そして<カジュアルきもの部>という浴衣などファッション着物を扱うセクション。3つ目に<レンタルきもの部>。七五三や振袖など、セレモニー用の着物を扱う。<フォーマルきもの部>ではオリジナルブランドで<sense +sense>という幅広い年齢層の方々に都会で着てもらえるような商品を開発している。また、簡易着物のブランド<SASSO.to~さっそうと~>は1月から大丸東京店で展開中。浴衣などを扱う<カジュアルきもの部>は、ファッションブランドやタレントとコラボした商品を扱うアンテナショップを東京・原宿と京都に展開している。
そして今回初めて知ったのが、小学校の卒業式における和装ブームだ。「京都、名古屋、東北などでブームになっています。レンタルで3~5万円程度です。見栄えがするのでInstagramでも #(ハッシュタグ)小学校卒業式 とか #袴 などで検索するとたくさん写真が出てきますよ。」
最後に、今後の京都丸紅の将来像を梅島は力強くこう語った。
「キーワードは“着物人口の拡大に向けて努力していく”。着物をもっと身近なものにしたいですね。それに向けた商品づくり、ブランド戦略、流通などすべての過程において、着物人口の拡大を意識した取り組みをしていきたいと思っています。」
新しい取り組みとして“スマートタグ”の導入がある。着物の“下げ札”のQRコードにスマートフォンをかざすと産地のショートムービーを見ることができる画期的なものだ。「着物にはうんちくやストーリーが沢山あります。スマートタグで温もりのある商品紹介をしていきたいですね。」
若者のココロを掴んだ“レトロモダン”
<和風館ICHI>は京都丸紅の1階にある。
<和風館ICHI>の歴史は今から20年ほど前に遡る。当時アンティーク着物がブームになったが、可愛くても状態が悪い等で着られないものが多かった。そこで京都の染工場と一緒にアンティークの色目を再現し作ったのが<和風館>というブランド。
それをさらに進化させたのが<和風館ICHI>だ。京都と東京・原宿に2店舗ある。大正時代~昭和初期に流行った、懐かしくも可愛らしい“レトロモダン”がコンセプトだ。振袖や卒業式の袴は学生向けで、夏は年齢を問わず浴衣を買い求めるお客様が訪れるという。
「『今までこんな色なかった』という色に挑戦しています。おしゃれな若い世代の方から『着物は分からない』『色合わせが難しい』という声をよく聞くので、『馴染みやすい色もあるし、簡単に着て頂けますよ』とアプローチしています。」衣川洋子店長が商品開発戦略を話した。
<和風館ICHI>の着物は、絹ではなくポリエステル製。洗濯機で洗え、アイロンをかける必要もない。洋服のように吊るしておいても生地が伸びないという簡便さが魅力だ。
個性的なデザインが多いのは、「他人と被りたくない」というお客様のニーズにこたえたものだという。「少しでも違う私をアピールしたい」という人が遠方からも来ることも多いそうだ。「和風館のブランドを本にまとめた事もありました。それを手に取って和風館を初めて知る方も沢山いらっしゃいますね。」そう衣川は嬉しそうに笑った。
京友禅 伝統柄の一歩先へ 失いたくない「遊びごころ」
「上野家」は京友禅の名門。初代が上野清江(せいこう)氏。二代目 上野為二(ためじ)氏は昭和30年に友禅の世界で初の重要無形文化財保持者に認定された。その次男清二(せいじ)氏が急逝され、妻、街子(まちこ)氏が後を継いだ。上野家と京都丸紅との付き合いは昭和2年に始まった<美展(染織美術研究会)>から実に90年を超える。
「作風は時代の流れによって少しずつですが変わってきてはいます。ご先祖様の素晴らしい作風の御所解(ごしょどき)や茶屋辻(ちゃやつじ)など守っていきたいですね。」街子氏は上野家の伝統についてこう話す。しかし伝統を守りながら新しい作品を作り続けることは容易ではないだろう。
「京都丸紅さんから『もう少し新しいもの』を、とプレッシャーをかけられます。ありがたいことですが大変です(笑)でも、頑張る力というか、チャレンジ精神が湧いてきますね。それが生きがいですし。」
友禅の技法は複雑だ。街子氏のデザイン図案に基づいて、水で流すと落ちる青花で下絵をつけていく。その後、下絵の線に沿って糊を置いていき、伏糊(ふせのり)で蓋をして、生地全体を染める。伏糊を置いた部分には色がつかないので、伏糊を落とした後、白く残った柄の部分を、丁寧に筆で彩色する。実際に制作工程を目の当たりにすると、その繊細な手作業に気が遠くなる。職人の熟練の手作業で上野流の作風が生み出されていく。
「伝統的な作品を、誇りを持って制作していきたいですが、たまには“蟹牡丹”のような柄もちょこっと入れていきたいですね。」そう茶目っ気たっぷりに笑った。“遊びごころ”は失いたくない。それが上野街子流だ。
500年近く続く機屋の織る西陣織にみたアール・ヌーヴォー
次に伺ったのが、西陣の紋屋井関。室町時代から約500年続いている機屋(はたや)だ。<御寮織(ごりょうおり)>と呼ばれる帯は代々皇室、公家、将軍たちの装束を承ってきた機屋の証だ。現在の当主は20代目、京都丸紅との取引は約30年になる。
株式会社井関の本社で通された部屋には、目を見張るような豪華絢爛な帯の数々。その繊細さと重厚さに圧倒される。
専務取締役平尾敬昭氏がこんなエピソードを披露してくれた。千利休の二代目千小庵の書いた手紙が出てきたというのだ。それによると俵屋宗達の弟子の尾形光琳が作った琳派(りんぱ)の作品が19世紀のパリの万国博覧会に出品されアール・ヌーヴォーに影響を与えたという。
「丸紅さんと今、アール・ヌーヴォーを題材にした帯など作っているのです。日本の文化と西欧の文化の融合などを勉強しながらモノづくりをしています。」
その帯に近づくと、まさしく東西文化の融合がそこにあった。現代の西陣織に悠久の歴史が息づいている。
「基本は紋織という当家の文化を基本にし、京都丸紅さんと共に新しいモノづくりをしていく、ということです。うちで守っている伝統と新しい文化の融合、あとは当主の感性。それらが未来に繋がっていくと考えています。」平尾氏はそう力強く語った。
そして京都丸紅との関係について。「京都丸紅さんとお仕事して消費者と直接話をする機会が増えたのはものすごくプラス。モノづくりの形も素材も変わりましたし、新しい織り方も開発出来るようになりました。」
着物の伝統を守るために京都丸紅が果たしている役割は大きい。伝統を守り、さらにそれを進化させていくことは簡単ではない。しかし、今回会ったどの人もそのチャレンジを楽しんでいるように見えた。それが京都という街なのか・・・伝統は多くの人に支えられて脈々と生き続けるもの。そんな想いを新たにして京都を後にした。
(本文は、2019年2月の取材をもとに作成しています)
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