環境気候変動対策への貢献
基本的な考え方
丸紅グループは、気候変動をグローバルかつ緊急性の高い社会課題であると認識しており、環境・社会マテリアリティの一つとして特定しています。
国際社会が協調し温室効果ガスの排出削減を進めて行くパリ協定の枠組みのもと、民間セクターが果たすべき役割への期待とニーズが高まっていることを認識し、ビジネスを通じて気候変動対策に貢献することが、丸紅グループの持続的成長につながると考えています。
サステナビリティへの取組み方針
(石炭火力発電事業及び再生可能エネルギー発電事業について)
丸紅株式会社(以下、「丸紅」)は、気候変動を人類共通の重要な課題と認識しています。地球環境と社会との共存共栄を脅かす問題であり、丸紅の事業や丸紅を取り巻くステークホルダーにとっても影響が大きく、早急に取組むべき課題であると考えています。このような認識に基づき、サステナビリティ経営推進の一環として、世界の気候変動対策への取組みに貢献すべく、丸紅の石炭火力発電事業及び再生可能エネルギー発電事業に関する取組み方針(以下、「当方針」)を定めました。
1. 脱石炭火力発電へのプロセス
電力事業のグローバルプレーヤーとして、丸紅の発電ポートフォリオからの温室効果ガス排出量を低減させていきます。石炭火力発電事業によるネット発電容量を、2018年度末の約3GWから2030年までに半減させます。また、新技術の導入等による保有資産の効率化、環境負荷軽減を積極的に推進します。
2. 新規石炭火力発電事業への取組み
新規石炭火力発電事業には原則として取組みません。但し、BAT(Best Available Technology, 現時点では超々臨界圧発電方式)を採用し、且つ日本国政府並びに案件実施国の国家政策(電力安定供給、貧困・雇用対策、経済成長策)に合致した案件については取組みを検討する場合もありますが、例外的に取組む場合でも、低炭素社会の実現、効率的な電力システムの構築、エネルギー源の多様化などに向けた提案を行い、当該国・地域の課題解決に貢献します。
3. 再生可能エネルギー発電事業への積極的な取組み
再生可能エネルギー発電事業の拡大に向け、再生可能エネルギー電源の比率を、ネット発電容量ベースで2023年までに約20%へ拡大することを目指します。また、全契約電力量約3GWの内、再生可能エネルギー電源比率が約80%を占める英国連結子会社SmartestEnergy社※1をはじめとする、電力卸売・小売業における再生可能エネルギー電源の取扱いの拡充を推進し、低炭素社会の実現に貢献していきます。
当方針の達成に向けて、丸紅を取り巻く多様なステークホルダーとの適切な連携・協働に努め、目標に対する進捗状況についても、積極的に開示していきます。また、外部環境の変化を踏まえ、OECD公的輸出信用アレンジメントをはじめとする各種国際ガイドラインを参考とし、石炭火力発電事業・再生可能エネルギー発電事業を巡る各国政策ならびに国際状況を十分に認識した上で、気候変動対策の観点から適宜方針の見直しも行います。
丸紅は、ESG課題への取組みを強化することを目的として、2018年4月に社長直轄のサステナビリティ推進委員会を発足しました。発足以来、外部の意見も取り入れながら、マテリアリティの特定と定期的な見直しをはじめとする、丸紅のESG課題への取組みに関する基本的な方針や施策について、同委員会で討議を重ねています。討議内容を踏まえた方針・施策については、ESG関連情報と一元集約化した段階で報告します。
1 丸紅が2001年に英国において設立。再生可能エネルギー電源を中心に独立系中小発電事業者から電力を買い取り、市場への卸売および法人などの需要家への小売を行う。
https://www.smartestenergy.com/
各団体との協働・連携
丸紅は、当社のコミットメントとして、さまざまなステークホルダーと協働・連携しながら、積極的に各種の気候変動対策を行うとともに、ステークホルダーや所属する業界団体の立場の強弱に関係なく、気候変動対策に適切に取り組んでいます。
業界団体
当社は、日本経済団体連合会(以下、「経団連」)が提唱する低炭素社会実行計画(ポスト京都議定書目標)に、日本貿易会の一員として賛同し、経団連や日本貿易会の気候変動に関するワーキンググループや意見交換会等に参加しています。
当社は、経団連の低炭素社会実行計画の方針に則って、気候変動対策に取り組んでおり、東京本社および大阪支社での2021年3月期のエネルギー使用量(電気、ガス)を2010年3月期比10.5%削減する目標を設定して省エネ設備の導入等を進めています。
この他、当社は、日本貿易会の地球環境員会(以下、同委員会)のメンバーとして、商社業界全体の環境に関する取組みに関する検討に参加しています。
同委員会では、商社業界の「環境自主行動計画(低炭素社会・循環型社会形成)」の策定を行うほか、エネルギー使用量の把握、3R(リデュース、リユース、リサイクル)活動の推進、事業活動を通じた新エネルギー対応に取り組んでいます。
政府官公庁
当社は、経済産業省や環境省が主催する、気候変動等をテーマとする分科会や研究会等に積極的に参加しています。2018年度には、経済産業省のTCFD研究会ワーキンググループメンバーとなり、気候変動によって生じる財務インパクトの情報開示の在り方について、グループメンバー各社と議論・検討を行っています。
その他
当社は、サステナビリティに関するイニシアチブとも協働・連携しています。WEF※2の、ESGに関する投資家・金融機関・企業間のコミュニケーションの促進に向けた提言を纏めているプロジェクトチームに、アドバイザリーボードメンバーとして参加しているほか、国際的な環境保全団体・WWFジャパンの活動も支援しています。
ビジネス面では、木材製品、海産食品、植物油等の分野で認証制度に参加しています。また、事業会社の三峰川電力(株)では、「気候変動イニシアティブ」に参加し、水力発電を中心とした再生可能エネルギーの発電事業を推進し、低炭素社会の実現を目指しています。
2 WEF:World Economic Forum(世界経済フォーラム)の略。提言の内容についてはこちら
飼料原料調達における気候変動の適応策
気候変動が畜水産向け配合飼料の原料調達に与える影響は大きく、当社は、気候変動への適応策をリスク管理上の重要事項と認識しています。
気候変動に伴って農業や漁業の在り方が変化すれば、配合飼料のタンパク源となる農水産物の生産量減少や、配合比率、品質等にも影響を及ぼす可能性があります。
当社は、天候パターンや気温等の要因を商品や地域ごとにモニタリングし、調達の地理的分散により気候変動リスクを緩和するとともに、気候変動によってもたらされる潜在的な影響についても、経営戦略の一部として検討しています。
加えて、気候変動リスクの対応策の一環として、当社は、魚や畜肉由来の動物性タンパク原料の代替原料開発に関する研究やイノベーションにも積極的に取り組んでいます。
ライフサイクルアセスメントの活用
丸紅では、豪州にある連結子会社のRangers Valley Cattle Station PTY. LTD.(以下、Rangers Valley)の肉牛肥育事業(以下、本事業)において、ライフサイクルアセスメント(以下、LCA)を活用し、本事業が社会・環境に与える影響を定量的に分析・評価しています。Rangers Valleyは最適な飼料や給餌・肥育方法等の研究を通じて、効率的なオペレーションを積極的に推進しており、LCAの分析結果を事業計画に活かすことで、本事業における社会・環境負荷の低減化に取り組んでいます。
再生可能エネルギー発電事業への取り組み
持続可能な開発目標としての気候変動を緩和する低炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギー発電事業の積極的な推進と拡大※3に取り組んでいます。
3 ネット発電容量ベースで現在の約10%を2023年までに約20%へ拡大
小水力発電事業への取り組み
丸紅は、小水力発電事業(以下、本事業)を重要なビジネスの一つとして考え、2006年からグループ会社である三峰川電力(株)(以下、三峰川電力)において小水力発電事業に取り組んでいます。本事業では、自然エネルギーを活用するため、環境への配慮が不可欠で、廃棄物削減や水質維持、省エネ省資源、 地域環境活動にも積極的に取り組んでいます。
小水力発電とは、生態系に大きな影響を与えるダムのような大規模な工事を伴う施設を使用せず、小川や農業用水などを利用して開発地域を最小限に抑えることができる1,000キロワット以下の小規模な発電方法です。河川への水質汚染や水中の生物に及ぼす影響が極めて少なく、設置により地形や景観を損なわない、運用時のCO2排出がほとんどないといった、生物多様性への影響および環境保全上のメリットがあります。また、本事業では、地域の水資源を活用するため、エネルギーの地産地消を実現する技術として、地域の自立的発展に役立つ可能性も秘めています。
現在、当社は、三峰川発電所をはじめ以下の小水力発電所を運営しています。
小水力発電事業(2020年3月現在)
発電所名 | 所在地 | 許可出力 |
---|---|---|
三峰川第一発電所 | 長野県伊那市 | 23,100kW |
三峰川第二発電所 | 10,800kW | |
三峰川第三発電所 | 260kW | |
三峰川第四発電所 | 480kW | |
蓼科発電所 | 長野県茅野市 | 260kW |
蓼科第二発電所 | 141kW | |
蓼科第三発電所 | 93kW | |
蓼科第四発電所 | 145kW | |
新宮川発電所 | 長野県駒ケ根市 | 195kW |
北杜西沢発電所 | 山梨県北杜市 | 220kW |
北杜市村山六ケ村堰 水力発電所 |
320kW | |
北杜川子石発電所 | 230kW | |
北杜蔵原発電所 | 200kW | |
本門寺第一発電所 | 静岡県富士宮市 | 120kW |
本門寺第二発電所 | 140kW | |
白石発電所 | 宮城県白石市 | 95kW |
花の郷発電所 | 福島県下郷町 | 175kW |
番屋川発電所 | 150kW | |
姫沼発電所 | 福島県猪苗代町 | 160kW |
水内川発電所 | 広島県広島市 | 180kW |
砂谷発電所 | 108kW | |
豊平発電所 | 広島県北広島町 | 112kW |
三峰川発電所は、エコアクション21※4の認証を取得しており、これは水力発電所として第1 号です。最も標高の高い位置にある第2 発電所の取水口は国定公園に接しており、三峰川発電所の設備は生物多様性においても価値の高い地域にあることを踏まえ、自然破壊をしないことはもとより、自然を保護していくことを目指しています。その一環として、河川清掃活動や油流出事故に備えた設備保守および緊急時対応訓練を実施していることに加え、年2回の水質検査を実施し、汚染の有無だけでなく、生物の要求する酸素量を満たしているかをチェックすることにより、生物多様性の保全対策を講じています。また、毎年地域の小・中学生や市民100 人以上の発電所見学を受け入れ、ハイブリッド(風力、太陽光、水力)発電システムの展示などを紹介し、再生可能エネルギーの啓蒙活動や地域の伝統文化の伝承も支援しています。
北杜市村山六ケ村堰ウォーターファーム※5では、既存の農業用水路を利用することにより農地への灌漑用水、生活用水と共存すべく利用水量を適宜調整しながら再生可能エネルギーを供給しています。
宮城県白石市の小水力発電所では、上水道施設の送水管の落差を利用した周辺環境への負荷が非常に少ない発電に取り組んでいます。
この他、丸紅新電力(株)を通じた売電により、電気料金の一部を森林の維持管理活動にあて、生物多様性の改善に努めています。
当社は、2025年までに日本国内で40カ所程度の小水力発電所の開発を目指し、全国で、地域環境の保全や生物多様性の保全に資する再生可能エネルギーの創出に積極的に取り組んでいきます。
4 環境省が定めた環境経営システムや環境報告に関するガイドラインにもとづく制度
5 北杜市村山六ケ村堰上に整備された4つの小水力発電所(北杜西沢発電所、北杜市村山六ケ村堰水力発電所、北杜川子石発電所、北杜蔵原発電所)
太陽光、風力発電への取り組み
丸紅は、小水力発電事業の開発をはじめ、全国で、地域環境の保全や生物多様性の保全に資する再生可能エネルギーの創出に積極的に取り組んでいます。
日本国内の主要な再生可能エネルギー事業(2020年3月現在)
発電所名 | 所在地 | 出力(当社持分) | 発電種別 |
---|---|---|---|
三崎ウィンド・パワー | 愛媛県伊方町 | 20MW (49%) | 陸上風力 |
十勝清水太陽光 | 北海道清水町 | 4MW | 太陽光発電 |
苫小牧太陽光 | 北海道苫小牧市 | 7MW | |
いわぬま臨空メガソーラー | 宮城県岩沼市 | 28MW | |
関川村太陽光 | 新潟県関川村 | 2MW (50%) | |
いわき太陽光 | 福島県いわき市 | 2MW (50%) | |
杖突峠太陽光 | 長野県伊那市 | 10MW | |
伊那非持太陽光 | 長野県伊那市 | 1MW | |
潮来太陽光 | 茨城県潮来市 | 2MW (50%) | |
小山町太陽光 | 静岡県小山町 | 2MW (50%) | |
木曽岬メガソーラー | 三重県木曽岬町・桑名市 愛知県弥富市 |
49MW |
二酸化炭素隔離回収・貯留への取り組み
丸紅は、日本CCS調査株式会社に出資しています。
同社は、2008年5月、地球温暖化対策としてのCCS※6を推進するという国の方針に呼応して、CCS各分野の専門技術を有する大手民間会社が結集して設立された、民間CCS技術統合株式会社で、二酸化炭素(CO2)の分離・回収、輸送、地中貯留技術の事業化調査及び研究開発業務、実証試験を推進しています。
6 CCS:Carbon Capture and Storageの略。二酸化炭素(CO2)の回収、貯留を意味しており、工場や発電所などから発生するCO2を大気放散する前に回収し、地中貯留に適した地層まで運び、長期間にわたり安定的に貯留する技術。
CCS 大規模実証試験
丸紅は、豪州・ビクトリア州の未利用褐炭から製造された水素を液化し、日本へ輸送する国際的なサプライチェーン構築の実証事業に取り組んでいます。将来の商用化実現のためには、水素製造過程において発生する二酸化炭素をCCS技術で分離回収・貯留する必要があることもあり、丸紅は、日本CCS調査株式会社が北海道苫小牧市おいて運営するCCS実証試験センターを、継続的に視察しています。同実証試験は、2012年度から2020年度までの9年間実施され、累計30万トンの二酸化炭素を地中に貯留する予定です。
環境負荷の低減化に向けた取り組み(興亜工業の取り組み)
丸紅の連結子会社・興亜工業(株)では、省資源の取り組みとして、生産過程で用いる水資源使用量の削減を図っています。
工場での抄紙には大量の水を必要とするため、工業用水と井戸水を併用し、それぞれの製造工程で循環使用することで必要量の水を確保しています。なお、最終排水はすべて活性汚泥槽でCOD(化学的酸素要求量)、BOD(生物化学的酸素要求量)を分解、浄化処理することで厳しい水質基準をクリアしています。
興亜工業では廃棄物排出量の削減活動にも取り組んでいます。
高濃度パルパー※7を用いて古紙を溶解することにより、これまで処理できずに焼却していた古紙の再製品化を可能にしました。
また、高熱焼却設備の活用により、発生する可燃性のゴミはすべて焼却し、その際に発生する熱エネルギーを回収・利用しサーマルリサイクルを実現しています。
この焼却炉は、900℃~1000℃の高熱で廃棄物を処理するため、有害物質のダイオキシンをほとんど排出せず、環境基準(NOx,SOx,CO2)をクリアしています。
この他、興亜工業は、ユーザーから発生する紙製廃棄物やオフィス系廃棄物を回収し、それを板紙として再生供給することで、取引先とのクローズド・リサイクル・システムを確立し、環境負荷の低減化を進めています。
興亜工業の環境に関する取り組みについては、こちらをご参照ください
7 高濃度パルパー:繊維と不純物を破砕することなく効果的に分離し、古紙から繊維を取り出すための機械
環境に配慮したパルプ製造の取り組み
当社事業会社のインドネシアでのパルプ工場では、環境への負荷を低減するため、ECF (Elemental Chlorine Free)漂白によるパルプ生産をおこなっています。
グリーン電力の使用

丸紅と株式会社パレスホテル(以下「パレスホテル」)は、2020年6月19日にパレスホテル東京にて開催した丸紅の第96回定時株主総会において、グリーン電力証書発行事業者である丸紅100%子会社の三峰川電力株式会社が発行するグリーン電力証書(1,500kWh)をパレスホテルが購入することで、株主総会会場での使用電力をグリーン電力でまかないました。当社が株主総会でグリーン電力を使用するのは、11度目となります。
グリーン電力とは、水力、風力、バイオマス、太陽光、地熱などの自然エネルギーより発電された電力のことで、石油や石炭などの化石燃料による発電と違い、CO2排出量が少ない、環境負荷が低いなどの環境価値があるとされています。
丸紅グループでは、今後もさまざまな形で環境への取り組みを推進していきます。