Scope#22 | Renewable Energy Test Center
太陽にかけろ-太陽光モジュールの診断を、投資家・ユーザー・メーカーのために
シリコンバレー、カリフォルニア-太陽の下でうっかりしていると、ひどい日焼けをすることも。
この10年、再生可能エネルギーは全世界でブームとなっている。太陽光はそのキードライバーであり、SolarPowerEuropeによれば2017年までの5年間で発電容量は4倍にまで増大しているという。これは原子炉400個分と同等の規模であり、その数字はさらに今後5年間で倍増すると予想されている。
各国政府の方針は、太陽光をはじめとする再生可能エネルギーの拡大を後押ししたり、阻んだりと安定しない。税制上の優遇措置やグリーンエネルギーの義務化、固定価格買取制度の導入・拡大をしたかと思えば、それらの制度の規模を縮小したり廃止したりしている。
多くのブームがそうであるように、投資家や企業が太陽光プロジェクトの十分な調査や検証をせずに流行に飛び乗ってしまうことで、リスクが発生している。エンジニアリングや契約、発電と配電設備業者など、リスクの在りかは様々だ。もちろん巨額の税金と規制の不確実性というリスクもある。
性急な行動によって実に大きな失敗事例が生まれている。当初想定していた発電容量が実現できなかった事例もある。中でも最も致命的なのは、太陽光を電力に変えて住居やスマートフォン、自動車に供給する太陽光モジュールの問題だ。
ここで、太陽光モジュールについての疑問が湧いてくる。これらのモジュールは期待通りの発電容量を実現できるだろうか?期待通りの耐久性があるだろうか?2~3年後に発火してしまわないだろうか?欧米の投資家たちはこうした問いへの答えを求めている。そして欧米以外の投資家たちにもこの動きは広まっている。
バンカビリティ調査はメーカー保証をバックアップし、そしてさらに・・
いわゆる“バンカビリティテスト”をしてプロジェクトを様々な面から分析することは、開発・資金調達・建設・売電契約の締結にとって重要である。バンカビリティという言葉は、銀行があるプロジェクトに対して投資をするかどうかをプロジェクトのリターンから検討することからきている。
太陽光モジュールのメーカー保証は20年か25年。しかし、それだけの年月そのメーカーが存続しているとも限らない。一貫して一流の大型モジュールを作る、そしてそのサプライヤーもクオリティを維持する。こうした保証があったとしても更に、投資家はモジュールの不具合という頭の痛い問題を避ける必要がある。
「様々なモジュールメーカーが存在します。コストを下げるために標準以下の品質の素材を使うメーカーもある。そのようなモジュールには、より高いリスクがあります。発火するかもしれない。人々を危険に晒すかもしれない。」バンカビリティテストと認証試験を行なうRenewable Energy Test Center(RETC)の共同創始者でCEOのCherif Kedir氏は言う。「私たちのバンカビリティテストでは、認証試験のガイドラインを上回るテストを行ないます。認証試験で求められる基準の2~3倍の負荷をかけ、さらに追加試験も行なって、モジュールが25年以上もつことを確認するのです。」
小さな利鞘をやりくりしているメーカーと、巨大なリスクをとっている投資家たちにとって、たった一つの失敗が致命傷になりうる。
Black & Veatch(B&V)の太陽光モジュールの評価コンサルティング部門でシニア・マネージング・ディレクターを務めるRalph Romero博士は、「メーカーがバンカビリティテストを行ない、そのフィードバックに耳を傾けていれば防ぐことのできた問題や失敗の事例は山ほどある。」と語る。彼らが指摘した非常に重要な問題を、クライアントが無視したケースもあったという。
「残念なことに、そのクライアントは全ての問題点の改善をしてはくれませんでした。そして対応されなかった問題のうちの一つが、設置済みの100万個以上のモジュールのリコールに繋がってしまったのです。約1.5億ドルという巨大な投資に対する信頼性―私たちが問題にしているのはそういうことなのです。」
設立から10年、バンカビリティのビッグプレイヤーに
太陽光モジュールのバンカビリティ分野は3つの企業で独占されている。カリフォルニアはフリーモントにあるRETCは、バンカビリティの最大のマーケットである米国において、トップクラスの収益と目覚ましいマーケットシェアを誇る。
RETCの歴史は2009年に遡る。コンピューターと半導体分野の元エンジニアだったKedirとAlelie Funcellは、新しい太陽光モジュールの技術を商業化するのに苦労してきた。そして日本の商社である丸紅が2018年の3月に70%の出資を行なった。
「私たちは当時、この産業において、認証プロセス、信頼性テストや実証試験、耐久性テスト、そして市場参入を支援する会社が必要だと切実に感じていました。」アルジェリアから米国に渡り、大学エンジニアリングを学んだ後、半導体の分野で働いていたKedir氏は語る。
バンカビリティテストは、プロジェクトを構成する一つ一つの要素――モジュールはもちろん、インバーターやトラッカー、蓄電池――に対して行われる。(インバーターとは直流電流を交流電流に変換して消費者が利用できるようにする装置、そしてトラッカーとはモジュールが太陽の方向を向くよう動かす装置のこと。)これに加えて第三者が、エンジニアリング、機器調達、建設(EPC)や環境に及ぼす影響など、プロジェクト自体のデューデリジェンスも行なう。
太陽光のバンカビリティテストにおいて、RETCはコストではなく顧客サービスやスピードといったクオリティで勝負している、とKedir氏は言う。彼らのバンカビリティテストでは、3~5ヶ月の間に、米国内の3箇所のテストサイトに加え、インド、フィリピン、チリからもデータを収集しレポートを作成する。「顧客はリアルタイムにそれらのデータにアクセスすることができます。」RETCのエンジニアリング・ディレクターであるEmmanuel Siason氏は言う。
「これが、競合他社と比較しての私たちの強みの一つです。顧客は3~6ヶ月経って初めて問題点を指摘されるということがありません。メーカーにとっては製品を市場に投入するまでの時間の短縮が勝負です。問題点をリアルタイムに知らせることによって、顧客は早急に問題解決に対応できるのです。」
両面太陽光モジュールのブームに“光を当てる”
創業からほどなくして、RETCは業界で確固たる地位を築いた。
米国を代表するエンジニアリングメーカーであるBlack & Veatchも、昨年、両面太陽光モジュールの技術を評価するジョイントベンチャーのパートナーとして、世界中の数ある候補からRETCを選んでいる。両面太陽光モジュールは、わずか5%から10%の追加コストで、最大20%の発電容量拡大を可能とする新しい技術だ。
2017年には34億ドルもの収益をあげたB&Vは、業界基準や慣例に則って、信頼性の高い両面太陽光モジュールのテストデータを収集することのできる企業を探していた。
「太陽光モジュール業界において、プロフェッショナルとしての評価が高く、優秀な経営陣が揃った信頼できるテストラボと関係を構築する必要がありました。そして出会ったのがRETCです。」とRomero氏は語る。
高速道路の防音壁のように垂直に設置することが可能な両面モジュールは、太陽光発電に革命を起こす可能性を秘めている。ちょうど、トラッカーが登場してきた頃に革命を起こしたのと同じだ。Romero氏は、銀行の信頼に足る正確な両面モジュールの発電容量予測モデルも、2年以内に確立できるとみている。RETCとB&Vは、米国の国立再生可能エネルギー研究所とも連携し、このモデルの有効性評価を進めている。
両面モジュールの採用に加え、RETCは2018年末までに、メガソーラーや家庭用太陽光発電で利用されるリチウムイオン蓄電池の認証試験やバンカビリティテストにも乗り出す。「蓄電池マーケットの成長は驚異的なものになるでしょう。」とKedir氏は言う。
丸紅もRETCの将来性に大いに期待している。RETCの力を借りて太陽光モジュールや蓄電池の最新技術を評価し、それらを丸紅のグローバルな再生可能エネルギービジネス、産業機械ビジネスと組み合わせてビジネスを展開していくことが丸紅の狙いだ。
「太陽光発電設備、分散型電源、蓄電池、いずれのビジネスでも」RETC会長の松角大介は話す。「低炭素社会に向かって進んでいくために、丸紅はRETCの専門性を信頼しています。」
(本文は、2018年9月の取材をもとに作成しています)
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