「アリンスキー後:イリノイに於ける住民組織化」という本がある。1990年編さんだが、ここに当時28歳のバラク・オバマが書いた「なぜ組織化するのか?」という文が寄せられている。彼は黒人教会を通じた住民組織化の重要性を説き、それによって人々が力と希望を持つことこそが自分が組織化に携わる理由なのだとしている。「アリンスキーモデルの分析」は1969年にヒラリー・ロドハム(のちのクリントン)が書いた卒業論文だ。彼女は論文を「アリンスキーが恐れられるのは(キング牧師と同様)彼が最も過激な政治信条 -民主主義- を信じているからだ」と結んでいる。アメリカの政治に詳しくなくても、バラク・オバマとヒラリー・クリントンを知らない人は少ないだろう。だがこの二人に影響を与えたアリンスキーという人物の名前を知る人は少ないのではないか。
ソール・アリンスキーは1909年、シカゴのスラム街でユダヤ系ロシア移民の子として生まれた。大学卒業後に大恐慌が起き、当初勉強していた考古学を諦め、大学院で犯罪学を学びイリノイ州で関連する職を得る。この間、研究のためのギャングとの接触の中で、力で人を自在に操る術を学ぶ。同時に犯罪の背景の一つである貧困に対する政府の無関心さに激しい反感を持つようになる。1938年、アリンスキーは職を離れ、以降は住民組織化に残りの人生をささげることとなる。