昨年のタイム誌の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」は沈黙を破った人(The Silence Breakers)だった。これは昨年から始まった#MeToo Movementの中で自分が過去受けたハラスメントを告発した人々を取り上げたものである。発端は昨年10月のニューヨーク・タイムズ紙による映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインのセクシャルハラスメントのスクープである。記事から10日後、女優のアリッサ・ミラノがツイッターで自分の経験をシェアしよう(#MeToo)と呼びかけ、これが大きな運動に発展した。スクープ当初は、貧困撲滅・銃規制・健康保険改革に熱心で、オバマ氏・クリントン氏の大統領選支援をはじめ民主党に多額の献金をしてきた同党支持者のワインスタインへの告発という点がハイライトされたが、時を置かずしてより大きな、ハラスメントに遭いながら沈黙せざるを得なかった女性が声を上げる運動となった。ミラノの最初のツイートから2日の間にツイッターでは100万を超えるツイートがあり、さらにフェイスブックでは1日で1200万を超える投稿があった。以降ほんの数カ月の間に、映画界にとどまらずメディアや政界等にも影響が及び、多くの著名人が糾弾されることとなった。
この#MeToo(自分の経験を語ることで共感の和を広げていく)の概念は10年以上前に黒人女性活動家タラナ・バークが性暴力被害を受けた黒人女性のための運動に使用したのが始まりである。ミラノは知らずに同じフレーズを使ったとしているが、今回の#MeTooの急激な拡大に対する黒人女性活動家の反発(白人女性は今まで黒人の運動を無視してきたのに白人が巻き込まれた途端に反応した事に対する)を受け、後にバークの賛同を取り付けている。
発端となったスクープから5カ月近く経過した本稿執筆時点では、運動の広がりと同時に#MeTooの副作用を指摘する声も出てきている。企業によっては男女2名での出張・会議や男性が女性を食事に誘うことの禁止などの規則(あるいは男性側の自主規制)が行われている等の話も報告されている。#MeTooへの行き過ぎた反応で女性のビジネスへの参画や情報アクセスが阻害されるリスクは今後議論されていくべきであろう。