米議会は民主党と共和党の対立が激しくなる一方だが、それがTPPの審議が進まない直接の原因ではない。TPPを巡っては民主・共和両党で内部対立がある。民主党ではオバマ政権がTPP推進だが、議会で同調する民主党議員は限られ、大半の議員は支持基盤の労働組合のTPP反対に同調している。共和党は主流派がTPP推進だが、保守強硬派と反主流派はTPP反対だ。両派の考えは異なり、前者はオバマ大統領の実績づくりを阻止したい、後者は労働者階級が多くTPPが雇用を奪うとみている。それでも議会では両党合わせればTPP推進派が多数だったから、オバマ大統領は議会から通商交渉権限を一任されて、TPP署名までこぎ着けた。
TPPを巡る情勢が変わったのは、政治的には共和党の大統領選の指名争いが不動産王ドナルド・トランプ氏の独走になってからである。同氏は、出馬表明時から共和党の大統領候補では異例のTPP反対を唱えていたが、支持基盤の労働者階級対策であり、主流派の取り込みが必要になれば軟化するとみられていた。しかし、共和党の予備選が主流派に逆風が吹き荒れる異常な展開になり、TPP推進の主流派候補がすべて撤退、トランプ氏は反主流派のまま党大会で大統領候補に指名された。TPP反対も、離脱を訴えるなど一層過激になり、党指導部と主流派の方がトランプ氏に歩み寄った。大統領選に向けた共和党の政策綱領の通商政策も、トランプ氏の「米国第一主義」が明記されて保護主義に傾き、TPPの年内承認への反対が盛り込まれた。
民主党も主流派への逆風が強まり、自称「民主社会主義者」のバーニー・サンダース上院議員が善戦、同氏が訴えたTPP反対は党内にも浸透した。民主党の大統領候補に指名されたヒラリー・クリントン前国務長官も、予備選で苦戦が続き、国務長官時代に推進したTPPに反対を唱えざるを得なくなった。民主党の政策綱領にTPP反対は盛り込まれなかったが、オバマ大統領への配慮であり、TPPには慎重である。こうして民主・共和両党でTPP推進派は減り、声を上げにくくなって、TPPの年内承認は明らかに難しくなった。