ポトマック河畔より#15 | 党内対立を抱えて進む共和党の大統領候補指名争い

今年11月の米国大統領選に向けた民主・共和両党の予備選がもうすぐ始まる。民主党はヒラリー・クリントン前国務長官の指名が確実だが、共和党は大混戦である。

これは、丸紅グループ誌『M‐SPIRIT』(2016年1月発行)のコラムとして2015年12月に執筆されたものです。

丸紅米国会社ワシントン事務所長 今村 卓

大混戦の共和党

過去の混戦の予備選では、最初のアイオワ州と次のニューハンプシャー州の勝者が指名を獲得することが多かったが、今回の共和党はこの2州だけでは見通しが立たないだろう。13州の予備選・党員集会が集中する3月1日のスーパー・チューズデーでも本命候補が定まらない可能性が高そうである。

もっとも筆者が今注目しているのは、誰が指名されるかではない。昨年12月中旬時点での支持率が3割前後で首位を走る不動産王ドナルド・トランプ氏と10%台の支持率でその後を追うテッド・クルーズ上院議員の上位2人の候補の異例の戦いである。

共和党は一枚岩の政党ではなく、所属する政治家と支持者は、党運営を独占し続けるエスタブリッシュメントと呼ばれる主流派、草の根で同党を支える保守派と一般大衆という三つのグループで構成されている。各グループの主張やイデオロギーの違いは大きい。そのため、過去の同党の大統領候補の指名争いでは、候補者の属するグループはもちろん、他グループからも幅広い支持を獲得することが勝利の条件だった。一般投票も、共和党内のグループを超えた支持の強さに左右され、実際優れていたレーガン元大統領とブッシュ前大統領は再選を果たしている。

共和党内の幅広い支持を目指さない有力候補

しかし今回の共和党の指名争いは、他グループの支持獲得への競い合いが少ない。トランプ氏はオバマ大統領と民主党、党内のエスタブリッシュメントとその候補への攻撃に集中し、共和党支持の一般大衆に受ける発言をひたすら繰り返す。保守派のクルーズ氏も同じであり、保守派の支持獲得しか眼中にない。

逆に、エスタブリッシュメントに属して保守派や大衆の支持獲得を目指す従来型の戦略を選んだ候補は苦戦している。一年前の本命候補だったジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は支持が低迷し、同氏のライバルとみられたスコット・ウォーカー現ウィスコンシン州知事は撤退した。唯一健闘しているのが支持率が10%台に上がってきたマルコ・ルビオ上院議員であるが、エスタブリッシュメントの中での勝ち残りが実態であり、保守派や大衆の支持獲得では苦戦が続いている。

共和党の懸念は、党内で一部グループの支持しか得られないトランプ氏やクルーズ氏が指名を獲得するようでは、一般投票で民主党のクリントン氏に勝つことが困難なことである。逆に言えば、今後党内でクリントン氏と戦える候補を選ぶという機運が高まり、党内の広範な支持獲得を目指すルビオ氏が浮上する可能性はある。世論調査も、若いルビオ氏が指名されれば、年齢の高いクリントン氏との選挙戦は大接戦になるとの見通しである。とはいえ、過去にないほど反エスタブリッシュメントの保守派や大衆が、ルビオ氏の指名獲得を容認できるかは不透明である。各グループの対立がこのまま続いて、7月の共和党全国大会で大統領候補が決まる異例の展開の可能性も排除できない。

二大政党制の危機か

この共和党の党内他グループへの不寛容は、政党としての機能低下の表れである。それはライバルの民主党にも対岸の火事ではない。同党にはクリントン氏に対抗できる若い候補者が現れなかったという別の機能低下がある。無風の指名争いでも、民主社会主義者と名乗るバーニー・サンダース上院議員の支持率が3割に達するなど党内対立の根深さが示唆されている。そうした意味では、米国の二大政党制という政治システムの疲労であり危機なのである。

日本にとっても同盟国であり緊密な経済関係のある米国で生じているこの危機は重要な問題である。今後は大統領選で誰が選ばれるかだけではなく、二大政党制の危機が強まるのか逆に再生の力が働くのかも見ていく必要がありそうだ。