ポトマック河畔より#25 | アメリカの家庭廃棄物事情

これは、丸紅グループ誌『M-SPIRIT』(2018年7月発行)のコラムとして2018年5月に執筆されたものです。

丸紅米国会社ワシントン事務所長 峰雄 洋一

膨大なゴミ

アメリカの家庭廃棄物の量は2014年で2億6000万トン。日本の4600万トンの5倍を超える量である。アメリカの家庭の半数にディスポーザー(流し台に設置された生ゴミ粉砕機)が設置されており、下水に流される分を足し戻せばさらに多くのゴミが出されていることになる。2億6000万トンのゴミの半数を超える1億4000万トンが埋め立てに回る。焼却されるのが3000万トンでリサイクル・肥料化されるのが3分の1の9000万トンである。

分別できないアメリカ人

1999年に私が最初にアメリカに来て驚いたのはアパートメントのビルにゴミ分別がないことだった。フロアごとにあるダストシュート(1階の集積場につながっている)に生ゴミも新聞紙もプラも缶もビンも全て一緒に放り込むのである。高層階からビンを入れれば当然下で粉々になるがお構いなし。最初は抵抗感があったが慣れると便利だ。24時間いつでも何でも分別せず捨てられる。この習慣に慣れた後に日本に帰任して厳格な分別・ゴミ出しに閉口したものである。今住んでいるビル1階のゴミ置き場には大型のリサイクルボックスが置かれているがあくまでも住人の自主性次第。見る限りさほど励行されているようにも思えない。一戸建ての場合には決まった回収日があり、リサイクルとそれ以外の分別は存在するようだが、分別の厳格さは場所や回収業者によってバラつきがあるようだ。もちろん日本のように何種類にも分別する必要はない。

アメリカの公共トイレに最近ハンドドライヤーが増えてきたが、未だ主流はペーパータオルだ。それをアメリカ人は何枚も引っ張り出して手を拭く。さらにドアノブをつか むのにもう一枚取る人もいる。その紙でドアノブを一回回したらおしまい。これらが全てゴミになる。

アメリカのフードコートやスターバックスに日本のような飲み残しを入れる容器はない。場所によりリサイクルとそれ以外の二種類のゴミ箱があるのがせいぜいだ。飲み 残しや氷はそのままゴミ箱に行き、買ったコーヒーの量が多いとゴミ箱にコーヒーを流し込んで調節する人もいる。個人が一所懸命ゴミを分別する日本から見るとこの国は「豊か」で「おおらか」だ。

ゴミを押し付けられる地方

「毎日300万人が地方から文化・ビジネスの中心ニューヨークを訪れて膨大なゴミを残して帰っていく。そのゴミを地方に戻してもお互い様だろう」。近郊の埋立場閉鎖に伴い廃棄物の大部分を他州に持ち込もうとして受入先から反発されたニューヨーク市長のジュリアーニ(1999年当時)はこう言い放ったものである。ゴミ受入先の一つだったバージニア州のギルモア知事はジュリアーニに対して「 I am offended= 不愉快だ」という手紙を送りつけた。当時私もバージニア州に居住していたが、友人がジュリアーニを「金にモノを言わせて地方をバカにして許せん!」と憤慨していたのを思い出す。

だが北部バージニア・ワシントン近郊の裕福な人間たちが憤る一方で、実際にゴミを受け入れる自治体では埋め立てに伴う収入を見込んで、むしろ受け入れ歓迎の声も聞か れた。賛否両論ある中、バージニアは廃棄物受け入れを制限しようとしたのだが、廃棄物処理業者に憲法(商業条項)違反として訴えられ、簡単に敗訴している。

時代は異なるが2016年のデータでは、ニューヨーク等の米北東部の埋立コストがトン当たり78ドルに対して、バージニア等 の南東部は40ドル前後である。ニューヨーク市で排出されるゴミは、鉄道・バージなど様々な手段で域外に運ばれ処理される。市場の原則通り経済合理性に従うのがこの国のやり方のようである。

リサイクルと輸出

アメリカでリサイクルされるゴミの3〜4割が輸出に回されている。2016年時点で1600万トンが中国向けであったのだが、昨年から今年にかけてこの流れに変化が現れてきている。アメリカは環境負荷の高い埋め立てを減らすべく90年代から積極的にリサイクルを進めてきた。その中で労働コストが低く、船腹の帰り荷で輸送コストが抑えられる中国向けの割合が大きくなってきていた。ところがリサイクルゴミの分量が増えるに連れて分別が追いつかず不純物が極端に増え、安全性を懸念した中国側が不純物の上限基準を厳しくすることとなった。さらに今年に入ってからは中国が全面的にゴミの輸入を禁止しリサイクルの取引価格が下落。業界では経済合理性の無いリサイクルを諦めて、集めたゴミを埋め立てに回してしまう事態も発生している。

地域による差はあるものの、場所の制約から埋め立てのコストは確実に上昇しており、今後何らかの方策を考えざるを得なくなるのではないか。だが、このように問題が深刻になってくると何らかのアイデアが考え出されてくるのがアメリカである。これがきっかけとなって新たなビジネスや市場が生まれることを期待したい。