10月1日から多くの米国連邦政府機関が閉鎖された。2014会計年度の暫定予算が前日までに成立しなかったためである。
オバマ政権である民主党と共和党は財政交渉で度々対立し、今年3月には歳出の強制削減が発動された。ただ、その後は景気回復が軌道に乗り、政権と両党が過去に合意した増税と歳出削減策の効果が出始めて財政赤字の縮小が進み、両党の財政交渉への関心も薄れていった。これを受けて民主党側は、9月の予算交渉も10月の連邦債務の上限引き上げ交渉も、荒れることなく終わるとみていた。
しかし、医療保険改革法を潰したい共和党が、予算と債務上限引き上げを人質にとる瀬戸際戦術を取ったことで状況が一変したのだ。
共和党は、オバマ政権の最大の功績である医療保険改革法を「社会主義的」であると嫌い、議会で同法を潰す試みを40回以上も行ってきたが、民主党が多数いる上院に阻まれてきた。その上、連邦最高裁判所が12年夏に医療保険改革法に合憲判断を下し、同年秋の大統領選と上院選では医療保険改革法の廃止を主張した共和党が民主党に敗れた。医療保険改革法も、先月10月からは「エクスチェンジ」と呼ばれる医療保険購入システムが稼働し、医療保険加入の義務付けも14年1月に迫るなど、本格施行の段階に入った。そうした中で共和党は「オバマ政権が医療保険改革法を見直さなければ予算成立も債務上限引き上げも認めない」という瀬戸際戦術を思いついた。
しかし、この共和党の戦術転換には、無理があった。医療保険改革法の見直しと、予算や債務上限引き上げには直接の関係がないからだ。共和党が財政赤字や歳出の削減を求めるのなら合理性はあるが、医療保険改革法の見直しが条件では言いがかりに等しい。しかも、成立から3年以上が経った医療保険改革法を潰そうとする行為は、民主主義という政治システムへの挑戦となってしまう。なぜなら医療保険改革法は、正式に成立した法律であり、最高裁に合憲と認定され、国民は同法に対する承認の意思をオバマ大統領の再選を通じて示したからだ。逆にいえば、このように民主主義の価値観を体現した医療保険改革法であったからこそ、共和党は攻めあぐねたのである。そして無理に潰そうとして予算や債務上限引き上げを人質にとる無節操な行動に至り、オバマ政権と民主党の反発を招いて、同党も避けたかった政府閉鎖という結果を引き起こしてしまったのである。