「国有地の利用を巡って国と地元民兵組織がにらみ合い、お互いの狙撃手が相手に銃口を向けて一触即発の状態」
これはどこかの紛争地での話ではない。2014年のアメリカ、ラスベガスから車で1時間半足らずのネバダ州内で起こったことである。事の発端は1990年代、連邦政府(内務省傘下の土地管理局)が環境保護の目的で既に放牧に使われていた土地の使用制限をしたことに始まる。反発した牧場主はそれまで連邦政府に払っていた使用料支払いを拒否。以降20年にわたる督促を無視して連邦政府保有地で放牧を続けた。2014年、遂に土地管理局は未払い金回収のために放牧されている牛の差し押さえを始める。これに憤慨した牧場主がメディア等を使って「連邦政府の越権」と喧伝。これに呼応して州内外から集まった武装民兵(一説には200人を超える)がGadsden Flag(後述)を掲げて気勢を上げ、土地管理局とにらみ合いになった。結局、人数と火力に劣る土地管理局は銃を納め、いったん差し押さえた牛を返却することとなった。これは連邦政府の法の執行に人民が抵抗し連邦政府が撤退したということに他ならない。
合衆国憲法の修正第10条には「憲法によって合衆国に委任されていない・あるいは憲法によって州への付与を禁止されていない権限は、おのおのの州、ないしは人民に帰属する」とある。彼らの主張はこれに従い、仮に当該の土地が連邦政府保有といえども、その使用いかんについての規制権限(Police Power)は連邦にはなく州に属する(従い連邦政府の介入は州の主権を侵す)というものだ。だが、この主張は裁判所で否認されている。合衆国憲法第4条により合衆国に直属する領土・財産を処分する権限は連邦議会に帰属すると明記されていることが根拠だ。
州内にある連邦政府保有地を巡る問題はネバダの一件に収まらなかった。同件に関係した民兵組織の一部が2016年、今度はオレゴン州の動物保護区(連邦政府保有)の建物を1カ月以上占拠する事件を起こす。連邦土地保有に不満を持つ地主が裁判(放火容疑)で5年の懲役判決を受けたのを不服とする民兵組織が保護区のある町に集結。武装集団が1カ月以上にわたって建物を占拠することになった。最後は全員が投降することとなったがメンバーの1人がFBIによって射殺された。