トランプ政権の発足から今まで、成立した重要法案は皆無である。トランプ氏は昨年秋の大統領選の勝利の後、政権は最初にオバマケア(医療保険制度改革)の廃止と代替を速やかに行い、その後に税制改革や大規模インフラ投資を実現して「米国を再び偉大にする」と強調していた。市場も同氏がビジネスで発揮した実行力に期待していた。しかし、肝心の政権運営はスタート地点でつまずいた。共和党が議会の上下両院を制しているから成立は容易にも見えたが、同法案は同党の内部対立から可決できなくなり、早期成立で政権運営に弾みをつけるはずだったオバマケア見直し法案は上院で頓挫、政権の最初の貴重な半年を浪費する結果になった。トランプ氏はオバマケアが崩壊していると繰り返し強調したが、実際に崩壊したのは同氏の見直し法案だった。
オバマケア見直し法案が頓挫に至る過程では、トランプ氏の法律制定への関心の低さという大統領、いや政治家の資質が疑われる問題も露呈した。トランプ氏が求めたのは議会通過という結果だけであり、同法案の具体的な内容や医療保険制度の改革には関心がない。それは、同法案が低所得者向け支援の削減などトランプ氏の支持層である白人労働者階級に不利な内容にもかかわらず、多くの国民の保険料が下がると唱え続けたことからも分かる。ホワイトハウスに招かれてトランプ氏から法案への賛成を呼び掛けられた議員からは、トランプ氏が同法案や医療保険制度の基礎的な内容を理解しているのか疑問視する声が漏れてきた。そんなトランプ氏の説得に応じて賛成に回る議員が出るはずもない。同法案の頓挫の責任は上院の共和党指導部だけでなく、トランプ氏にも大いにあると言ってよいだろう。