今月(2021年11月)初旬、筆者の住むバージニア州で知事選が行われた。実績もあり、著名で政権とも近く、元知事として実績もある民主党候補と、投資ファンドの元トップで政治経験のない共和党候補の一騎打ち。一ヶ月半前までは民主党の圧勝を誰もが信じていた。だが、9月後半から風向きが変わり、投票日直前には両者の支持率がわずかながら逆転。ふたを開けてみると共和党候補者の当選が決まっていた。
民主党候補が敗れた理由の一つとして、民主党支持者の教師が学校で「批判的人種理論」を教えていたことに対する親の反発が挙げられている。民主党が強いバージニア州で、選挙の形勢を逆転させるほどに反感を買ってしまう批判的人種理論とは何か。
一般的な定義で言えば、人種という概念が、肌の色・髪質・顔の作り等の身体的な特徴によって自然に定まったのではなく、人が社会を形成するにあたって、特定のグループの抑圧・搾取を目的として、人為的に作られたものであるとする理論である。
同理論に従うと、差別目的で人種を「作ってきた」差別的な社会の下で成立した法律や制度では、その社会に根付いた差別問題は解決できないということになる。この一例として、1954年に成立した最高裁の判決(ブラウン判決)を挙げる。この判決は、黒人と白人の人種分離教育(白人の教育の場から黒人を排除する)を定めたカンザス州法を無効としたものだが、同判決の背景に、第二次大戦や朝鮮戦争で国に尽くした黒人復員兵が、人種分離教育に反発して暴動を起こす懸念があった、とする説がある。同判決で人種分離教育という表層的な問題は解決されたが、前提となった「黒人は暴動を起こす」という決めつけ(まさに人種を「作る」行為)は、法律や判決では変わらない。これを解決する為には、国民が差別の本質を認識すべき。これが、この理論を唱える人々の主張だ。そして、認識形成のための具体論として、早い段階での教育に取り入れるという考え方は理にかなっている。
この複雑な理論そのものがバージニアの初等・中等教育に取り入れられていたとは考え難い。むしろ、同理論の影響を何らかの形で受けた、ただし一般的な反人種差別の教育が施されていたというのが実態だろう。一方、この理論が学校で教えられているとする(それを推進する民主党が問題であるとする)共和党キャンペーンの主張が、少なくとも一部の有権者の耳に届き、民主党に対する反感が醸成されてしまった。これは何故か。