統合報告書 社長メッセージ

何が起ころうとも揺るがない基盤を
構築するとともに、
商社の枠組みを超え進化し続ける
価値創造企業グループへ

「中期経営戦略GC2021」の基本精神を変えることなく、
新たなビジネスモデルに挑戦し、
長期的な企業価値向上を目指します。

新型コロナウイルス感染症による影響を受けられた方々に謹んでお見舞い申し上げますとともに、医療現場の最前線で治療に当たっている医療機関の皆様や感染拡大の防止のためにご尽力されている多くの方々に深く感謝申し上げます。

当社グループにつきましても、世界各国のグループ社員や顧客、パートナーの安全確保を第一に掲げ、最大の注意を払って事業活動を継続している状況です。社長として、日々のビジネスを遂行するためにそれぞれの持ち場で目の前の課題に立ち向かうグループ社員全員に感謝すると同時に、このような困難な状況の中においても丸紅グループの未来を見据えて最大限のパフォーマンスを追求する姿を誇りに思います。

GC2021の基本精神は変わらない

2020年3月期は、2019年4月に社長を拝命し、新社長として、新しい中期経営戦略GC2021を浸透させることに注力した1年でした。特に若い人たちとのフェース・トゥ・フェースのコミュニケーションを頻繁に行いました。まずは社員一丸となるためにメッセージを浸透させるべく、海外もできるだけ多くの国を回って駐在員や各国のスタッフを集めて、繰り返しコミュニケ―ションを行いました。

とにかく今はイノベーションが起こっています。技術的なブレイクスルーを含めて、何もかもが加速度的に動いており、時と場合によっては、今までステップを踏んで進んでいたものが一足飛びに進んでしまいます。

例えば、私が担当していた電力ビジネスにおいては、小さな村であっても電気を通すためには、送電線や配電線が必要なのですが、太陽光パネルを設置すれば、その村だけのシステムを構築することもできるようになりました。そうなると、送電線などが不要になる。今までは夢だったことや、なかなか技術的に難しい、と言っていたことが、ブレイクスルーが起こって可能になる。今までのステップを踏んでやっていればうまくいく、という考え方が通用しなくなりました。

商社は色々なビジネスの集合体ですが、それぞれのビジネスがこれまでに築いたのれんの中でビジネスをやっていれば間違いないし、お客様も来てくれるし、仕入れたものを売りに行けば、みんな喜んで買ってくれる、というかつての常識が否定される世界になりました。そうすると、のれんの中にずっと入ったままでは新しいことに出会えないので、社員に対しては、とにかくのれんの外に出てみて、隣の部署が何をやっているかを見てほしい、と伝えています。商社は色々なことをやっていますので、それぞれのビジネスをクロスできる可能性がいくらでもあるわけです。実は、このような話は昔も議論されていました。シナジーを創り出すなどと言っていたのですが、結局、自分たちの組織の中、自分たちののれんの中で頑張ればいいという文化からなかなか抜け出せませんでした。別に抜け出さなくても、うまくいっていたのですが、色々なブレイクスルーによって自分たちがやっていたことが全然通用しない世界、自分たちが持っているものもあっという間に陳腐化する可能性が出てきました。中期経営戦略には、「『機会』と『脅威』が同時に到来」と書いているのですが、まさに本気でそう感じており、この考え方をグループ全体で共有していきました。丸紅グループの長期的な方向性として掲げる『Global crossvalue platform』は、追い詰められた結果、やらないと自分たちの生きていく術がなくなってしまうのではないか、という恐怖心から生まれたものです。

そのような状況の中で新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、当社の2020年3月期決算では多額の減損損失を計上し、株主の皆様をはじめステークホルダーの皆様にご迷惑をお掛けすることになりました。ハードランディングとなりましたが、自分たちの財務体質や体力をきちんと維持しておかないと長い目で見たときに株主、投資家、お取引先、社員も含めて、結局もっと大きな迷惑を掛けることになることから、丸紅グループの未来に期待していただきたいと考えて決断しました。ただし、コロナが起こらなかったとしても世の中の流れはものすごく早く変わってきています。世の中の流れにしっかりと合わせていかないと取り残される、自分たちが持っている資産もあっという間に陳腐化する可能性がある、と繰り返し議論して社員に浸透させてきたGC2021の基本精神は変わらないと考えています。よって、この機を捉えて、自分自身を見直す、自分の置かれている状況や周りをよく見渡して、反省すべき点を反省し、もう一度気を付けないといけない点を見直すなど色々なことに取り組んでいます。

社員一人ひとりの積み重ねが会社の成果

やはり商社は人です。会社にはまず中期経営戦略があって会社の目標があります。これを各グループ、営業本部、部へと落とし込んでいきますが、最終的には個々の社員一人ひとりの成果の積み重ねが会社の成果になります。この考え方をベースに、今期からは人事制度改革にも取り組んでいます。個々人のミッションの設定の仕方を間違うと、あるいは本人が正しく理解できていないと、全然違う方向に努力が向かってしまうので、そのミッションの設定を正しく行うことにこだわる形にしました。いつも会社に居て、何か手を動かしている、そんなことで頑張っているな、と評価するのは本当の評価ではないので、いかに会社が目指しているものを達成するか、そのために、その人にやってもらいたいことは何なのか、それをミッションとして設定します。評価される側としても、正しく評価されていないとやっぱり面白くないので、この1年、こういった成果を上げてほしいということを明確にしていくことにしました。

戦略実行を担保するガバナンスの徹底

会社の成果の考え方も大きく変わってきています。これまでの世の中では利益を計上するという、一つの財務価値を極大化することが目的になっていた側面もあったかと思います。

この100年程度、あまりにも駆け足で動き過ぎたので、自分が今立っているこの地球に対する負の貢献があまりにも大きくなり過ぎました。特に気候変動など環境については話題にならない日がないぐらいですが、まずは足元から始めていくなかで、当社も石炭火力発電に対する考え方を商社業界の中でも最初に宣言するなど取り組みを打ち出しています。

ESGと言えば環境が大きくクローズアップされていますが、私はガバナンスが一番重要だと考えています。ガバナンスがしっかりしていれば、環境や社会の課題に対して適切に対応することができ、戦略を実行するうえでの担保となります。戦略実行のためにはガバナンスがしっかりとしていないと何事も実現できないため、取締役会レベルのガバナンス、実効性を重視しています。当社の取締役会は非常に厳しく、色々なご意見をいただきますが、それが正しい姿だと思います。当社は、今期から、取締役11名のうち、社外取締役が5名となり、将来的には社外取締役の人数が社内取締役の人数を逆転することになると思います。ただ、社外取締役には単に社内取締役と同じ役割を期待しているわけではありません。社外取締役の一番のポイントは社外の目ということになります。例えばある投資案件について社内で議論を始めると、いつの間にかどうやったらこの投資案件を実行に移せるかというところで熱い議論になることもあります。そうすると、取締役会において、なぜこの案件をやるのですか、当社の発展のために必要なのですか、といった非常にシンプルな質問をされたときに誰も答えられない。審議が差し戻しになったことも何回か経験しています。我々が思ってもいない角度から、あるいはまさに社外から見た意見というのはものすごく大事だと思っています。

また、当社には数多くのグループ会社がありますので、本社のガバナンスだけではなくて、グループガバナンスを高める必要があります。重要な関係会社レベルで取締役会の実効性をきちんと担保できないと、最終的なグループガバナンスが徹底されているとは言えません。これは大変な作業なのですが、究極的には本社と同じようなガバナンスを実行させないことには、グループガバナンスが構築されているとは言えないのではないかと考えています。

信頼回復に向けて

2020年3月期決算の結果については、各ステークホルダーの皆様に対して本当に申し訳なく思っています。とにかく信頼を回復するためには、シンプルに言うと二つあると思っています。一つは、我々は存続していかないと持続的に株主や投資家の皆様にお返しすることができないということです。一度にお返しするようなものではないので、存続するためには、減損によって非常に傷んだ財務的な体力の回復に注力させていただきたい、ということです。今回大きく減配させていただいたのですが、そういったことも含めて体質改善に使わせていただき、GC2021が終わる2022年3月末にはネットDEレシオを1.0倍程度まで戻します。そのためには2021年3月末は少なくとも1.1倍程度。この目標に向けて徹底的に取り組みます。もう一つは、2021年3月期は減損を出した次の期となりますので、とにかく我々が約束した予算を達成することです。この二つに注力して結果を出すことで信頼を少しずつ回復していきたいと思います。

大きな減損をしたことで社員に対しても大変な思いをさせてしまっていますが、これは将来に向かっての大きな取り組みであり、将来の若い人たちが軽やかに走り回れる環境づくりができたと確信しています。株主や投資家の皆様に対しても、我々の将来に期待いただける環境が整ったと思いますし、結果を出していく自信もありますので、ぜひこれからの丸紅を見ていてください。

2020年8月

代表取締役 社長 柿木 真澄