統合報告書 社外取締役鼎談

目指す長期的な経営の
実現に向けた、
ガバナンス体制の構築

持続的な企業価値向上の実現に向けて、今、丸紅は
何をするべきか― 今回は、社外取締役3名に
「取締役会の実効性向上」「サステナビリティ」
「指名委員会、ガバナンス・報酬委員会の役割」の
観点から語っていただきました。

取締役会の実効性向上に向けて

北畑
私は、丸紅がコーポレートガバナンス・コードの全項目についてコンプライしていることはもとより、J-SOX法の適用以来続く一連のコーポレート・ガバナンス改革に対する丸紅の取り組みについて高く評価をしています。分かりやすい例では、取締役会を構成するメンバーに変化が見られることなどです。私が丸紅の取締役に就任した7年前は、社外取締役2名が取締役会の構成メンバーでしたが、現在は11名の取締役のうち5名が社外取締役で構成されており、更に女性取締役の選任も継続するなど、多様な意見を取り込む体制への変革に積極的に取り組んでいます。議長である会長を除くと、社内取締役と社外取締役の比率は5対5となっています。また、議決権はありませんが、監査役(社外監査役3名、社内監査役2名)も取締役会に出席し議論に参加するため、人数で言えば社外役員と社内役員が対等の取締役会になっていると言えます。

一方、取締役会に上程される付議事項の内容とタイミングについては、改善すべき点があると考えています。取締役会の付議事項の内容については、経営会議など他の会議体に委ねてもいい議案もあります。そのためには、社内の会議体をより活性化させるとともに、取締役会の役割をモニタリングへと移行させるなど、それぞれの会議体が持つ役割を再整理する必要があります。
それから、付議事項が上程されるタイミングについては、一律ではなく柔軟に考えてもいいと思います。例えば、大型M&A案件をはじめ、複雑な案件については、より早いタイミングで上程されてもいいと思います。こうした課題を解決することで、社外役員中心となった取締役会がより実効性を高めることができるようになると考えます。

高橋
取締役会実効性評価について、私自身もガバナンス・報酬委員会委員長として関わっており、外部の専門家を起用して全取締役と監査役から意見を聞き、毎年実施しています。取締役会の質の向上に伴い、実効性評価の内容も深化してきたと思います。意見の聴取方法についても、より具体的な意見が聞き出せるように、工夫や改善がなされています。

私が丸紅の実効性を高める取り組みの中で優れていると思う点は、取締役会で十分な議論ができるように事務局からの事前説明体制が確立されていることです。丸紅が抱える案件は、幅広くかつ複雑なものが数多くありますので、特に社外取締役にとっては取締役会が開催される前に概要をしっかりと理解することが大前提となります。取締役会を支える事務局の皆さんの対応も含め、ガバナンス体制を有効にするための環境づくりが確立されている点は非常に優れていると思います。

一方、課題としては大きく3点あります。まず1点目は、北畑さんがおっしゃったことと重複しますが、取締役会での審議案件が多すぎるのではないかということです。取締役会に上程される案件を見直してより厳選し、1件当たりの審議の充実を図ることで、取締役会の実効性も更に高まると考えます。また2点目は、いかに多様性を取締役会に取り込むかということです。丸紅は、グローバル市場で欧米企業と激しい競争を展開する企業ですから、欧米企業に見劣りしないレベルに取締役会メンバーの多様性をより高めることで、更に議論を深める余地があると考えています。例えば、女性取締役比率を高めることや、外国人の視点を取り入れることで、これまでとは全く異なる角度から意見やアイデアが出る可能性が考えられます。最後に、株主および投資家の皆様の視点をどう取締役会に取り込み、経営に反映させていくかということも課題であると考えます。取締役会やその他会議の席上において、IR担当役員であるCFOより、株主および投資家の皆様の意見を私たちにしっかりと伝えていただいてはいますが、今後は私たち社外取締役を含めた取締役会のメンバーが、株主および投資家の皆様と直接的な対話を通じて意見をうかがう機会を増やしていくことも一案だと考えています。


私は、色々な議案について非常に活発な議論が行われ、賛成・反対を問わず、一人ひとりの意見が尊重されていることが丸紅のコーポレート・ガバナンスの優れている点だと思います。反対論であろうと、しっかりと自分の意見を述べることができ、それに対する議論も徹底して行っていることは、非常に透明性が高く、オープンな取締役会の運営がなされていることの証左だと思います。この背景には、これまで現在の議長である会長をはじめとする取締役会のメンバーが、社外取締役の意見を尊重するという姿勢で議事運営されてきたことが影響していると考えます。

課題については今、北畑さんと高橋さんがおっしゃっていた付議議案の見直しや、意思決定をする場というよりも監督機能やモニタリング機能へと取締役会の軸足を移していく必要があると思っています。「中長期的な視点に立った様々な課題に対する議論」「事業ポートフォリオの在り方」「商社ビジネスの今後」といったテーマや、取締役会、特に社外取締役が、株主および投資家の視点を踏まえた活動を行えているかということについて、もっと色々と具体策を検討し、議論を深めていく必要があると考えています。

丸紅のサステナビリティについて

北畑
現在、丸紅は太陽光発電をはじめ、バイオジェット燃料や水ビジネスなど、環境・社会課題への貢献に繋がる事業に取り組んでいます。丸紅のルーツである近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」という精神は、現代のSDGsやサステナビリティに通じるものであると私は考えています。そうした意味で、社会の課題解決は丸紅の創業以来の存在意義の一つなのだと思います。

丸紅にとってサステナビリティを実現していく基盤が何かと言えば、第一に「人財」だと私は思います。意欲のある人財を採用し、採用した人財の能力を伸ばし活躍できるよう育てる環境を整備していくことが重要です。

高橋
丸紅では、サステナビリティ推進委員会が中心となって、会社としてのサステナビリティに関する非常にしっかりした方針を策定しています。この方針をどう具体的な行動に落とし込み、結果に繋げていくかは、先ほど北畑さんのお話にもあったとおり、人財が鍵となります。丸紅の場合は、取り扱う事業が多岐にわたり、しかもグローバルに展開しています。当然、人財も世界中で活躍していますので、こうした人財一人ひとりに浸透させる仕組みづくりが重要となります。そして、世界中の拠点とサプライチェーン全体を活用することにより、目指している社会課題への貢献に対して総合的なアプローチができると思いますし、新たなビジネスの創出も可能であると思います。


サステナビリティ推進委員会は2年前に発足し、私もこの委員会に参加していますが、当初から組織横断的なメンバーで非常に熱心な議論を重ねています。メンバーの皆さんが現場で感じたことをもとに、事業活動を見直し積極的な提案があったことを心強く感じました。それらの成果の一例として、長期的な時間軸における展望のもとで石炭火力発電を半減するという目標を掲げたこと、TCFD※1への賛同を早期に表明したことが挙げられます。

丸紅は「基盤マテリアリティ」「環境・社会マテリアリティ」を特定していますが、その中でも人財こそ丸紅にとって最も重要な資産であるということは、サステナビリティ推進委員会メンバーの共通認識となっています。人財に対する投資として様々な機会・経験を提供していく体制構築は非常に大切であり、こうした考えが人事制度の見直しにも繋がっていると思います。私は、サステナビリティという一つの軸が、経営の中に着実に浸透し定着してきていると感じています。

北畑
翁さんがおっしゃった丸紅の石炭火力発電に関する方針決定については、収益面を考えると大きな経営判断だったと思います。一方で、社会の要請に応えることを重視する丸紅の姿勢を世に知らしめたことは、大きな意義があったと思います。それから、ビジネス拡大に向けた取り組みという意味では、小規模な案件も含めて積み重ねていく必要がありますが、太陽光発電事業に関しては先行しており、今や中東地域で原子力発電所1基分に相当する規模の太陽光発電を手掛けるまでに成長しています。今後は、水や食糧、海洋プラスチックといった新たな社会的課題の解決に繋がるビジネスへと取り組み、成果を出していくことに期待しています。また、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、企業はワクチン開発など社会的要望に応えていくことが求められていますが、それ以外の領域においても、環境と同時に衛生水準を改善するといったニーズは日本でもグローバルでも出てくると思います。丸紅は、そうした新しい社会的要望に積極的に応えながら、大きなビジネスチャンスを取り込んでいくことができる企業であると思います。

高橋
新型コロナウイルス感染拡大の影響で言えば、在宅勤務を含むテレワークなど、今まで便利だろうけれど導入に踏み切れていなかった新しい働き方の導入が進み、今後、日本企業での働き方というのも大きく変わってくると思います。今回の危機を乗り越えた先には、働き方をはじめ新しい生活様式という大きなパラダイムシフトが起こり、そこにあるニーズを取り込む必要が出てくると思います。


働き方改革については、率先して進めていただきたいと思っています。丸紅はIT環境整備が進んでおりテレワーク導入も積極的に進めていますが、会社に出社しなければできない業務プロセスも一部残っているので、見直していく必要があると、先日の取締役会でもお話しさせていただきました。ワークライフバランスを実現できる柔軟な働き方が可能になることで、丸紅がよりサステナブルな企業として評価され、理想とする人財も集まってくるという好循環が生まれることを期待しています。

一方で、新型コロナウイルス感染拡大によるリスクとして、今後不確実性が一層高まる中で、グローバル経営は非常に難しい舵取りを求められると思います。また、国内では新型コロナウイルスの影響によって資本不足となる企業が増加することが予想されるなど、大きな環境の変化に晒されています。どのように取り組んでいくのか、丸紅としても様々なリスクへの対応が必要になると思います。

指名委員会、ガバナンス・報酬委員会の役割について

北畑
指名委員会は、株主総会に上程する取締役および監査役候補に関する議案について、取締役会のもとで審査を行い取締役会に答申することが役割となります。また、社長が作成する役員人事案を審議する役割があります。選定プロセスの透明性を確保するために、社外役員が過半数を占める指名委員会にて議論をつくすという仕組みになっています。

私は指名委員会の委員長を務めていますが、今後の重要な役割は後継者育成計画の策定であると考えています。時代がどのように変化しようとも、丸紅のリーダーとして相応しい行動や経営判断ができる将来の幹部候補者を育成し、研修体系の整備・構築などに取り組んでいきたいと考えています。

高橋
私が委員長を務めるガバナンス・報酬委員会では、これまでの報酬体系の一部を見直しました。具体的には、業績連動報酬の指標として従来採用していた「連結純利益」に加えて、「基礎営業キャッシュ・フロー※2」を新たな指標とする報酬体系へと改定しています。これは、丸紅が規模の大きい投資案件を数多く手掛けていく中で、そうした案件から生み出されるキャッシュ・フローを経営にとって非常に重要な指標と位置付けており、それを報酬体系にも反映させたものです。

更に、株価上昇および株主価値向上意欲を更に高め、株価変動のメリットとリスクを株主の皆様と共有した経営を行うよう、株式報酬型ストックオプションを2017年3月期に導入しました。

加えて、将来的な時価総額向上のインセンティブを更に高めるべく、3年後の時価総額が増え、かつ時価総額の成長度合いが東証株価指数の成長率以上となった場合にのみ実現化する、時価総額条件が付帯された株式報酬型ストックオプションも2020年3月期に導入しました。


指名委員会とガバナンス・報酬委員会の両輪で監督する体制は、取締役会に監督・モニタリング機能が求められる中で有効であり、コーポレート・ガバナンスの強化に繋がります。指名委員会の役割については、北畑さんもおっしゃっていましたが、後継者育成計画の作成が重要な役割の一つになると思います。幹部候補者の選出から育成まで、指名委員会が中心となって関与していく体制が求められています。ガバナンス・報酬委員会では、公平・公正で透明性の高い報酬体系を整備し、株主および投資家に対する説明責任を果たすことが重要な役割になると考えています。私は、これから本格的に指名委員会に参加することになりますが、丸紅の企業価値を向上させていくために、大きく貢献していきたいと考えています。

1 TCFD: 金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)によって設立された気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)。

2 基礎営業キャッシュ・フロー: 営業キャッシュ・フローから営業資金の増減などを控除。