統合報告書 社外取締役鼎談

ガバナンスの強化を通じて、
中長期的な企業価値の向上を追求

社会情勢の不確実性が高まる中、丸紅グループは社会課題の解決や、それを通じた企業価値の向上を追求するべく、ガバナンス体制の更なる強化に取り組みます。
2022年6月より取締役会における社外取締役比率が過半数となった中、今回は、「丸紅のガバナンス」「中期経営戦略GC2024」「取締役会の実効性と透明性向上」という3つのテーマとご自身の役割・抱負について、社外取締役3名に語っていただきました。

丸紅のガバナンスについて

高橋
社会課題の複雑化が進み、単一のソリューションでは解決が難しくなっている時代の中、様々な機能を持つ総合商社だからこそ、その機能を総動員して社会課題を解決し、企業価値向上を追求することが丸紅には求められています。取締役会では中長期的な視点で目指す方向性や将来のポートフォリオなどについて議論し、個別案件の意思決定は執行に権限委譲を進めるなど、役割をうまく分けるのが理想だと思います。

私が委員長を務めるガバナンス・報酬委員会では、取締役会の実効性と役員の報酬制度について議論をしていますが、過去数年間だけでも多角的な議論が行われ、改善が図られてきたと思います。社会情勢の変化も勘案しながら、更なる改善に取り組んでいきたいと考えています。

役員報酬については、社会課題の解決に対してどういった貢献ができたのかという評価の重要性が増しており、これからの課題だと思っています。


丸紅の取締役会では、議案に対して多角的な視点で、率直かつ真摯な議論が行われていると思います。2020年3月期に大きな減損をして以降、執行はポートフォリオの見直しなど、改革を進めています。また、昨今極めて重要になっているサステナビリティについても真摯に向き合い取り組んでいます。重要な意思決定を要する議案については、事前説明も含め丁寧な説明をしていただいていますし、議長の國分さんが一人ひとりの意見を引き出す役割を果たしておられて、非常に建設的な議論が行われていると評価しています。加えて、社外取締役と國分さん、柿木さんとの意見交換会も設けられており、経済安全保障の問題などハイレベルな課題について議論するなど実効性の向上に寄与しています。

また、2021年から私が委員長を務める指名委員会では、サクセッションプランをどのように設計・運用していくのが丸紅に適しているのか、あるいは研修の在り方や人財育成に関する議論を行っており、今後も柿木さんを含めた委員会メンバーと検討を重ねたいと思います。

石塚
取締役就任初年度の1年間、総合商社とは何か、そして丸紅グループ全体のガバナンスがどうあるべきか考えました。450を超える膨大なグループ会社の中に丸紅単体があり、取締役会があるという全体感の中、本社役員の方だけを見てもガバナンスはできないと思うので、新型コロナウイルスの影響もありグループ会社、現場の方と直接話をする機会が少なかったことは課題です。今後は深く広いコミュニケーションの機会を増やしていきたいと考えています。

近年、会社の不祥事が起こるたびに、コーポレート・ガバナンスは機能していたのかという話になりますが、コーポレート・ガバナンスが機能するか否かは、社内風土や社内文化に大きく影響されると思っています。取締役会をはじめ他の役員の方と会話しても感じるのですが、丸紅の社内風土は非常にオープンな印象を受けており評価しています。特に、社員が柿木さんと直接コミュニケーションをとれるOpinion Boxの運用は、その象徴と言えます。オープンで風通しが良い、透明性の高い社内組織に高度な監督機能が合わさって初めてコーポレート・ガバナンスが機能すると考えています。

高橋
Opinion Boxでは、柿木さんが一問一問すべてにご自身で丁寧に対応しており、社員の経営方針に対する理解や会社への帰属意識を醸成する場になっていると思います。


Opinion Boxでは柿木さん以外にも、各本部長がそれぞれの取り組み内容を動画にして全社に共有し、従来の縦割り組織を超えた横連携を促す取り組みもあり、印象に残りました。

中期経営戦略GC2024について

高橋
GC2024は、2030年に目指す姿を実現するための、GC2021から繋がる3カ年の経営戦略です。GC2021では、新型コロナウイルスの影響を受け、懸念案件の減損処理や財務基盤の立て直し、投資規律の見直しを行ったほか、Gavilon穀物事業の売却などポートフォリオの入れ替えにも取り組み、目に見える成果があったと評価しています。GC2024は、GC2021の「変革の3年間」を経て「戦略実践の3年間」と掲げており、スピード感をもって戦略を実践に移すステージと捉えています。執行が戦略を実践していく中、取締役会の社外取締役比率を上げ、監督機能を強化したことは監督と執行のバランスという点から理にかなったものだと考えています。

石塚
GC2024については、グリーン戦略を中心に丸紅がこれから中長期的に取り組もうとしていることが上手く示されていると思います。これまでは、個別事業を成長させ、その集合体として企業成長を実現してきました。一方で、今後の世界情勢や産業構造の変化を考えると、丸紅が向かうべき方向に向けて総合商社としての機能を相互に作用させ、新しい価値を創出していくことが求められていますし、それが可能な基盤を持っていることは強みだと捉えています。個別事業を超えて、営業本部などの組織をまたいだ取り組みから新規事業を創出していくことが、これからの成長に繋がると思いますので、グリーン戦略などを起点にして横連携に関する議論をすることが重要です。GC2024を推進していく中でこうした観点で進捗を検証し、必要があれば改善していきたいと考えています。

また、取締役会では企業価値の向上に向けて、高く広い視点で議論を重ね、執行とすり合わせたうえで、いかに経営の方向性に落とし込んでいけるかが、私たちに課せられたミッションだと思います。


GC2024では、「丸紅人財エコシステム」の進化というテーマのもと、人財戦略を柱の一つとして掲げており、人財こそが経営にとって重要だという考えが反映されています。女性の管理職比率などの指標を見ると、ダイバーシティは丸紅にとって改善の余地が大きいテーマですが、女性の活躍を非常に重視する姿勢をもって具体的な取り組みを進めており、成果を期待しています。また人財戦略に関する議論では、多様性を認めるだけではなく、人財の多様性にこそ価値があると取締役会でも申し上げました。多様な人財が持てる能力を最大限発揮できるよう取り組んでもらいたいと思います。

世界情勢の不確実性が高まり、変化のスピードが加速している中、既存事業を大事にしながらも環境の変化や技術革新に素早く柔軟に対応していくことが重要です。そのために、ホライゾン3といった新しい領域へのチャレンジに対して人財などのリソースを配分するとともに、社員が広い視野で丸紅にできること、ステークホルダーに期待されていることを考えて、リスク管理をしっかりとしながらも果敢に挑戦を続けられるような風土を強化していってもらいたいと思います。

取締役会の実効性・透明性向上に向けて


取締役会の実効性向上で目指していることの一つは、監督機能の強化です。持続的な企業価値の向上を実現するため、長期的な視点やサステナブルな視点、それからステークホルダーの視点から丸紅が社会のために果たすべき役割についても、執行の皆さんとともに考え、議論を行いたいと思います。社外取締役のバックグラウンドは幅広く多様ですので、各人が実際に経験してきたことを踏まえた丸紅への提案など、監督機能の強化にも繋がる有意義な意見交換ができると思います。

また、取締役会における社外取締役比率という観点では過半数となりましたので、今後は多様性の観点から、グローバルに幅広い事業を展開する総合商社の業態に合わせてもっと女性や外国人の方が取締役会にいても良いと思いますし、年齢層が若い方が入っても良いと思っています。価値観が多様化している現在、世代によっても物事の見方や考え方も違いますので、死角がないように幅広い視点で考え、中長期的な方向性など取締役会での議論の精度をより高めていくことが望ましいと思います。

石塚
取締役会の構成をどうするかについては、正解はないと思っています。丸紅は社外取締役が過半数を占め、体制が大きく変化しましたが、その目的の一つは、経営のスピードアップにあります。権限委譲を進め執行の自律的な戦略実践や変化への素早い対応を後押しすることは企業成長という点で重要ですが、それと同時に取締役会は現場目線を持ちながら中長期の方向性を議論し、執行が誤った方向に進んでいないか監督することも肝要だと考えています。そうした役割を果たしながら、世界的に見ても特殊な業態である総合商社として丸紅に適したガバナンスを構築していく必要があると思います。標準型や他社がこうしているからということにこだわらず、私たち自身がつくり上げ、磨き上げていくものだと思います。

翁さんが仰っていたように、多様性については、これからの時代において重要な課題になります。同じ組織に属していると、考え方が同一化していく傾向にありますが、それでは激しいグローバル競争を勝ち抜くことも、新しい価値を創造することもできません。そういう意味で、女性や外国人の方が取締役会にはもちろん、執行にももっといる方が良いと思っています。グローバル市場で複合的に商売をする丸紅だからこそ、経営と業務執行を担う人財に多様性を取り入れることが、企業価値向上の鍵を握ると思います。

高橋
社外取締役が過半数を占めるということは、様々な経験や知識を持った人たちから多様な意見が出てきますので、丸紅にとっての「常識」が通じないなど、これまで以上に議論の活性化が図られると期待しています。一方で、見当違いの議論になってはいけませんので、取締役会が執行や現場と遊離してしまわないよう社外取締役として注意する必要があると思っています。丸紅は社外取締役への事前のインフォメーションが充実しており、本部長と直接話す機会も設けられていますが、事業領域が多岐にわたりますので、グループ全体のガバナンスという観点では各事業の市場・業界情報と個社の特別な事由の理解が必要であり、現場視察や現場との直接対話が重要だと思います。

また、取締役のモニタリング機能については、これまでより強化されることになりますので、執行の攻める気持ちや積極性といった部分が棄損されないよう、取締役として意識する必要があると考えています。

社外取締役としての役割と抱負

石塚
エンジニアリングやコンシューマーベースの事業、新規事業の立ち上げなどをバックグラウンドに持つ私が果たすべき役割としては、守りというよりは攻め、成長領域や新規事業に関して、助言など私なりの付加価値を提供できれば良いと思います。取締役会での議論・発言にとどまらず、現場の方や責任者の方たちと直接お会いして、私が持つ経験や知見なりを監督と執行という関係性を通して発揮できればと思います。


現在、環境問題をはじめ、様々な社会課題が山積しており、こうした課題解決にチャレンジする人財を育成することが重要になってきます。長期的な視点で人財戦略を捉えて、採用だけでなく、リスキリング・学び直しといった人財への投資をすることで、社会課題を解決できる人財を育成することは、必ず企業価値の向上にも繋がっていきます。社会課題の解決をチャンスと捉え、企業価値の向上に繋げていけるよう、私たちも自らの役割を果たしていきたいと考えています。

高橋
社外取締役が果たす役割は、取締役会でガバナンスや会社が目指す方向性を議論し、その後モニタリングするということにあります。執行が誤った方向に進むことがないよう、投資家の皆様の声を汲み取りながら外部環境と現場の両方にアンテナをしっかりと張って、社外取締役、ガバナンス・報酬委員会委員長としての責務を果たしたいと思います。

過去の失敗から業績・財務基盤の観点で立ち直った今、丸紅には更なる飛躍が求められています。我々社外取締役は自身の丸紅外の経験を丸紅に最大限還元しながら、価値創造を後押ししていければと考えています。