統合報告書 社外取締役鼎談

中長期的な企業価値向上を
実現するため、透明性の高い
ガバナンス体制を構築

社会や事業環境が大きく変わる中、丸紅グループは更なる企業価値向上のために新たな戦略・変革を実行しています。今回は、「新型コロナウイルス感染症の影響下における丸紅の経営」「取締役会の実効性・透明性向上」「サステナビリティへの取り組み」という3つのテーマから、社外取締役3名に語っていただきました。

新型コロナウイルス感染症の影響下における丸紅グループの経営について

高橋
丸紅では、極めて早い段階から新型コロナウイルス感染症が事業活動に大きな影響を及ぼすだろうとの認識を持ち、想定しうる最悪のシナリオとその対応策について、総合商社の特性を活かし世界中から情報を集め、取締役会でも頻繁に議論を重ねました。

新型コロナウイルス感染症の影響をどう捉え対応していくのか議論を進める一方で、減損損失後の丸紅をどのように立て直していくのか、投資家の皆様への説明責任を果たす必要にも迫られていたので、中期経営戦略で目指す方向性は変えずに、キャッシュ・フロー重視の経営へと方針を切り替え、財務基盤の再生・強化に努めることを公表しました。結果として、社員の皆さんの努力により業績を改善することができたわけですが、コロナ禍の困難な状況を乗り越える原動力になったのは、社長が全社員に対し、コロナ禍における当面の活動方針や中期経営戦略の修正について、自らの言葉で語りかけたことにあると私は思います。社員と社長が直接意見交換をできる社内システムであるOpinion Boxには社員から多くの反応があり、社長のメッセージがよく理解されていることも実感できました。このように、早くから新型コロナウイルス感染症に対するアクションを起こしたことや、経営の現状や方針について社員の理解を得て、各事業の現場を含めて高いモラルを保った結果、2021年3月期の決算が見事に回復したことについて、経営の実行力を高く評価しています。


2020年3月期に大幅な減損損失を計上し社内に動揺が走る中、新型コロナウイルス感染症による各々の事業への影響の有無・程度を見極め対応するという難しい舵取りを実行しました。結果として2021年3月期は非常に高いパフォーマンスとなりましたが、これは高橋さんのおっしゃる通り、経営の粘り強いメッセージが伝わった結果だと思います。そして、役員と社員が一丸となり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策と業務の遂行に懸命な努力をしたことが、危機を想定より良い形で乗り越えられた一因だったと思います。

また、新型コロナウイルス感染症の拡大により影響を受ける一方で、テレワークという新しい働き方が定着し、新社屋をフリーアドレスにするなど、働く環境の整備が進みました。危機との対峙は、これまで当たり前だったことを見直し、より良い方向へと変える絶好の機会です。大きなテーマである働き方改革が良い方向に進んでいることは、高く評価しています。

八丁地
社会から必要とされる事業に継続的に取り組むことが、企業の使命です。新型コロナウイルス感染症の影響下でも、社長をはじめとする経営陣のリーダーシップのもと、丸紅が社会にとって必要なビジネスを推進していることを再認識できたことが、私には印象的でした。丸紅が手掛ける、食料・アグリ事業やインフラ関連事業などは、人々が生活するうえで必要不可欠なライフラインを支えています。様々な厳しい事業環境の下でも事業を継続することが不可欠です。丸紅は、コロナ禍にあっても、事業環境を分析し、積極的にアイディアを出し議論を重ね、着実に業務を推進することにより、求められる役割を果たすことができました。社員の皆さんも、社長のメッセージをよく理解し、コミュニケーションを重ね、常に冷静に状況を捉え、業務を遂行してきました。社員が自分たちに課せられた基本的な使命を果たし、社会に貢献した結果が、業績の改善に繋がったものと高く評価しています。

取締役会の実効性・透明性向上について

高橋
取締役会の実効性評価はガバナンス・報酬委員会が毎年実施しており、結果を取締役会へ報告しています。2021年3月期で5回目の実施となりましたが、これまでのアンケートによる回答のほか、より幅広い回答が得られるようすべての取締役および監査役に対してインタビュー形式で自由に意見を述べてもらう機会を設けました。その結果、中長期的な丸紅グループの目指すべき方向性や戦略、それを取り巻く外部環境などについて、取締役を含め自由に議論する場を設けるべきとの意見が複数出ました。

また、取締役会の実効性評価とは別に、社長、会長、社外役員で集まり、懇談形式で議論もしましたが、こちらでは取締役会構成メンバーのスキルや経験の最適な組み合わせ・多様性について継続して検討する必要があるとの意見が挙がりました。この点については単に取締役会の形式を整えるのではなく、会社全体の方向性をいかに取締役会の構成に反映させるかが重要であるとの認識を共有しており、今後も継続的に議論をしていきます。

このようなサイクルを回し続けることで、取締役会の実効性が年々改善していると実感しています。

一方、中長期的な企業価値の向上という観点からは「投資規律の強化」と「役員報酬制度の改定」に取り組みました。「投資規律の強化」については、減損損失となった原因や経緯の報告を受けながら取締役会で議論を重ね、投資規律の再徹底と、投資の意思決定に至るまでのプロセスをこれまでよりも厳密化しました。今後も世界情勢や環境の変化に対し、見直しながら対応していきたいと考えています。減損損失の原因究明から改善策の作成まで問題を包み隠さずオープンに議論できたことは、透明性の高い取締役会であったからこそ実現できたと思います。また、「役員報酬制度の改定」は、株主と同じ目線で会社を見るというコンセプトに加えて、受け取る個々の役員にとって公平かつインセンティブになることを心掛け、透明性の高い分かりやすい制度になったと考えます。ただし、世の中の変化は激しいので、今後も定期的な見直しが必要になろうかと思います。

2020年の鼎談において、株主や投資家の皆様と直接的な対話をする機会を増やしたいとお話ししました。現在は、投資家の生の声や前年に比較してより詳細な内容のコンタクト・レポートを社長やCFOやIR担当から直接いただいています。また投資家のニーズや反応について、取締役会で報告があります。今後も、様々なチャネルから意見をうかがえる機会を増やしていきたいと思います。


実効性評価については、PDCAサイクルで改善に繋げるプロセスが大事です。取締役会議長である会長は重要な意思決定の際、取締役会メンバーの一人ひとりの意見を聞くよう心掛けた運営をされており、素晴らしいことと思います。一方で、サステナビリティをはじめとする中長期的なテーマについては、取締役会によるモニタリング機能の強化が重要です。ESGにおいては、E(環境)だけではなく多様性と関連したS(社会)が重要であり、取締役会においては、より一層サステナビリティを意識した議論が求められます。

高橋さんがおっしゃった取締役会の構成メンバーのスキルや経験の最適な組み合わせ・多様性は、今後も継続的に議論していく必要があります。また、社長も時々お話をされていますが、単体だけでなくグループ全体が多様性を意識して確保する方向に進んでいくことが重要です。最近、しなやかな強靱性やレジリエンスといったことが言われますが、課題解決力やイノベーションには、多様なバックグラウンドを持つ人々から幅広い意見を取り入れることが重要です。今後、社会課題の解決と企業価値の向上を両立させていくためには、ジェンダーだけではなく、年齢やスキルなど、多様性に富む人たちが経営に参画し意思決定に関わることが求められるのではないかと思います。

また、不確実性の高い時代には、いかに環境の変化を捉え適切な対応ができるかが非常に重要になります。2020年3月期の減損損失について、その後の取締役会で原因と対策まで議論を尽くせる取締役会の透明性の高さは評価しています。投資規律の徹底はその際に過去のデータを検証し、取締役会で率直な議論を重ねた成果です。しかし、まだ議論すべきことはあると思います。例えば、今後はサステナビリティの流れの中で財務的観点だけでなく非財務を含めた総合力が試されるため、次の経営を担う人財育成が課題になるだろうと思います。この点に関して、後継者育成計画なども一層重要になっていくと考えています。私は2020年から指名委員会のメンバーとなり、2021年より委員長として関わっていきますが、指名委員会のメンバーである社長ともコミュニケーションを図りつつ、経営幹部の育成について中長期的な観点での議論をしたいと考えています。

八丁地
翁さんのおっしゃる通り次の経営を担う人財育成は今後の大きなポイントです。総合商社である丸紅は、インフラや輸送機、食材まで多様な事業をグローバルに展開しています。事業ごとの特性や将来性、多様性に富んだ人々とグローバルに仕事ができるという恵まれた土壌が総合商社にはあります。そのような環境で切磋琢磨し、ビジョン豊かなリーダーシップの経験を積んでいただきたいと思います。

例えば、丸紅には15%ルールが導入されています。この時間をセルフ・ディベロップメントや、他部署との協働に使うなど、社員自らが社内制度を利用することで成長することもできるでしょう。トップは、グローバルな考察や戦略を巡らせながら、社員にチャレンジングな課題を与えています。競争の激しい時代における丸紅の最適解を出すべく、社員が切磋琢磨して成長するよう期待しています。

次世代の丸紅のリーダーとしての基本的要件は、積極的に多くの経験を積み、グローバル市場と株主・投資家の期待やプレッシャーを感じながら経営の舵を取り、困難な状況においてもリーダーシップを発揮してグループを正しい方向にリードできる人だろうと思います。加えて、一つの事業だけでなく、複数の事業分野を経営できる視野と力も必要です。それぞれの事業の特徴に応じた利益の約束を果たすことが重要です。加えて、地球の未来に寄与する活動や仕事に挑戦していただきたいと思います。

サステナビリティへの取り組み


丸紅は、どこよりも早く石炭火力発電半減の方針を打ち出したという経緯があり、様々な取り組みを実施しています。そして、サステナビリティの実現に向けた次なるチャレンジとして、気候変動対策への中長期的な貢献を果たすための『気候変動長期ビジョン』を策定しました。サステナビリティは社会全体の課題であり、企業価値の向上に結び付くとの認識が執行役員にも広まり、サステナビリティ推進委員会はそれぞれの立場を説明しながら議論をする場になってきました。丸紅もフロントランナーの一員として、サステナビリティ推進の方向にかなり進んでおり、今後もそのようにあってほしいと希望しています。また、取締役会としても今後サステナビリティへの取り組みにどのように関わるかを議論する必要があるかと思います。

丸紅は、「基盤マテリアリティ」として「マーケットバリューの高い人財」を掲げていますが、リカレント教育やOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を含め、社員に成長の機会を提供し続けられる企業であってほしいと思います。社員にとって自分の成長を実感できるということは、働きがいにも繋がります。単なる研修や教育の機会だけでなく、人財育成をビジョナリーに考えて実行することが大事です。これからはオープンイノベーションの時代ですから、育成した人財と中途採用の社員や社外の方との連携した取り組みも必要だと思います。また、女性活躍の実現に向けては、男性社員も家庭と仕事の両立が可能になる制度の整備が必要になると考えており、今後の課題として取り組みたいと思います。

なお、サステナビリティ推進委員会では、今お話しした『気候変動長期ビジョン』やTCFDなどのテーマについて議論しています。今後は、女性活躍に向けての環境整備やダイバーシティなどにもテーマを広げ、より一層議論を深めることができればと思います。

TCFD: 金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)によって設立された気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climaterelated Financial Disclosures)。

八丁地
丸紅の社外取締役として、社員の方々との双方向のコミュニケーションを大切に思います。丸紅には、共有している問題意識などを話せる場や、風土があります。

サステナビリティ推進委員会では、社是である「正・新・和」を体現する例は何かという議論から、サステナビリティの推進には何よりも人財が重要であるという点まで議論を重ね、マテリアリティを特定しました。また、事業面でESGに最も関係する石炭火力発電について取り上げ、真剣に議論した結果、撤退が決まりました。現場と、サステナビリティ推進委員会メンバーとの意欲や発想に基づいたESGの取り組みができたことに意義があると考えます。

また、丸紅はインドネシアとオーストラリアにおいて約13万ヘクタールの森林を経営していますが、今後は森林の特性を活かした環境への貢献、新たな事業活動も考えられると思います。

今後は、丸紅ならではの多様性の在り方やサステナビリティを、より明確にしていく必要があります。そのため、更に海外事業拠点の皆さん、ビジネスパートナーの皆さんとの、多様性についての議論が望まれます。これにより、サステナビリティに関する丸紅グループらしい構想・アイディアが実現するよう期待しています。