海で生まれるソーラーパワー

見渡す限りに浮かぶ太陽光パネル、世界最大規模の浮体式太陽光発電所

台湾中部西岸の風光明媚な海岸線に広がる彰濱(チャンビン)工業区。工業区にある干潟の水面上に太陽光発電パネルを並べた浮体式太陽光発電所は壮観であり、この方式としては世界最大規模を誇る。丸紅グループの辰亜能源(Chenya Energy)が建設・運営し、台湾にとって貴重な再生可能エネルギーの電力を供給している。

一般的な太陽光発電所は平地や緩斜面などに設置した堅牢な鉄製架台にパネルを載せ、固定しているが、彰濱の浮体式太陽光発電は専用ブイの上にパネルが載せられ、水面に浮き、潮の満ち引きによって1日のうちに2~3メートルも上下する。台湾海峡特有の強い北東季節風が吹けばパネルが揺さぶられることもある。

浮体式パネルが干潟の底に着地する干潮時には、発電を続けるパネルの周辺の泥海を小さなワタリガニがせわしく歩き回り、ムツゴロウや貝類がのんびり顔をのぞかせる。白サギなど多数の野鳥もエサを求めて飛来するのどかな風景だ。太陽光発電所が干潟の生態系を乱すことなく、運営されている証といえる。

だが、「自然と共生する太陽光発電所には人知れない苦労も多い」とプロジェクトマネージャーを務める陳昶達(Alan Chen)は言う。パネルの表面には海水に含まれる塩分や汚れが付着しやすいため、定期的に人手による清掃作業が不可欠。海流に乗って流木や様々なゴミが発電所を囲む防護ネットに押し寄せる。それを毎日、保全担当者がジェットスキーで巡回し、地道に取り除く。浮体式太陽光発電所は維持、管理の負担がきわめて重い。

Chenya Energyが運営する彰濱発電所は248ヘクタールに約80万枚のパネルを設置、約250メガワットの発電能力を持つ。標準的な面積効率の太陽光発電所だが、それを平地を使わずに干潟で達成している点に大きな意味がある。

台湾では太陽光発電に利用できる土地は限られているため、台湾各地の干潟、湖沼、ダムなどは重要な浮体式太陽光発電の開発可能地点となるのだ。Chenya Energyはそのパイオニアとして既に数カ所で浮体式太陽光発電を手がけている。

美しい環境を次の世代に。太陽光発電を推進し地球温暖化緩和に貢献する

調達部門の責任者を務める李貞樺(Toto Lee)は、2019年にスタートした彰濱発電所プロジェクトについて「資材の高騰、人件費の上昇に加え、新型コロナウイルスの影響による物流の途絶など苦労が絶えなかった」と振り返る。そうした困難を突破する力になったのは「4人の子どもの母として、美しい自然環境を未来の世代に残したいという切実な想いだった」という。

Chenya Energyで4年近く電源開発に取り組んできたIRマネジャーで会長補佐の柳沢泰佑が重視しているのは「地元の人とのコミュニケーションと情報開示」。台湾社会に根を張り、信頼感を得ることで、再生可能エネルギー事業はさらに成長していけると確信している。

総経理の游祥益(Austin Yu)は力強く語る。「彰濱発電所での経験を他の現場でも生かし、太陽光発電を推進することで地球温暖化の緩和に貢献していきたい」