できないことは、みんなでやろう。
洋上風力発電で、未来を変える

秋田県で、日本初となる洋上の大型ウィンドファームがもうすぐ誕生する。現在、風車の据付工事が進んでおり、今年の12月には商業運転が始まる予定だ。

このプロジェクトの舵を取っているのが、丸紅である。秋田県が2014年に実施した入札で事業者に選定され、13社が資本参画する本プロジェクトの筆頭株主として、発電と送変電に関わる全設備の建設、運転、保守、資金調達のすべてを組み立て、実行していく役割を担う。

秋田港と能代港の沖合で、出力4.2メガワット(MW)の風車が合計で33基稼働する。合計出力は約140MW。およそ13万世帯の電力をまかなうことができる。このウィンドファームは、海底に造設した基礎の上に風車を固定する「着床式」だ。洋上でつくられた電気は海底ケーブルを経由して陸上の変電設備へ送られ、そこから供給先である東北電力に届けられる。

「先頭を走り続けてきたからこそ、このプロジェクトを手がけることができた」。そう話すのは、丸紅洋上風力開発(国内外の洋上風力発電事業の開発を行う丸紅のグループ企業)の社長である真鍋寿史だ。日本企業のなかで、丸紅はいち早く洋上風力発電に参入している。事業の第1号(2011年)および第2号(2014年)案件は英国のウィンドファームで、どちらも、保有するデンマーク企業から事業権益を獲得した。更に2012年に英国洋上風力据付大手であるSeajacks社を買収し、洋上風力発電の知見と人脈を構築してきた。

時を同じくして、国内でも足がかりをつくった。国による2つの実証実験に参加したのだ。1つは福島沖合(運転は2013~2020年)で、もう1つは北九州沖合(2019年より運転中)。どちらも「浮体式」と呼ばれる形態だ。海上に浮かせた構造物(浮体設備)をチェーンで海底に設置するアンカーとつなぎ、その上に風車を乗せるので、深い海域に適している。日本は遠浅の海岸が少ない。そのため、浮体式の本格的な商業化に大きな期待が寄せられている。

サプライチェーンを自分たちでつくる

秋田洋上風力発電
写真提供:秋田洋上風力発電株式会社

実証実験でノウハウを蓄積したことで、丸紅はさらに大きな新しいビジネスを手に入れた。スコットランドの海域で多数のウィンドファームを建設する壮大なプロジェクト「ScotWind」の入札に英国企業とデンマーク企業との3社連合で参加し、アバディーン沖の海域リース権を獲得したのだ。ここに合計出力2.6ギガワットという、世界でも類を見ない大型の浮体式ウィンドファームをつくる。2030年前後の運転開始を目指し、現在は浮体設備の構造や素材について検討中で、さまざまな企業に声をかけている。

1つの風車は高さが優に100メートルを超え、50階建ての高層ビルをも上回る大きさになる。その浮体設備を大量につくるには、1カ所の製造所ではとても間に合わない。どこでなにをつくり、どう運ぶかのコーディネーションが肝要だ。「良い発電所をつくりそれを売るのみならず、洋上風力発電はサプライチェーンの構築や、地域経済への貢献に、自分たちが携わる事が重要と考える。ビジネスモデルの転換が求められる」。洋上風力・国内再エネ事業部長の舘上博は、そう語る。

集合写真

サプライチェーンの構築は、産業全体を育てることを意味し、地域振興の視点も欠かせない。未踏の領域だが、組成や編成を得意とする商社の真の強みが発揮できる。「まさに『ひとりでできないことは、みんなでやろう』という精神でやっている」と、舘上と真鍋は声を揃える。

スコットランドでこれから築く浮体式のビジネスを持ち帰れば、日本の未来を変えることができると、舘上は言う。「20年後、30年後の脱炭素社会を実現し、エネルギー安全保障の問題を解決できる。未来の大事なエネルギー源である洋上風力発電は、私たちの子どもや孫たちの世代に誇れる仕事です」