サステナブルな未来のために、世界中で森を育てる

丸紅はフィリピン・ネグロス島の広大な草地の使用権を取得し、2023年から森林再生によるカーボンクレジット創出の開発に取り組んでいる。

「私たちは人と森の力でサステナブルな未来を切り拓くことを目指しています。森林再生を通じて環境負荷低減や生物多様性回復に貢献し、経済価値も追求します」。そう話すのは、丸紅の高柳聖一郎だ。このプロジェクトでは外来種を使わず、フィリピン固有種を植えている。森を元のあるべき姿に戻すこの手法には、丸紅がインドネシアで展開する産業植林で培った知見が活かされている。

森林を再生して新しい価値を創る、フィリピン初の産学官協働プロジェクト

このプロジェクトは、丸紅、フィリピン環境天然資源省、フィリピン大学ロスバニョス校森林天然資源学部、そして現地パートナーのDMCI社の産学官が共同で取り組む、同国初の試みだ。

「民間セクターが参画することで、かつてフィリピンが誇った豊かな自然を取り戻せる未来が見えてきた」。フィリピン大学のマルロ・メンドーサ教授は力強く語る。

森林破壊は同国の深刻な問題だ。国土の約70パーセントを占めていた森林地は約20パーセントまで減少した。「主な原因は林業者による乱伐だ。貧困もさらに状況を悪化させた」とメンドーサ教授は指摘する。生活に困窮した人々が無断で木を切って農地に換えてしまうという。「丸紅との協働は、地域住民への雇用提供にもつながる。」

日本の森林資源を余すことなく活用する

国内でも新たな取り組みが始まっている。放置されたスギやヒノキなどの人工林を活用したカーボンオフセットだ。適切に経営管理された森林から創出される二酸化炭素の吸収量を国にクレジットとして認証してもらい(J-クレジット)、その利益を森林所有者に還元していく。

これは、自治体や森林組合との協働プロジェクトだ。森林経営の計画・実行・モニタリングは自治体や森林組合が行い、丸紅は登録申請、テクノロジーを活用したモニタリング支援、クレジットの販売先開拓を担う。

最大の問題は、森林所有者が林業への関心を失っていることだ。「山を負の財産と捉える人が多い。そこをなんとか変えたい」。そう話すのは、白神森林組合の加藤正樹氏だ。適切に管理すれば森林が収益を生むことを説明し、J-クレジットの登録申請につなげたいという。

能代市も市有林のJ-クレジットの登録申請を進めている。「クレジットを発行し、しっかり販売する。実績ができれば森林所有者の意識も変わる」。能代市農林水産部の石井義仁氏は話す。「丸紅が持ち込む新しい発想で、地域課題を解決していきたい」

森は、そこにあるだけで価値がある――。この小さな気づきで森林資源が活かされ、その利益が所有者や地域社会に還元される流れが生まれる。丸紅の大林成美は、そう信じている。「少しずつ前進して、そんな未来になったらと」