2014年

2014年入社式 社長訓示

2014/04/01
丸紅株式会社


1. はじめに
みなさん、入社おめでとうございます。社長の國分です。
社員・役員を代表して、それから、皆さんの人生の節目となる本日をこうして共有できた先輩の一人として、心から皆さんを歓迎致します。

ちょうど39年前、私は皆さんの側に座っていました。今でも、入社式の様子ははっきりと憶えています。残念ながら、当時の社長が何を言われたか、あまり憶えていません。皆さんも、何十年後には、今日の私の言葉は憶えていないかもしれませんが、きっと今日の入社式は記憶されているでしょう。
社長の言葉は憶えていない一方で、入社して早々に、ある先輩が私に言ってくれた一言があります。それは、「商社マンは夢だ」という言葉です。最初は何を言っているのか分かりませんでしたが、私にとっては大きなインパクトのある言葉でした。その意味するところは、「商社マン、商社ウーマンにとって一番大事なこと、それは大きな夢を持つこと、目標を持って、その実現のために最大限の努力をする」ということです。
40年近くこの会社で働いてきた先輩として言えることは、当社は、社員一人ひとりに真っさらな大きなキャンバスを提供してくれる会社だと思います。そのキャンバスに大きな、素晴らしい絵を描けるか、それは皆さん一人ひとりの日々の地道な努力と研鑽の積み重ね次第です。
丸紅で働く社員一人ひとりが高い志と誇りを持ち、夢に向かって地道な努力を続けること、そういう皆さんに対しては、会社は最大限サポートすることを約束します。
今日はまず、私の原点ともいえる「商社マン、商社ウーマンは夢だ!」という言葉を、皆さんに贈りたいと思います。


2. コンプライアンスの遵守
まず始めに、皆さんも当社ホームページや新聞報道等を見られて、心配されている方も多いと思いますが、3月20日に公表しましたインドネシア・タラハン火力発電所向けボイラー案件に関する、米国司法省との司法取引についてお話しします。
総合商社である当社にとって、お客様や株主、社会など全てのステークホルダーの方々からの信頼・信用が何よりも大切です。今回の事態は、その信用を大きく傷つけるものであり、会社としても重大かつ厳粛に受け止めています。本件は、およそ10年前に起こったことであり、当社のコンプライアンス体制は当時と比べて格段に充実していますが、こうした事態を二度と起こさないように、あらためて再発防止策を徹底する方針です。
今日、敢えてこのお話しを最初に申し上げたのは、皆さんに危機感を煽るためではありません。今回の問題を教訓として、我々一人ひとりが、コンプライアンスを遵守することの重要性をあらためて認識し、より健全で、より強い丸紅を作り上げていくことこそが重要だと考えていますので、本日入社された皆さんにも、同じ意識を共有して頂きたいと考えてお話しした次第です。
当社には、「正義と利益のどちらかを取らねばならないような状況に遭遇したら、迷わず正義を貫け」という、コンプライアンスの大前提となる言葉があります。皆さんが社会人として、そして丸紅の社員としてスタートされる今日の日だからこそ、この言葉をしっかりと胸に刻んで頂きたいと思います。


3.当社の創業と設立
次に、丸紅の歴史についてお話ししたいと思います。

当社は、近江商人の初代伊藤忠兵衛が、今の滋賀県犬上(いぬかみ)郡豊郷町から初めて「持ち下り」という、今で言う出張販売に出掛けた1858年を以って「創業」と定めています。
この年は、後の明治維新に繋がる「日米修好通商条約」の締結や「安政の大獄」があった年として、皆さんも日本史で学ばれたことと思います。
忠兵衛が最初の持ち下りに出掛けたのは15歳の時でした。近江商人としてはもともと後発であった伊藤家は、博多を中心に西国方面に商いのルートを持っていましたが、さらに次男坊であった忠兵衛は、兄・長兵衛の商売と競合しないように、大阪の地で最初の自分の店となる「紅忠(べんちゅう)」を29歳の時に開店します。
そして、苦労と工夫を重ねて精進し、店を繁盛させていくのですが、その店の暖簾に染め抜いた「丸(マル)に紅(くれない)」の屋号こそ、我々の社名である、丸紅の由来とされています。
その紅忠(べんちゅう)は紆余曲折を経ながら幾つかの会社に分かれるのですが、そのうちのひとつが伊藤本家の伊藤長兵衛商店と合併して出来た「丸紅商店」であり、それが戦後の当社につながる源流の一つとなります。
その後、第二次大戦後の1949年、過度経済力集中排除法の適用により、当事、伊藤家の商売を大団結していた大建産業という会社が、丸紅、伊藤忠商事、呉羽紡績、尼崎製釘所の4社に分割されて、新生丸紅がスタートしました。その1949年12月1日が丸紅株式会社の設立日です。

というわけで、創業から156年目、設立から65年目となる2014年。皆さんには、長い歴史と伝統を持つ丸紅で社会人としてのスタートを切れることに、大きな誇りと喜びを感じて頂きたいと思います。また、新入社員研修の一環として、滋賀県犬上(いぬかみ)郡豊郷町を訪問する予定になっていますので、是非、丸紅創業の地で色々な想いを感じて欲しいと思います。


4. 当社の現状
続いて、皆さんが入社された今年が会社にとって、どのような年であるかについてお話しします。
既にご承知の通り、昨年度から3 ヵ年の中期経営計画「Global Challenge 2015(GC2015)」がスタートしました。GC2015で目指すところは、これまで築き上げてきた収益基盤を更に強固なものとし、少々の逆風が吹いてもびくともしない強靭な収益構造を作り上げ、2015年度連結純利益2,500億円~3,000億円を達成し、持続的成長を実現することにあります。そのために、社員・役員がチャレンジングスピリットを持ち続け、更なる飛躍に挑戦していきます。
GC2015の初年度となる2013年度決算は、5月上旬に発表予定で現在集計中ですが、予算である連結純利益2,100億円を達成する見込みであり、まずは順調なスタートが切れたと思います。
そして、GC2015の2年目となる2014年度が今日からスタートします。新聞や報道でご存知の方も多いと思いますが、丸紅の強みでもある電力などのインフラ事業、豪州鉄鉱石鉱山の開発への参画、米穀物大手の買収といった大型投資案件をこれまで手掛けてきました。今後も、ビジネスチャンスを的確に捉え、スピード感をもって果敢にチャレンジを続けます。
皆さんにはまだそういった一つ一つのビジネスの話にはピンと来ないかもしれませんが、社内には今、そうした優良なビジネスに取り組む前向きな姿勢や気概が満ち溢れています。皆さんには、それだけ多くの活躍のフィールドが約束されていますので、一日も早く、第一線の戦力として活躍して頂きたいと思います。


5.すぐそこにある危機
しかしここで一つ、今日このタイミングであるからこそ、「2000年前後の頃、当社が置かれていた非常に苦しい時期」(A-Planの教訓)について、話しておきたいと思います。

今こうして、史上最高益を更新し続けている当社が、わずか13年前、90年代のバブル経済崩壊による負の遺産を処理するために、2001年度決算において、2,080億円という巨額の特別損失を一括計上し、実に1,164億円もの赤字決算を余儀なくされたのです。
当時の当社の株価は、瞬間的に58円まで下落することになりました。 58円といえば昨今の当社の株価の十分の一にも満たない株価であり、丸紅は市場からまさにレッドカードを突きつけられた状況に陥りました。
そこから、全社社員・役員が緊張感を持ち、一丸となって、大変な努力を重ねながら復活し、今日の強い丸紅に生まれ変わったのです。復活の詳しい経緯は、改めて研修や、配属先の先輩から聞いて頂きたいと思います。
私たちが、この大変苦しい経験を通じて学んだ教訓、それは「眼の前の好調に油断し、気を抜いたり、緩めたりすれば、状況は極めて短期間のうちに悪化する」ということです。この教訓を風化させることなく、次世代となる皆さんにも受け継いでいくことが重要だと考えています。

私の座右の銘、それは、「逆境に悲観せず、順境に楽観せず」という言葉です。今、丸紅は業績的には順境の中にあると言えます。皆さんは日本の上場企業の中で、利益水準で言えばベスト10の位置を狙える会社の一員となりました。しかし、業績が順調な今だからこそ、丸紅がこれからも持続的に強く成長し続けるために、経営陣のみならず全社員が、過去の苦い経験を忘れずに、今何をすべきか必死に考え、実行していくことが必要なのだと思います。
どのような時代の荒波にさらされようとも、決して悲観しない気持ちを持ち続けるために、今を楽観せず、共に努力と精進を重ねていこうということです。


6.社是 「正・新・和」と丸紅スピリット
最後に、当社の社是である「正・新・和」と、丸紅スピリットについてお話しします。
1949年、戦後の新生丸紅が発足した日、初代社長に就任された市川忍さんは、全社員を前にして、「大会社の矜持を保って『正しくあれ』、進取発展の気分を常に養い『新しくあれ』」と説き、そして最も望ましいこととして「役員・従業員の和」の3点を訴えました。
当社の経営理念のベースとなる社是「正・新・和」はこの講話に由来しており、今日に至るまで丸紅社員の原点として受け継がれています。
もともと近江商人の流れを汲む当社ですから、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の“三方よし”の精神を受け継いでいるわけですが、それと同時に今日のコンプライアンスの大切さまでをも、シンプルな漢字三文字に象徴させた先達の慧眼に敬意を表したいと思います。

そして、この社是「正・新・和」を原点として、現在推進中のGC2015の中で、“丸紅スピリット”を策定しました。“丸紅スピリット”とは、丸紅グループの目指す企業風土を5つのスローガンに集約して、社員一人ひとりの行動として分かりやすく表現したものです。具体的には、

“大きな志で未来を築け”
“挑戦者たれ”
“自由闊達に議論を尽くせ”
“困難を強かに突破せよ”
“常に迷わず正義を貫け”、の5つです。

この中で、本日皆さんが入社されるにあたり、特に、“大きな志で未来を築け”、そして“挑戦者たれ”という2つのスピリットに込めた思いをお話ししたいと思います。


“大きな志で未来を築け”、
これは最初にお話しした、「商社マンは夢だ」という言葉とも共通します。皆さんには、夢の実現に向けて努力するということに加え、丸紅でのビジネスを通じて、「日本という国の発展の一翼を担う」、「お客様や地域、社会、世界へ貢献する」、という高い志を持って頂きたいと思います。新入社員でも、一歩会社の外に出れば丸紅の代表です。海外に出れば日本の代表です。丸紅マン、丸紅ウーマンとしての誇りと自覚を持ち、いつも丸紅のマークを意識し、胸に小さな日の丸をつけていて欲しいということです。そういった夢と高い志を持つことで、困難にも挫けることなく努力し続けられると思います。

“挑戦者たれ”、
これは皆さんに、「チャレンジングスピリットを持ち続けて欲しい」、ということです。
皆さんそれぞれが抱く夢や目標を実現するために、常に挑戦するという意識を持ち続けて頂きたい。現状に満足した時点で、個人も会社も成長は止まります。難しく不可能なことでも、とにかく考えて、考えに考え抜いて挑戦しつづければ必ず道は拓けます。
そして、自分の仕事を好きになって欲しいと思います。仕事は与えられるものではなく、自ら考え、そして挑戦していくものです。そうすることで、その仕事は文字通り、「自分の仕事」になります。自分の仕事を好きになることで、多少の辛いことも我慢できますし、そこから無限の可能性に挑戦する勇気も沸いてくるでしょう。

皆さんには、決して、「頭でっかちな人間」には、なって欲しくありません。
皆さんは、厳しい就職戦線の中、高い競争率を乗り越えて入社してきた方々ですので、能力的には素晴らしいものを持っていることは間違いないでしょう。
でも、一流の商社マン、商社ウーマンになるには、能力が高いだけでは不十分です。本社の机に座り、パソコンを駆使しているだけでは良い仕事はできません。
私は、“現場主義”ということを常々申し上げているのですが、常に、現場の第一線に身を置き、お客様とFace- to-Faceのコミュニケーションを取って、生の情報を取得し、自ら考えて分析して、ベストソリューションを提供していくこと、これが大事です。
商社マン、商社ウーマンとしての肌感覚を常に、研ぎ澄まして、自らを磨き上げて下さい。そのために、会社は皆さんを積極的にサポートしていきます。若いうちに、「現場経験」や「海外経験」を身につけ、強い丸紅の一翼を担って頂きたいと思います。


7.最後に

今日から皆さんは丸紅の社員です。一人ひとりが丸紅の社員として誇りと自覚を持って、これからの会社人生を歩んでください。
「初心、忘るべからず」です。 これからの長い会社人生の中では、壁にぶち当たる日もあれば、ビジネスで大成功を収める日もあると思います。そんな時に、“頑張ろう”と誓った、今日のフレッシュな原点に立ち返って頂きたいと思います。そうすれば、目の前にある壁を乗り越える勇気も沸いてくるでしょうし、今日の成功に驕ることなく、次の夢や目標に向かって、再び努力する謙虚な姿勢も生まれてきます。

社長である私と、今日から社会人として第一歩を踏み出される皆さんは、立場こそ違え、大きな夢に向かって新たにチャレンジしていくという点においては同じです。ともに力を合わせて、丸紅の新しい時代を築いていきましょう。
丸紅の将来を担うのは、皆さんです。皆さんのご健闘と活躍を心から期待して、本日の私の歓迎の挨拶と致します。

以  上

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