2013年

2013年入社式 社長訓示

2013/04/01
丸紅株式会社

1.はじめに
みなさん、入社おめでとうございます。
丸紅に入社して39年目を迎えた今日、私は社長に就任しました。
役員・社員を代表して、それから、お互いに人生の節目となる2013年4月1日を、こうして共有できた先輩の一人として、心から皆さんを歓迎致します。

今こうしてフレッシュな皆さんを目の前にすると、38年前、入社早々の私に言ってくれた先輩のひと言を思い出します。それは、「商社マンは夢だ、夢を持つことだ。」という言葉です。その意味するところは、「商社パーソンにとって一番大切なこと、それは、まず大きな夢を持つこと、そして、その実現のために最大限の努力をする」ということです。丸紅は、社員一人ひとりに真っさらな大きなキャンバスを提供してくれる会社だと思います。そこに大きな、素晴らしい絵を描けるか、それは皆さん一人ひとりの地道な日々の努力と研鑽の積み重ね次第です。 丸紅で働く社員一人ひとりが高い志と誇りを持ち、夢と目標に向かって地道な努力を続けること、それが結果として丸紅を強くする道に繋がります。今日はまず、私の原点ともいえる「商社パーソンは夢だ!」という言葉を、皆さんに贈りたいと思います。

2.当社の現状
さて、ここで、皆さんの入社された今年が会社にとって、どのような年であるかについて、お話をします。

既にご承知の通り、昨日で終了した2012年度は、3ヵ年の中期経営計画「SG-12」の総仕上げの年でした。このSG-12は、持続的成長を通じて「強い丸紅」を実現するという、攻めに重点を置いた経営計画です。現在集計中の、2012年度の連結純利益は、史上最高益を更新することは間違いないものと自信を持っています。
そして皆さんと迎えたこの2013年度は、新しい中期経営計画のスタートの年となります。この新中期経営計画は、「SG-12で築いた良い方向性を踏襲し、コンスタントに高い利益を稼げる収益力と磐石な収益基盤を確固たるものにする」といった、持続的成長を加速させる内容になる予定です。新聞や報道でご存知の方も多いと思いますが、丸紅の強みでもある電力などのインフラ事業、チリの銅鉱山への投資、豪州鉄鉱石鉱山の開発への参入、そして、米穀物大手の買収といった大型投資案件等、ビジネスチャンスを的確に捉え、スピード感をもって果敢にチャレンジしていきたいと思います。

皆さんにはまだ、そういった一つ一つのビジネスの話にはピンと来ないかもしれませんが、社内には今、そうした優良なビジネスチャンスに取り組む姿勢や気概が満ち溢れています。それはつまり、新しいマンパワーが求められているということであり、皆さんには、それだけ多くの活躍のフィールドが約束されています。一日も、一刻も早く第一線の戦力として活躍して頂きたいと思います。

3.すぐそこにある危機
しかしここで一つ、今日このタイミングであるからこそ、「2000年前後の頃、当社が置かれていた非常に苦しい時期」について、話しておきたいと思います。

今こうして、史上最高益を更新し続けている当社が、わずか11年前、90年代のバブル経済崩壊による負の遺産を処理するために、2001年度決算において、非常に大きな特別損失を一括計上し、実に1,100億円を超える赤字決算を余儀なくされたのであります。当時の当社の株価は、2001年12月19日に瞬間的に58円まで下落することになりました。58円といえば昨今の当社の株価の十分の一にも満たない株価であり、丸紅は市場からまさにレッドカード寸前の状況だったのです。そこから、全社社員・役員が緊張感を持ち、一丸となって、大変な努力を重ねながら復活し、今日の強い丸紅に生まれ変わったわけであります。復活の詳しい経緯は、改めて研修や配属先の先輩から聞いて頂きたいと思います。唯一つ、私たちが、この大変苦しい経験を通じて学んだ教訓をお伝えするならば、それは「眼の前の好調に油断し、気を抜いたり、緩めたりすれば、状況は極めて短期間のうちに悪化しかねない」ということです。

ここで、既に皆さんも、これまでに私を紹介する新聞報道などで、目にしているかもしれませんが、私の好きな言葉の一つをご披露申し上げたいと思います。それは「逆境に悲観せず、順境に楽観せず。」という言葉です。
いま丸紅は、計数的には順境の中にあると言えるかもしれません。皆さんも日本の上場企業の、利益水準では上位を狙える会社の一員になりました。しかしそのような時だからこそ、丸紅がこれからも持続的に強くあり続けるために、経営陣のみならず全社員が一丸となって、過去の苦い経験を忘れずに、今何をすべきかを必死に考え、実行することが必要なのだと思います。どのような時代の荒波にさらされようとも、決して悲観しない気概を持ち続けるために、今を楽観せず共に努力と精進を重ねていこうということです。そのために、会社は積極的に皆さんをサポートしていきます。若いうちに「現場経験」、とりわけ「海外経験」を身につけ、強い丸紅の一翼を担って頂きたいと思います。

4.社是 「正・新・和」
次に、当社の社是についても触れておこうと思います。

当社の社是は、既にご存知の通り「正・新・和」です。1949年、戦後の新生丸紅が発足した日、初代社長に就任された市川忍さんは、全社員を前にして、大会社の矜持を保って『正しくあれ』、進取発展の気分を常に養い、『新しくあれ』と説き、そして最も望ましいこととして『役員・従業員の和』の三点を訴えました。経営理念のベースとなる社是「正・新・和」は、この講話に由来しています。もともと近江商人の流れを汲む当社ですから、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の “三方よし“ の精神を受け継いでいるわけですが、それと共に今日のコンプライアンスの大切さまでをも、シンプルな漢字三文字に象徴させた先達の慧眼に敬意を表したいと思います。
皆さんもこれから、業務の様々な場面において困難な壁に立ち向かったり、難しい判断が求められる場面に遭遇することになります。何かに迷ったら必ず、「正・新・和」に立ち返ってみることをお願いしたいと思います。

「正義と利益のどちらかを取らねばならないような状況に遭遇したら、迷わず正義を貫け」。 これは我々が常日頃から心がけている当社のコンプライアンスの大原則ですが、これも「正・新・和」が指し示す、我々の原点の一つなのです。
皆さんは、会社が利益を上げれば会社は存続できると単純に考えるかもしれません。一義的にはそれは間違ってはいないのですが、持続的に利益を生み続けられること、それはすなわち、社会が、世界が、「丸紅のビジネス」あるいは「丸紅」そのものに存在意義を認めた結果であるということ、いわば企業は社会のために存在している、ということを忘れないで頂きたい。当社が、「正・新・和」の精神に則って、正しい社会活動を継続していくこと。ビジネスを通じて人々の生活を支え、豊かにし、地域社会の発展に貢献すること、時に、丸紅基金を始めとする直接的な社会貢献活動を通じてもまた、その役割を果たしていくこと。それにより、世間の人々に、「丸紅とビジネスが出来てよかった。」、「丸紅が元気でよかった。」と、思って頂ける存在であり続けること。これらが、重要なことなのであります。常に「正・新・和」を念頭に置き、頑張っていきましょう。

5.震災について
ここでやはり東日本大震災のことを述べておきたいと思います。

既に丸2年が経過し、マスコミによる取り上げ方も多少変わっては参りましたが、それでも  3月11日の前後で集中的に報道された内容に触れますと、失われた生命の悼みに震える方々、今なお復活途上にある産業基盤、苦しみに耐える生活が続く被災者の方々の様子には心が痛みます。この2年間、当社を含め経済界全体でも数々の支援を実施してまいりましたが、その実効性を加速させ、より具体的な成果に結びつけるために何をすべきかが、今、問われています。 幾多の苦難や激しい環境変化を乗り越え、変化を成長のチャンスへと変えてきた、当社の歴史と精神を受け継ぐ者の一人として、我々も被災者と被災地の一日も早い復興と復活のために出来ることを考え実行していきましょう。

6.最後に
最後に、皆さんに三つのお願いをしたいと思います。

一つ目は、「頭でっかちな人間にならない」こと。皆さんは、厳しい就職戦線の中、高い競争率を乗り越えて入社してきた方々です。 能力的には素晴らしいものを持っていることは間違いないでしょう。でも、一流の商社パーソンになるには、能力が高いだけでは不十分です。 本社の机に座り、パソコンを駆使しているだけでは良い仕事はできません。常に、現場の第一線に身を置き、お客様とFace-to-Faceのコミュニケーションを取って、生の情報を取得し、それを自ら分析し、ベストソリューションを提供していくこと。これが大事です。ビジネスパーソンとしての肌感覚を常に研ぎ澄まして、自らを磨き上げていってください。

二つ目は、「仕事を好きになって欲しい」こと。仕事は与えられるものでは有りません。自ら考え、求めていくものです。上司・先輩からの指示・命令を、そのまま言われた通りやるのではなく、 自らその意味とその先にあるものを考えて工夫すること。これによって、その仕事は文字通り「自分の仕事」になります。自分の仕事を好きになることにより、多少の辛いことも我慢できますし、そこから無限の可能性が開けて行くとも言えるでしょう。

三つ目は、「初心、忘るべからず」です。これからの長い会社人生の中では、いつか壁にぶち当たる夜もあれば、あるいは逆に、ビジネスで大成功を収める夜明けもあるでしょう。そんな日に、一瞬でもよいから、「頑張ろう」と純粋に誓った、今日のこのフレッシュな原点に立ち返って頂きたい。そうすれば、目の前にある壁を乗り越える勇気も湧いてくるでしょうし、今日の成功に驕ることなく、次の夢や目標に向かって、再び努力する謙虚な姿勢も生まれてきます。

 

さて、本日、丸紅株式会社の社長に就任した私と、今日から社会人生活の第一歩を踏み出される皆さんとでは、立場こそ違え、新たなチャレンジという点においては同じです。私は全身全霊をかけて、丸紅の発展の為に一身を捧げる覚悟です。皆さんも私と心を一つにし、力を合わせて、丸紅の新しい時代を共に築いていきましょう。

丸紅の将来を担うのは、皆さんです。皆さんのご健闘と活躍を心から期待して、本日の私の歓迎の挨拶と致します。改めて、入社おめでとうございます。

 以上

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