CEO就任から1年余り、現場と投資家との対話を経て
CEO就任から1年、累計150カ所を超える世界の丸紅グループの事業現場を訪問し、同時に、多くの投資家・アナリストの皆様と率直な対話を重ねてきました。
事業現場では、グループ会社経営陣や社員と、各事業の強み、課題、そして中期経営戦略GC2027の成長戦略をいかに共に実行していくかを繰り返し議論することを通じて、丸紅が経営資源を重点的に配分していく「戦略プラットフォーム型事業」、当社の勝ち筋に共通する強みを現場で体感することができました。それは、成長していく事業領域に自らを置き、人々の生活に密着するエッセンシャルな需要を捉え、商品やサービスを届けることにとどまらず、お客様のコスト・時間の削減、売上・利便性の向上などに繋がる、「お客様視点の付加価値」を提供することです。
当社の戦略プラットフォーム型事業は、農業資材販売、モビリティ、電力卸売・小売、航空機アフターマーケット・アセットトレード、食品・マーケティング製造、IT・デジタルソリューションなど、人々の日々の生活を支え、持続的な成長が見込まれる領域に広がっています。
例えば、米国・農業資材販売事業のHelena社では、独自サービスである「AGRIntelligence®」を通じて農家のお客様の収量の向上を支援し、お客様の事業をより良くすることまでを事業のミッションとして追求しています。また、英国・再生可能エネルギー販売事業SmartestEnergy社では、自社のITプラットフォームを通して、地産地消の再生可能電力を販売し、地域に密着する法人顧客のブランド構築にも貢献しています。すべての事業において、お客様の立場に立ち、心を込めて付加価値をつくり続けること、そしてお客様を笑顔にする挑戦を続けていくこと、それによって生まれるお客様との信頼関係。これこそが、丸紅グループの勝ち筋の原点であるとの想いを強くしています。
一方、世界各地の投資家の皆様からは、今後の丸紅への期待や企業価値評価のポイントとなる、数多の貴重な視点を共有いただきました。具体的には、
- 資本配分において、ブレない考え方・哲学や実践の規律を持っているか
- 既存事業の改善が、競合対比もしくは前年対比で進捗しているか
- 将来に向けて新たなビジネスの種をしっかりと仕込んでいるか
- 足元、中期、長期という「時間軸」を複眼的に切り分けて経営しているか
などです。いずれの視点も企業価値向上に繋がる核心的な問いであり、経営方針の根幹を成すものであると考えています。
私は、現場や投資家の皆様との対話は、自らの経営方針・戦略を客観視し、磨き上げる重要なプロセスであると考えています。この観点から振り返れば、すべての対話は示唆に富むものであり、1年間を通じて丸紅グループの中長期的な経営方針の質を高めていく貴重な機会をいただいたと感じています。
ブラジル出張時Adubos Real社(農業資材販売事業)にて
確信を深めた丸紅の在り姿
事業現場と資本市場という2つの視点を往復しながら経営を考え続けた結果、確信を深めたことがあります。
丸紅は2018年度よりGlobal crossvalue platform「総合商社の枠組みを超える価値創造企業グループ」という在り姿を掲げています。丸紅らしく世界を俯瞰し、社会課題の解決を通じて新たな価値を創造し続ける永続成長企業を目指す挑戦にほかなりません。「商社」という言葉を社名に冠さない丸紅らしさの発揮であり、丸紅グループ全員で目指すべき姿です。
丸紅の「丸」は世界・全方位の象徴であり、世界を舞台に新たな価値を創造し続けること。従来の枠組みにとらわれず、まだ誰も見たことのない新たな世界の高みへ挑戦すること。「丸紅」という社名には、この会社の使命が込められています。
この1年、丸紅の強さの源泉も、現場で幾度となく実感しました。1949年の会社設立以来受け継がれてきた社是「正・新・和」の価値観、世界各地の生活に根差したエッセンシャルな需要を顧客への付加価値施策とともにタイムリーに捉える素晴らしい現場、顧客を支える成長ポテンシャルに溢れる社員、社員を大切にしながら厳しい経営規律を発揮するグループ会社の経営陣、そして長い歴史の中で培われた事業領域を超える「勝ち筋」を見抜く洞察力。こうした根源的な強みこそが、丸紅グループを世界の高みへ導く最大の原動力です。
丸紅らしく世界の高みへ。更なる企業価値創造への挑戦
2025年度、丸紅グループはS&Pの財務格付「A-」の取得、史上最高となる5,439億円の連結純利益の達成、そして2026年2月には時価総額10兆円超という一つの節目を迎えることができました。これらの成果は、世界中のお客様、社員、事業を行う国・地域の皆様、株主の皆様など、すべてのステークホルダーの皆様のご支援の賜物です。心より御礼申し上げます。
GC2027の目標として当初掲げた時価総額10兆円超は、通過点にすぎません。企業価値は、社会からどれだけ信頼され、必要とされる存在かという、すべてのステークホルダーからの「信頼の総量」によって決まるものと考えています。このメッセージ執筆時点では、時価総額は10兆円を下回る水準にとどまっていますが、常に高みを目指す成長志向で革新を生み、世界、丸紅グループ、そしてすべてのステークホルダーを豊かに、そして笑顔にしていくことによって、この「信頼の総量」を増やしていくことができると信じています。
丸紅グループが新たに追求するミッション
2026年度、丸紅グループは新たに、2つのミッションを追求しています。
第一のミッション:前年対比で確実に改善・進化していく企業へ
2026年度を2025年度以上の一年とすべく、連結純利益と基礎営業キャッシュ・フロー共に史上最高値の更新を目指し、丸紅の利益成長が持続的なものであることを実証します。
2025年度は、既存事業の磨き込みにおいて、国内鶏肉生産販売事業、米国天然ガストレード事業、銅鉱山事業などで施策が堅調に機能し、史上最高益となりました。化学品トレード、米国牛肉生産販売事業、再生可能エネルギー販売事業、建機販売事業などについては磨き込みに課題を残していますが、これらは2026年度における「改善の機会」の発現と捉えています。負け筋に真正面から対峙し、どうすれば負け筋を反転して勝ち筋にできるかを考え抜いたうえで、既存事業を徹底的に磨き込み、改善課題を一つひとつ利益機会へ転換していくことを、持続的な成長への原動力としていきます。
また、お客様の売上・生産性向上、コスト削減などを通じて顧客価値を高め、お客様を笑顔にしていくことを真の磨き込みと捉え、全事業現場でこの追求に挑みます。そのために、本社業務をリーン化(効率化)しAIの活用を通じて生産性を高め、顧客価値を考えるための時間に集中してまいります。
第二のミッション:より長期的な世界の高みへの挑戦
私たちは、長期的に「時価総額世界100位圏内」を目指します。これは、総合商社という枠組みを超え、世界中の社会課題の解決を通じて価値を創造し続ける「世界卓越企業」へと進化するという強い意志を表明するものです。
長期にわたり企業価値を高め続けるためには、企業価値創出を継続・再現できる「経営の型」を築かなければならないと考えています。そのために、次の3点を実践していきます。
1. オペレーショナルエクセレンス・改善
企業価値向上の原点は、日々の事業現場にあります。一つひとつの事業を愚直に、地道に磨き続ける改善の積み重ねが、長期的な競争力を生み出します。改善とは、「今より必ず良い姿がある」という、現状への建設的な批判が起点になると考えています。すべての営業現場において、成長への目線を引き上げて高みを認識したうえで、改善課題・施策とKPIを設定していくという基本を実践しています。
こうした弛まぬ業務改革と改善文化を丸紅グループに定着させるため、生産性改善の型やベストプラクティスをグループ最適の視点で現場へ伝搬・支援する専門組織「バリュークリエーションオフィス(VCO)」を、2026年度よりCEO直下の組織として立ち上げました。VCOは価値向上機能の専門家チームとして、売上成長、リーン化、リーダーシップ・ガバナンスなどに関する社内外のベストプラクティスを型化し、国内外の重要グループ会社の成長課題に対して適用・実践することで、グループ会社起点での価値向上を追求していきます。加えて、VCOでは全社で日々の業務に潜む無駄を洗い出し、改善させていく取り組みを牽引しています。
立ち上げから数カ月ですが、調達コストの最適化による利幅改善、発注・在庫システムの最適化による運転資金の改善、社則や業法に関する生成AIを活用した業務削減などが提案され、良いスタートを切っています。
チリ出張時Centinela社(銅鉱山事業)にて
2. 規律ある資本配分
中長期的な企業価値向上の観点から最も重要と考える、規律ある資本配分を一貫して実践してまいります。
まず重要なのは、会計上の利益のみならず「キャッシュ・フロー」の成長を追求することです。そして次に、ROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)のスプレッドがしっかりと取れる事業へ重点投資・連続投資を行い、「複利効果を最大化」することです。
具体的には、既存事業からの持続的なキャッシュ創出力の向上(キャッシュ・インフローの最大化)を図りつつ、低資本効率・低成長期待の事業からは最大価値で資本をリサイクル(売却・回収)し、収益性と拡張性の高い戦略プラットフォーム型事業をはじめとする成長領域へ重点的かつ連続的に資本を配分していきます。この資本配分の規律実践を通じて複利の力を最大限に引き出すことが、企業価値向上の実現に繋がると考えています。
2025年度は、この考え方に沿って合計3,368億円の事業売却・回収を決裁・実行すると同時に、5,009億円の成長投資を決裁・実行しました。売却した事業群には豪州の牛肉肥育事業など、当社にとって歴史もあり思い入れの深い事業が複数含まれます。GC2027の成長と変革の考え方をもとに、「成長を加速させ、全員で高みを目指す」という規律が営業現場にも浸透することにより、売却・回収は順調に進捗しています。
また、規律ある資本投下・投資と、その精度向上にも地道な努力を続けていきます。当社には、先人が残してくれた幾多の成功と失敗の知恵があります。審議の質と投資精度の向上を目的とした「勝ち筋セッション」や失敗から学ぶ「負け筋からの学びの場」を通して全社に知恵を伝搬させ、オリジネーションから査定、契約交渉、投資審議、PMI(投資後の統合プロセス)などの投資実務のレベルを徹底的に高度化することで、投資の質をグループ全体で磨き、世界の卓越基準まで高め続けます。
資本投下は、常に「戦略ありき」、かつ、優良な「機会ありき」です。事業戦略に沿い、企業価値向上に貢献する機会に対しては、借入金の活用も含め、バランスシートを機動的にコントロールしていくことが重要です。S&Pの当社発行体格付の格上げを達成し、財務基盤を拡充した現在であれば、借入金の活用はWACCの低下に繋がるものと期待しています。加えて、常に短中長期の複眼的な時間軸を念頭に、相対的にリターンの高い施策へ資本を投下していくことを基本とし、成長投資と株主還元のバランスを図りつつ、GC2027の経営指標である「ROE15%」の達成に向けて、あらゆる施策を実践していきます。
最後に、資本配分責任者としての私は、短期的な成果や個人的な想いに左右されない、「次の世代にとって最善な判断」を積み重ねることを徹底します。次の世代のためになる判断であるかどうかに神経を集中し、資本配分の質の向上に努めてまいります。
3. 次の世代への仕掛け
丸紅グループは、伝統的に時代の変化を先取りすることで成長してきました。現在の丸紅を支える多くの事業は、10年以上先を見据えた先人たちの挑戦から生まれています。生成AI時代の到来によって大きく変化する世の中でも、長期的な目線でしっかりと種まきを実践しています。
10年後には大きく飛躍すると想定される、宇宙(小型衛星軌道投入サービス)、半導体(材料・部品・装置・パワー半導体)、重要鉱物(豪州・アラスカでの探鉱)、次世代電池(データセンター向けピーク電力対応)、核融合(原子炉技術を転用するベンチャー企業との協業)、量子(量子技術を活用したデータ削減事業)など、次世代の社会基盤となる領域への挑戦を積み上げています。
例えば宇宙事業では、イタリアにて2020年より協業している小型衛星の軌道投入サービスが通算23回の軌道投入を成功させており、関係者から高い評価をいただいています。今後は、「衛星向け総合ソリューションプロバイダー」として、宇宙での「衛星プラットフォーム」の構築を目指します。
次世代電池事業では、2019年よりエストニアにて協業しているSkeleton Technologies社において、スーパーキャパシタ技術による瞬時の大電力供給技術を商業化し、AI・データセンター向けのピーク需要調整機能を拡販しています。今後は、AI・データセンター向けの設備投資を削減できる電力運用の仕組みを検討しています。
世界中の優れた技術や起業家・パートナーとの協業接点を大切にし、これからも丸紅らしく10年後の次世代に大きく飛躍する事業構築に常に挑んでまいります。
同時に、進化する生成AI技術を迅速に取り込み、業務改革と投資判断の高度化の両方で積極活用し、人の知見とAIの分析力を融合させた新たな経営基盤を構築しています。「過去の負け筋を次世代の勝ち筋に反転させていく」という考え方のもと、AIの強みである「忘れない・忖度しない」という特性を最大限に有効活用することも、次世代への大切な投資です。特に、生成AIを活用した当社の過去の失敗事例からの教訓ツールは全社員に公開しており、全員で投資精度の向上に活用しています。
2050年に向けた脱炭素社会の構築の重要性についても、足元では世界的な揺り戻しの動きが見られるものの、世界が脱炭素を必要とする本質的な課題は何ら変わっていません。脱炭素に向けた新エネルギー(アンモニア・SAF・水素など)、環境価値(トレード・JCM※など)、森林事業(環境植林)などのグリーンの取り組みも、変わらず実践していきます。
- JCM(Joint Crediting Mechanism):二国間クレジット制度
世界水準のガバナンスと素晴らしい丸紅グループの同僚
短期的な収益の向上と長期的な世界の高み、この2つのミッションを追求していくうえで、その実践を支える大切な基盤が「ガバナンス」と丸紅グループの素晴らしい「人財」です。
当社の取締役会では、企業価値向上に向けた熱量あふれる活発な議論が行われています。取締役会で議論を重ねた結果、2026年度、丸紅は総合商社セクターとして初めてとなる「指名委員会等設置会社」へ移行しました。移行の目的は、経営の透明性と説明責任を高め、ステークホルダーからも資本市場からも信頼される企業であり続けることです。取締役の皆さんから企業価値向上への多くの貴重な示唆を受け、取締役会の場は大変価値の高いものであると実感しています。世界のベストプラクティスに学びつつも、相反する見方に対峙し、「異見」を融合して新たな高みを目指す、丸紅ならではの「和」のガバナンスを追求していきたいと考えています。
また2025年度は、丸紅グループの多くの同僚たちとタウンホールミーティングなどを通じて対話する機会を得ました。この対話の場では一切のルールを設けず、終始オープンで正直なコミュニケーションに徹しています。東京本社の社員とはほぼ全員と対話しましたが、率直なやりとりを繰り返す中で実感したのは、社員の真っ直ぐさと「丸紅グループの将来をより良いものにしていこう」という強い想いです。丸紅は率直な意見をぶつけ合うことができる素晴らしい職場であるとの実感を新たにしています。
丸紅グループは、多様な価値観と挑戦心を持つ人財に恵まれています。彼らが世界中で活躍できる環境を整え、グローバルな人財パイプラインの構築を加速してまいります。
ステークホルダーの皆様と共に、世界の高みへ
タウンホールミーティングにて、中堅社員から「なぜ、私たちは成長を志向していくのか」という根源的な質問を受けました。真っ直ぐな質問に感謝しつつ、私は1921年の丸紅商店設立以来専務を務め、現在の丸紅の礎を築いた古川鉄治郎の言葉をあらためて共有しました。
「商人となる前にまず人となれ」。そして、「人としての本分を尽くす」。
仕事を通して、一生をかけてより善い人になっていく。それによって社会に対して自身の役目を果たしていく。この言葉を、私自身も常に心に刻んでいます。現在の私の職責において「本分を尽くす」とは、一切の私心を排し、次世代の丸紅にとって何が最善かを問い続け、誰よりも働き、世界の高みへの挑戦を続けていくことです。その決意の表明の一つとして、本年度もCEOへの現金報酬について、必要な手続きを経たうえで、中堅社員と同等の現金給与以外はすべて自社株への再投資に回し、退任するまで売却しないこととします。
時価総額世界100位圏内という目標は、単なる順位の追求ではありません。世界中のお客様、社会、社員、そして株主の皆様から最も信頼され、最も必要とされる企業グループになるという、現在の我々が目指す世界の高みそのものです。
先人たちが築いてきた歴史を礎に、丸紅グループがまだ見たことのない世界の高みへ。すべてのステークホルダーの皆様と志を一つにしながら、丸紅グループはこれからも持続的な価値創造への挑戦を続けてまいります。
Marubeni Townhall Meeting