できないことは、みんなでやろう。
真心とイノベーションで農家を全力支援

農家だけではできないことを、ともに解決する。丸紅はそんな企業を世界各地で育て、増やそうとしている。

その代表格が、米国のHelena Agri-Enterprises, LLC(1957年創業、本社テネシー州。以下Helena)だ。1987年に丸紅が買収した当時は農薬の製剤と販売が中心で、拠点は米国内に約100カ所。現在は農業資材を幅広く扱い、売上高ベースでは全米2位のシェアを誇る。拠点数も約500カ所まで増え、約5,000人の従業員を抱える大手企業へと成長した。そして、自らの在り姿を農業のソリューションプロバイダーとしている。

Helenaは自社でラボを構え、科学技術を駆使して独自商品を開発する。たとえば、農薬の効果を様々な側面で補強する添加剤。これを使うと、一般的な農薬よりも散布量が少なく、かつ高い効果を得られる。生産性の向上と環境負荷の軽減が、同時に叶う。ほかに、養分の配合が緻密に計算された肥料や、種子の保護や成長を促す高付加価値製品などがある。

データに基づく精密農業にも、Helenaはいち早く1990年代に着目した。現在は、デジタル技術と蓄積した知見を統合させた独自のシステム「AGRIntelligence®」を用いて、顧客に適したソリューションを提供している。土壌や作物の生育状況、収穫量に関するデータを収集して分析し、可視化。これをもとに、最適な農業資材とその使用時期について、農家ごとにきめ細やかなプランを作成する。

あたかもテクノロジーを軸に進化を遂げたように聞こえるが、Helenaの最大の特徴は、真心をもって農家に寄り添う姿勢だ。作物の収穫量を最大化するために、自分たちができることを考える。農家に対する深い尊敬の念が、全社員の原動力なのだ。本社のオフィスの一角に、こんなメッセージが貼られている。「夕食の席についたら、農家に感謝しよう」

農家と手を携えて、世界の食を支えていく

「第二のHelena」を育てたい――。丸紅のその挑戦は、2019年にブラジルで始まった。同国で農業資材の販売とコンサルティングを手がけるAdubos Real S.A.を子会社化したのだ。買収時に10カ所だった拠点は今では30カ所を超え、今後さらなる拡大を目指す。

世界の人口は、2050年までに90億人を突破すると予想されている。深刻な食料不足を回避するには、イノベーションと、農家を支えたいという情熱が不可欠だ。

「Helenaはアグリビジネスのトップランナーとして、業界全体を引っ張っていける企業です」。そう話すのは、同社での駐在経験を持つアグリインプット事業部の森山茂樹だ。丸紅は、英国やオランダでも精密農業を支援する企業に出資参画している。「農業を通じて世界の食を支えたい。丸紅グループのアグリファミリーをさらに大きく育てていくこと。それが私たちの夢です」