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#47 | Adubos Real

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高付加価値の農業資材で世界の食糧基地ブラジルの生産者を支える

ある晴れた初夏の早朝、ブラジルで標高が2番目に高い町であるセナドール・アマラウ(ミナスジェライス州)。農業資材販売会社Adubos Real S. A.がこの町で最近つくった店舗の前には、7時の開店を待つ利用客の姿があった。ここは同社が国内5州で営業する90店舗のうち、もっとも新しい店の1つだ。

地元の小規模生産者である彼らがこの日購入したのはAdubos Realの主力商品「Real Turbo」。同社が試験を繰り返して独自に原料をブレンドし、安定的に収量が多くなるよう調整した固形肥料で、ピンク色の粒が特徴的だ。作物の種類と土壌のタイプによって尿素やリンなどの栄養素の配合比率を変えているため、Real Turboシリーズのラインナップは実に豊富だ。実質的にはそれぞれの顧客のニーズに合わせたカスタマイズ商品と言っても過言ではない。

Adubos Realは1980年にミナスジェライス州で創業し、農薬や肥料をメーカーから仕入れて生産者に販売する農業資材リテーラーとして事業を成長させてきた。その10年後、独自にブレンドした肥料の販売を開始。のちに加工工場を設けて内製化した。現在は同州および隣接するサンパウロ州とエスピリトサント州にある4つの自社工場でReal Turboシリーズをはじめとする多様な高付加価値肥料を生産している。大量一括購入する大規模生産者に対しては季節ごとに受注生産し、これらの工場から直接配送する。また、作物をより美しく、あるいは大きく生育させるなどの目的で使う液体の葉面散布肥料(付加価値が一段と高い機能性資材で、「Safra Real」と呼ばれる同社独自の商品群)についても内製化を進め、専用のブレンド工場を新設し、2025年に本格稼働を開始した。

Adubos Realの肥料は汎用品と比べると価格は高いが、そのかわり生産性も高い。同社の試験によると、たとえばジャガイモの栽培に「Bio Turbo」シリーズの肥料を使うと、散布量が汎用品より20パーセント少なくて済む一方、1ヘクタールあたり392袋(1袋は60 kg)多く収穫できるという(諸経費を差し引いたあとの純収益を収量に換算)。

コーヒー、オレンジ、サトウキビの生産量は世界1位で、ダイズやトウモロコシなども世界有数の輸出量を誇るブラジルは、アグリビジネスがGDP(国内総生産)の25パーセント超を占める。国内に約9,000もの農業資材リテーラーが存在すると言われるが、仕入先の商品と自社開発品の両方を提供するAdubos Realのビジネスモデルは他に類を見ない。資材の選定、適切な量や散布のタイミングなど、資材の使い方をきめ細かくアドバイスするのも同社の強みであり、近年はデータに基づく農業生産者の意思決定支援も行う。創業から一貫して、生産者の収益性向上を第一に考える姿勢を矜持として成長してきた。

「私たちは単に商品を売っているのではなく、ソリューションを提供しています」。そう話すのは、Adubos Realの営業担当者としてセナドール・アマラウ近郊の地域でジャガイモ、イチゴ、ブロッコリーなどを生産する約70軒の農家を顧客に持つClaudinei Ferreira da Costaだ。彼の仕事は「いつどこでなにを植えるか」に関する助言や圃場(ほじょう:農産物を育てる場所)を良い状態に保つための支援など多岐にわたる。「つねにお客さまに寄り添う努力をしているので、圃場で問題が起きたとき、私の顔を真っ先に思い浮かべてもらえます」とCostaは言う。こうした“提案型”の現場力を、丸紅の知見が後押ししている。

Helenaで蓄積した知見を米国と親和性が高いブラジルで発揮

丸紅は1987年に米国でHelena Agri-Enterprises LLCを買収し、農業資材リテールビジネスに進出した。当時のHelenaは農薬の製剤と販売が中心だったが、現在は最先端のラボを構えて付加価値の高い多様な製品を市場に送り出す。米国内の拠点数も5倍に増え、売上高ベースで全米2位のシェアを誇る大企業に成長した。

世界の食糧生産基地であるブラジルは、生産者の規模や作物の種類、育て方において米国と類似する点が多い。Helenaの事業で培った知見を活かすのに最適であり、かつ成長ポテンシャルが非常に高い市場であることから丸紅はこの地への参入を決めた。Adubos Realは丸紅が資本参画した2019年以降、勢いを増して事業を拡大しており、近年は年率30パーセントの高成長が続く。

「ブラジルの農業は、さらに大きく成長する可能性を秘めています。牧草地など、農作物の作付面積を広げるために利用できる土地が豊富にありますし、テクノロジーの活用が進めば生産性も向上します」。そう話すのは、創業者である父から2023年にバトンを受け継ぎ、Adubos Realの経営を担うCEOのAna Flávia Fagundes de Alvarengaだ。「一方で、気候変動は大きな課題です。私たちはお客さまの気候変動への適応を支えるという、きわめて重要な役割も担っています」。同社は作物の生理活性を高める商品も開発している。それらを使えば、気象状況の急激な変化でダメージを受けた圃場でも、作物が潜在的に持つ力が引き出され、本来の収量を取り戻すことができる。

ブラジルでの事業展開にAdubos Realをパートナーとして選んだのは、いかに生産者を支え、企業として成長していくかについて長期的なビジョンが一致したからだ。「創業者の志が社員と共有されていて、家族経営の良い伝統を残しつつ、丸紅が持ち込んだ近代的な経営手法やテクノロジーを採り入れて順調に成長している」。そう話すのは、丸紅から出向しAdubos Realで取締役を務める関田強志だ。「単に資材を安く売るという手法だけで生産者に貢献するのではなく、あくまでも資材と米国で培ったアドバイスを併せることによって、我々にしか提供できない価値をお届けしています」

高い生産性と収益性という安心を生産者に提供

Adubos Realには、農業の専門的な知識を有する人材が多数在籍している。生産者のニーズに基づき新たにラボで試作品をつくると、同社が持つ研究開発圃場でさまざまな作物を対象に試験を繰り返す。Helenaの製品もブラジル市場向けにアレンジして販売しており、同社との定期的な交流も活発に行われている。

Adubos Realの肥料は、投資収益率を強く意識して農業を営む生産者に支持され、継続して使われている。同社で研究開発と「RealTech」と呼ばれる技術サービス(土壌診断や衛星画像による作物のモニタリングなど)を統括するRenato Fonseca de Paivaは、商品開発の鍵について次のように語る。「自分たちが購入して使っているものが、確実に高い生産性と収益性をもたらすという安心感をお客さまが得られるようにすることです」

Mario Hissamo Yamasakiが責任者を務めるヒロミ農園はサンパウロ市から40kmほど東に離れた場所にあり、レタスやケールなどの葉物野菜を栽培している。従来は栄養素の配合比率が単一である汎用肥料を使っていたが、2024年の夏に記録的な大雨が続いて作物が病気にかかりやすくなり、多大な損失が生じた。そこで自分たちのニーズに合わせて配合を選べるAdubos Realの肥料に切り替えたところ、「生産性が実質的に2倍、あるいは3倍くらいになったのです」とYamasakiは言う。「その年はとても苦労しましたが、『今度の夏からは、もう同じ問題は起きない』という確証を得ることができました」

商品を迅速に届けられる体制を整えておくことも、生産者を支えるうえで不可欠である。Adubos Realは小規模の農業資材リテーラー向けに卸売業も行っており、10か所の配送センターを有している。これらの倉庫、小売の90店舗、そして顧客である数万軒もの生産者に遅延なく資材を届けるためには、販売・生産・出荷の計画をしっかりと立て、ぬかりなく実行することが肝要だと、オペレーション・オフィサーのAntônio Nunesは強調する。「農薬や肥料の散布に適した時期は非常に限られています。お客さまが必要とするタイミングに必要なものを届けることができないと、彼らの農業計画を台無しにしかねません」

家族のような温かい企業であり続ける

ミナスジェライス州のマリア・ダ・フェにある店舗は、45年前から同じ場所にあるAdubos Realの第1号支店だ。この地でダイズとトウモロコシを生産するGustavo Caetano Bragaは、2歳の頃から祖父と一緒に毎日のようにこの店に通い、今は自分が幼い息子たちを連れて行く。「あそこへ行くのは私の生活の一部で、買い物をしない日でも立ち寄るほどです」。これほど長く付き合いが続くのは、Adubos Realとの間に強固な信頼関係が築かれているからだとBragaは言う。「彼らとはこれからもずっと最高の仲間どうしでいたいです」

丸紅が資本参画した当時のAdubos Realはミナスジェライス州で10店舗のみ展開しており、従業員数も220名ほどであった。M&Aを重ねて急成長した今、約1,300名の従業員を抱える。だが、規模が大きくなっても会社の魅力である家族のような社風は変わらないと、同社の従業員は口々に言う。

合併に伴い新たに加わった従業員は、以前の会社とは異なる商品を扱うことになり、最初はどうしても受け身の姿勢になりがちだ。「そんな彼らがいつしかAdubos Realの商品を自信と誇りを持ってお客さまに薦めるようになっている姿を見ると、とても嬉しいです」。そう話すのは、Adubos Realを子会社化する際の交渉から携わり、現在は同社に駐在してマーケティングとM&A業務を担当する執行役員の栄桃子だ。「Adubos Realは今後も成長していきますが、お客さまに対しても従業員に対しても、つねに家族のように接する温かみを持った会社であり続けられるように、全力を尽くしていきたいです」

2030年までに売り上げを倍増する目標に向かって、ガバナンスや内部統制および与信管理の強化など、同社の経営基盤を現在の規模に見合ったかたちにアップデートするサポートを丸紅は着々と行っている。丸紅流の事業の育て方は、天候や土壌に合わせて肥料を撒き、手塩にかけて作物を育てる農業生産者の姿勢と、案外似ているのだ。

(本文は、2025年11月の取材をもとに作成しています)

https://www.adubosreal.com.br/
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