ScopeNEXT GENERATION #10 BJIT
IT人材の宝庫バングラデシュから、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進をサポート

世界のメガシティのなかでもひときわ人口密度が高いバングラデシュの首都ダッカ。おびただしい数の車やバイク、乗客をぎゅうぎゅうに詰め込んだバス、鮮やかな幌を掛けたリキシャがひしめき合い、クラクションの応酬が夜遅くまで続く。 人口約1億7千万人、平均年齢27.6歳のバングラデシュは「世界の縫製工場」の異名を持ち、衣料品の輸出を原動力として発展してきた。だが今、IT産業が次なる成長エンジンとして期待されている。IT立国を目指す「デジタル・バングラデシュ」が国策として掲げられた2008年以降、多くの大学が情報系の学部を新設し、近年では年間約2万人のIT人材を輩出している。
その豊富なリソースを活用すれば、IT需要の急拡大を背景に深刻なエンジニア不足に悩む世界各地の企業を支援し、デジタル技術を駆使した社会変革の一翼を担える――。丸紅は2023年4月、バングラデシュのIT業界を牽引するBJIT Ltd.(以下BJIT)と業務資本提携を結び、オフショアDXサービス事業に参画した。DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業の課題を解決するITサービスを、オフショア(海外)から提供するのが狙いだ。

2001年に創業したBJITは、開発拠点であるバングラデシュ国内に600名を超えるエンジニアを擁し、ウェブやモバイルのアプリケーションの開発、基幹および業務システムの開発や保守運用など多様なニーズに対応する。Bangladesh Japan Information Technologyの略である社名の通り、草創期は日本に特化していたが、現在は日本を含む8カ国に営業拠点を持つバングラデシュ最大のオフショアITサービス企業だ。これまでの主力市場だった日本に加えて、欧州、米国、ASEAN諸国にも顧客を抱える。グローバルなネットワークと多様な産業の知見を有する丸紅との戦略的協業によって、さらなる市場の拡大を目指す。
貪欲に学び、自らをアップデートし続けるエンジニアたち

「バングラデシュのIT産業は発展途上であり、BJITも世界のIT業界においてはまだトップランナーではないが、10年、20年後を見据えたとき、爆発的に伸びる可能性を秘めていると感じた」。丸紅が資本参画を決めた理由についてそう語るのは、丸紅の次世代事業開発部門から出向し、BJITで取締役兼最高収益責任者を務める段牧だ。20代が多数を占めるBJITのエンジニアたちから、「もっと成長したい」という熱意が伝わってくるという。「これが積み重なっていくと、10年後にはかなり大きく成長していると思います」

プリンシパル・ソフトウェアエンジニアのShipon Khairuzzamanは、多言語翻訳ツールのプロジェクトで米国の顧客を担当するチームを率いる。「海外の顧客のニーズに見合う高い技術力を保つことは容易ではなく、常に新しいテクノロジーへの迅速な対応が求められる」と彼は言う。「その力はオフショアITサービス企業にとって肝要であり、まさにBJITの強みです」

BJITは2014年、ITエンジニアの養成機関としてBJIT Academy Ltd.を開設した。通常の研修プログラムは4カ月で、受講生は実務で必要な技術に加えてコミュニケーション力などのソフトスキルも習得する。修了生の約半数はBJITに採用されるが、そもそもアカデミーに合格すること自体、非常に狭き門だ。毎回募集定員の100倍を超える応募がある。その難関を突破し、2025年4月に入社したMd. Rashedul Islamは、「一流のソフトウェアエンジニアになる夢を叶えるために、BJITを選んだ」と話す。2024年1月からソフトウェア品質保証部門で働くEnisha Ashrefaは、活躍の機会が平等に与えられていることもBJITの魅力だという。「男性の同僚と同じように、女性も持てる力を発揮できるのです」。実際、同社の女性従業員数はIT業界において国内最多であり、バングラデシュ・ソフトウェア情報サービス協会から2022年に表彰されている。
品質へのこだわりは、日本の顧客から教わった
聞き取りやすい流暢な英語を操るIT人材が豊富にいて、しかもインドやベトナム、中国よりも大幅に安い価格で獲得できることから、バングラデシュは次なるオフショア開発拠点として注目されるようになった。「欧米の大手企業を中心に、優秀なITエンジニアの奪い合いが始まっている」と、2025年6月末まで独立行政法人日本貿易振興機構のダッカ事務所長を務めた安藤裕二氏は指摘する。
だが、BJITの最大の優位性は価格ではない。サービスの質の高さにある。「私たちは24年にわたる日本企業との取引を通じて世界最高水準である『日本品質』を体得し、守り続けています」。そう話すのは、同社で人事や事業開発を指揮するRaisa Tahsinだ。「あらゆるニーズに対応し、きちんとデリバリーできる優秀なエンジニアがいなければ、高品質は達成できません。だから私たちは人材への投資を惜しまないし、そのリターンは大きい」

地図情報の整備・販売を手がける株式会社ゼンリンは2023年11月、丸紅の紹介でBJITにアプリケーションの開発を依頼した。同社はオフショア開発の経験はあるが、バングラデシュの企業とは初めてであった。「お試し」の位置づけで、社内ツール(地図制作を支援するウェブアプリ)の置き換えを依頼した。「地図を組み込むシステムの開発は特殊で難易度が高く、通常は立ち上がりに時間がかかります」。そう話すのは、ゼンリン サービス開発一部の部長である副島佑介氏だ。「ところがBJITは細かい仕様を伝えなくてもすぐにプロトタイプを作ってきたので、びっくりしました」。また、「ここはこう変えたらどうか」と、地図の専門家である自分たちとは異なる発想の提案を受けたことも、高評価につながったという。BJITのパフォーマンスが予想以上に高かったため、同社はその後も継続的にアプリケーションの開発を依頼している。
日本における拠点である株式会社BJITにはエンジニアが30人以上在籍しており、多くがバングラデシュ出身だ。ダッカのエンジニアと日本の顧客の橋渡し役を担うブリッジエンジニアにはITのスキルと経験に加え、高いコミュニケーション力も求められる。人材の確保に苦労していたが、「丸紅が資本参画したというニュースが流れてから、入社希望者が劇的に増えた」と社長の堀川雅紀は言う。「丸紅の幅広い顧客基盤と巧みな営業力のおかげで、私たちでは手が届かなかったビジネスチャンスに恵まれ、それらが今、花開いています」。丸紅との協業によってグローバルに事業を展開する日本企業との取引が今後さらに拡大することを期待している。
AIを活用し、さらなる高みを目指す

BJITでは今、AI(人工知能)を採用した自社製品の開発にも力を入れている。顔認証のプラットフォームや、オンラインによる採用試験の支援ツールなどがその例だ。これまでに培った経験と若いエンジニアの斬新なアイデアが融合し、「自社でプロダクトを開発する能力が高まってきた」と段は言う。
自社の業務の最適化にも、AIを積極的に活用している。「AIを日々の業務に採り入れたことによって、売り上げが有意に上昇した」とTahsinは言う。
BJITはオフショア開発では国内最大手だが、バングラデシュのIT業界全体を見渡せば、圧倒的に規模が大きい企業はいくつも存在する。同社の究極の目標は、従業員が1万人を超える国内ナンバーワンのITサービス企業になることだ。「BJITの事業を一言で表すと、『成長』です」と段は言う。「お客さまの事業を成長させる手助けという意味もあるし、あるプロジェクトに携わるエンジニアが成長すればそれが次のプロジェクトに活きる。関わっている全員が成長できる事業だと思っています」
(本文は、2025年6月の取材をもとに作成しています)
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