丸紅の創業は1858年。当初、繊維の卸業だった丸紅は、その歴史の中で、染織技術や意匠の研究のために、古い染織品の蒐集をはじめました。2020年に重要文化財に指定された「染分縮緬地襷菊青海波文様友禅染振袖」もその一つです。この振袖は1730年頃、19歳で亡くなった娘の供養のために菩提寺に奉納された遺愛の品でした。当時のものとしては非常に良い状態ですが、経年劣化が進んでいたため、丸紅は文化庁と東京都の協力を得て、国宝など多くの文化財修理を手掛ける松鶴堂の力を借り、修理に着手。その過程で、縫い目をほどき、縫い代を開くと、当時の生地の色が現れました。
瑞々しい浅葱色。長い年月が経ち、いまはくすんでいますが、当時は鮮やかな色だったのです。娘には華やかな振袖を着せてやりたい。そんな親の想いまで蘇ってくるようでした。長い時を越えて、当時からのメッセージが届くように、新たな発見はこれからもあるかもしれません。丁寧な手仕事で、修理作業は現在も進められています。
(2024年7月制作。修理事業は2025年3月末に完了しました。)