

丸紅デジタル・イノベーション部が考える、商社の強みを活かしたデジタル活用の可能性
CHECK POINT
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社内にデジタル専門部署をつくりクイックな実装を実現
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教育プログラムを広げ全社のデジタル強化を牽引
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まだまだ広がるテクノロジー×ビジネスのポテンシャル
商社が社内にデジタル専門部署を設立
──デジタルテクノロジーの活用を専門とする丸紅デジタル・イノベーション部は、2017年に発足した組織です(発足当時の名称は「IoT・ビッグデータ戦略室」)。商社が社内にデジタル専門の部署をつくるケースは珍しいと思うのですが、何のためにつくられた組織なのでしょうか。
大倉耕之介(以下、大倉) 私たちは「新たなビジネスを生むこと」と「デジタルを使って全社を強化すること」のふたつを目的としています。発足当初はわずか6名の部署でしたが、AIやデータ分析の専門家を外部から招くことで、伝統的な商社に新しい文化が入り混じった独特の組織になってきていると感じます。
画像:大倉耕之介
吉田元気(以下、吉田) 私自身も、2019年に入社するまではIT企業でデータ分析のコンサルティングサービスを担当していました。通常のコンサルティングやシステム開発においてはお客様から受けた依頼へ対応することが前提となりますが、デジタル・イノベーション部はより主体的に事業へ関われることが面白みでもあり強みだとも感じます。
大倉 社内に専門部署をつくるメリットは大きいですね。デジタルテクノロジーを使って新たな取り組みを行おうとしてもまず外部の専門家にアクセスするハードルが高いし、お金もかかる。社内の決裁も必要になるし、結果的に時間もかかるでしょう。こうしたプロセスを省略してすぐ調査や実証実験を行えるので、従来なら1年かかることを2〜3カ月でトライできるようになります。
画像:吉田元気
社内外を問わず幅広い領域でDXを推進
──奇しくも、デジタル・イノベーション部が生まれてから社会的にも多くの領域でデジタルテクノロジーの必要性が加速度的に高まっているように感じます。
吉田 以前はテクノロジーとビジネスは別で考えられていたケースもありましたが、それが急速に融合しています。たとえば太陽光パネルのリユース・リサイクルを仲介するプラットフォームをつくったり、出版業界の業界DXに取り組んだり、フードデリバリーサービスの立ち上げに関わったりと、領域を問わず取り組みが広がっています。
大倉 他方で、OpenAIのGPT-4をはじめとするLLM(大規模言語AIモデル)を活用したチャットボット「Marubeni Chatbot」を開発するなど、社内におけるテクノロジー活用の取り組みも進んでいます。部内の若手チームが数週間でプロトタイプをつくり、公開範囲を広げながらGPT-4公開の3か月後には全社向けサービスとしてローンチしました。
Marubeni Chatbotはその後も日々アップデートが続いていまして、GPT-4oが発表された当日にデプロイされるなど、状況に応じて多いときは週に3回アップデートされることもあります。商社の業務はなにかと規程を確認する機会も多いので、何百種類・何千ページもの書類をチャットボットにインプットすることでかなり業務の効率化が進みましたね。社内書類の扱いはセキュリティの管理も厳重ですし、内製だからこそクイックに実現した事例だと感じます。
実践型プログラムでデジタル人財育成も強化
──デジタル・イノベーション部の活動としては社内のデジタル人財育成にも取り組まれていますし、インターンの受け入れも行われるなど、組織を変えていこうとされている印象を受けます。
大倉 4年前から、「丸紅デジタルチャレンジ(通称:デジチャレ)」と題して社内の課題をデジタルで解決する実践型のプログラムを続けています。これまでのべ350人ほどの社員が受講しているのですが、いまでは毎回抽選が必要なほど人気のプログラムになりました。
吉田 近年は大学生や大学院生のインターンを積極的に受け入れていまして、そのまま入社するメンバーもいます。インターンではただ言われた作業をこなすのではなく要件定義やプロトタイピングなども含めプロジェクトに深く関わるため、実践的なスキルを身につける機会にもなっています。
大倉 ちょっとしたデータ分析や効率化から相談が始まり、一緒に新たなサービスの開発に伴走していくこともありますし、小さな相談から大きなプロジェクトへ発展するケースも結構あります。それぞれの専門性を活かしながらも、お互いに領域を超えて議論を交わせるような環境がつくられています。
ビジネスとテックの“二刀流”にトライ
──デジタル・イノベーション部としては、今後採用も強化されていくと伺いました。
吉田 好奇心の強い方にとっては非常に面白い環境だと思います。私たちは新しいテクノロジーを率先してビジネスに活用する部署で、好奇心の強い方ならどんどん新たなことにチャレンジできますから。加えてセオリーがないことも多い領域なので、悩みながらも自律的に試行錯誤を重ねながら前に進む、そういうことが好きな方にはぜひジョインしていただきたいです。
大倉 人財としては、テクノロジーだけでなくビジネスについて考えられることも重要です。もちろんプログラミングやデジタルマーケティングなど各専門技術の高度な知識も必要ですが、その上でビジネスも考えられるからこそ面白いし、本当の意味で役に立つ人財になれます。この二刀流に挑戦できることがデジタル・イノベーション部の強みであり魅力だと思っています。
吉田 とくに丸紅のような事業会社ならIT企業やコンサルティングファームではアクセスしづらい事業の生の情報に触れる機会がありますし、商社なので対象とするビジネスの領域も非常に多岐にわたっています。テクノロジーの力でビジネスを成長させたい人にとっては刺激的な環境だな、と。
大倉 近年はデジタル・イノベーション部から子会社や関連会社にCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)やCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)という形で出向するケースも増えてきていますし、ひとつの会社にいながら多様な事業を経験できるようになっています。私たちは自分たちのことを「デジタル御用聞き」と呼ぶことがありますが、相手の懐に深く入り込みながら本当に求められているものを探しにいけるのが私たちの強みだと思っています。
デジタルと仕組み化で全社のビジネスを強化
──今後はデジタル・イノベーション部としてどんな取り組みを広げていく予定ですか?
吉田 いまは各部署の事業に対して個別にソリューションをつくっていくことが多いのですが、ノウハウを蓄積していくことで事業・投資の意志決定を支援する活動も広げていきたいと思っています。とくにいまはLLMの発展によって、この領域に多い文書データが扱いやすくなってきました。これを機に、商社の特徴のひとつであり強みでもある事業・投資の意志決定に貢献していきたいと考えています。
大倉 究極的には、デジタル・イノベーション部だけではなくて全社の社員がデジタルの知識をもってビジネスを提案できるような環境をつくっていくことも私たちのミッションだと感じています。そのため、デジチャレのほかにもさまざまな研修や講習を行い、全社員の知識・スキルの底上げを図っているほか、デジタル・イノベーション部から営業組織へ、営業組織からデジタル・イノベーション部へ相互に人事交流を行うことで実践的な学びの機会をつくっています。彼らにエバンジェリスト的な役割を果たしてもらうことで、知識やスキルが伝播する仕組みをつくっており、今後はさらにこの機能を強化していきたいと考えています。
先端的なテクノロジーを活用したサービスをつくることも重要ですし、面白いとは思っています。ただ、丸紅という会社にとって一番大事なことは、多様な領域で行っている実ビジネスについて、それぞれの状況に応じた対策を考え、ソリューションを展開し、ビジネスをより強化していくことです。さまざまな部署の方々が最大限のパフォーマンスを発揮できるサポートを行うことこそが、丸紅全社の成長につながっていくはずだと信じています。