リサーチを通じ各部署の挑戦をサポート

──黒田さんは、新卒で丸紅に入社され、現在はデジタル・イノベーション部でRKM（Research & Knowledge Management）の業務を担当されています。現在デジタル・イノベーション部で働いているメンバーのなかには中途採用で参画した方も多いですし、一人ひとりバックグラウンドやキャリアが大きく異なっているように思います。

黒田絵理佳（以下、黒田）　新卒で入社して以降、何度か異動を重ねながらさまざまな事業に携わってきました。飲料原料や穀物のトレードを行う営業部にいたこともあれば、秘書や丸紅経済研究所、バックオフィス部門も経験しています。

2年前にデジタル・イノベーション部へ異動してからはデータアナリティクス課に所属し、RKMの業務を担当するようになりました。新卒で入社してからデジタル・イノベーション部へ異動したメンバーは、私と同じようにこれまでさまざまな業務を経験しています。リスクマネジメントや情報企画、ICTビジネスなど、狭義の「デジタルテクノロジー」に留まらず人それぞれ異なる専門領域をもっていますね。

──具体的にRKMとはどんな業務に取り組むものなのでしょうか。

黒田　Research & Knowledge Managementという名が表すとおり、主に社内の事業部が新しいことに取り組む際のリサーチを担当しています。各部署のみなさんは通常の業務もあるなかでなかなか新しいことに取り組む時間をつくりづらいですし、人的リソースも限られていますから、デジタル・イノベーション部として初期リサーチにあたる部分を担当することで迅速に新たなビジネスへ取り組める環境をつくっています。

もちろん実際にプロジェクトを進めていくなかでは外部のコンサルティング会社を起用する必要もあると思いますが、その手前で市場規模や市場動向など初期リサーチを行ったり、各国の規制状況について調べたり、競合やパートナー企業を洗い出したり、既存の成功事例を集めたり──さまざまな情報をリサーチしています。

画像:黒田絵理佳

細かなヒアリングで困りごとに伴走

──丸紅のような総合商社だと事業を展開する業界も多岐にわたるので、リサーチ範囲も幅広いものになりそうですね。

黒田　そうですね。まずは最初にしっかりヒアリングさせていただき、困りごとがなんなのか、どんなスコープでリサーチを行うべきなのかすり合わせたうえで調査を行っています。ひとくちにリサーチといってもプロジェクトごとにその内容も大きく異なるので、日々さまざまな領域を扱っていますね。

営業部ごとに困りごとも異なっていますから、「こういうデータが欲しい」と言われてクイックに1〜2日でリサーチを行うこともあれば、市場環境の成長性や規模について2週間ほどかけてリサーチすることもあります。やはり業界やビジネスが変われば困りごとも変わるので、毎回ヒアリングを通じてカスタマイズしながらリサーチしていく必要がありますね。

──なにか印象に残っているプロジェクトはありますか？

黒田　基本的にRKMはスポット対応になるので事業全体に伴走できるわけではないのが心苦しいところでもあるのですが、昨年取り組んだ保険事業のプロジェクトではのべ4回ほどリサーチの機会をいただけたのが印象に残っています。初めはどういうウェブサイトが存在しているのか調べるところから始まって、競合事例の調査などを行うなど、回を重ねるたびにリサーチの対象も変わっていきますし、こちらの理解も深まっていくのでやりがいもありました。

環境変化に対応する柔軟性が価値をもつ

──コロナ禍や生成AIの登場などさまざまな要因によってビジネスを取り巻く環境も急速に変わっていきますが、RKMの業務に求められることも変わってくるものなのでしょうか。

黒田　初めはデジタル・イノベーション部ということもあってDX領域を主なスコープとしていたのですが、実際に多くのプロジェクトに携わるなかで、デジタルに限らずイノベーションをサポートするためのリサーチが求められていると感じるようになりました。新しい取り組みを始めるうえではDXに限らずさまざまな情報が必要になりますから、私たちに求められるノウハウや知見のハードルもどんどん上がってきていると思っています。

──多くの部署の方とやりとりされる機会も多いと思うのですが、全社のDXを加速させていくうえで心がけていることはあるでしょうか。

黒田　商社は領域ごとにビジネスも大きく異なるので部署が変わると転職と同じくらい環境も変わるのですが、とくにデジタル・イノベーション部はみんなでゼロからカルチャーをつくっていくような空気があるのが面白いですね。中途採用のメンバーが多いこともあり、フラットなカルチャーが醸成されていることで前例のない取り組みも進めやすい環境が生まれています。

DXに取り組んでいくうえでは、「柔軟性」が大事だなと思います。もちろんデジタルテクノロジーの知識も重要ではあるのですが、とくにRKMではしっかり営業部の方々の困りごとをヒアリングして俯瞰的に状況を見ながら問題を考えていく必要があります。それはビジネスパーソンとしての総合的なスキルでもあると思うのですが、多様な領域に関わっていくためには柔軟性がとくに重要ですね。

情報共有で全社の事業構想力を強化

──日々リサーチなどを通じて最新のテクノロジーに触れるなかで、黒田さんが注目されている領域はありますか？

黒田　個別のテクノロジーについてはAIやマーケティングなど専門家の方が詳しいかもしれませんが、RKMの視点から見れば、今年のCESでも注目されていたAIやモビリティ、持続可能性、安全保障といった領域は営業部からの依頼とはべつに注視していく必要があると思っています。

リサーチ業務を通じて情報収集を進めていくなかでも市場のムードやスタートアップの増減を感じる機会も多いので、RKMの立場からも市場の潮流を調べていかなければいけないな、と。とくに生成AIを筆頭に近年は日々状況が変わっていってしまう領域もありますから、よりRKMとして主体的に情報収集を行っていきたいとも思います。たとえば営業部からの依頼とはべつにRKMとしてレポートを作成し全社に発信していくなど、日々集めている情報をみなさんのビジネスに還元していく機会を増やしていきたいですね。

実際に、これまでもデジタル・イノベーション部のTeamsには部署を問わずデジタルに興味のある方が入れるグループをつくっていまして、RKMが見つけた面白い記事やスタートアップを紹介するような取り組みを続けています。

──RKMが集めた情報が社内に広く共有されるようになると、よりインパクトが大きくなっていきそうです。

黒田　各部署は自身の業務にリソースを割かれるのでほかの部署について知る機会をつくりづらいと思いますが、私たちはバックオフィスの立場でもあるのでRKMがもつデータベースの情報を共有することで連携が促進する面もあると思っています。たとえば昨年丸紅が社内向けにリリースした「Marubeni Chatbot」にも私たちの情報を組み込もうとしているのですが、そうすることでさまざまな部署の方がRKMの情報に触れやすくなりますし、結果的に相談していただきやすくなるとも思っています。

これまでの事例を考えてみても、複数の部署が同じような課題に取り組もうとしていることは珍しくありません。そこで私たちがもっている情報を適切に横展開したり情報共有の場を設けたりできると課題解決につながりやすくなりますし、情報の共有を加速していくことで、全社の情報収集力を高めていきたいですね。