

酪農・畜産業界を切り拓くBeecoProgramのデータ革命
生産と消費をつなぐ持続可能な食のサプライチェーン
CHECK POINT
- 酪農・畜産業界のデータを統合し生産性を飛躍させるデータプラットフォーム「BeecoProgram」
- 業界内ネットワークを活用して課題解決を加速させ、既存事業と新規事業のシナジーも創出
- 生産と消費の需給ギャップを解消し、持続可能な食の未来を構築する壮大なミッション
一頭の牛から始まるデータ革命
2050年、世界人口は97億人に達し、深刻な食糧危機が訪れると予測されている。その一方で、日本の第一次産業、特に酪農・畜産業界は、後継者不足や飼料価格の高騰、古くから残る業界構造など、数多くの課題に直面している。点在するデータや分断された知見、生産と消費の間に横たわる大きな時間的ギャップ──こうした課題の解決は、持続可能な社会を実現するうえでも極めて重要だろう。
そこで丸紅が立ち上げたのが、酪農・畜産業界向けのデータプラットフォーム「BeecoProgram」だ。酪農・畜産は世界的に見ても巨大な産業のひとつであり、なかでも牛は一頭ずつ個体識別番号が付与されているにもかかわらず、データ活用が進んでいない状況にあった。牧場をはじめとするさまざまなステークホルダーからデータを集めることは決して容易ではないが、これまで業界に存在しなかったデータプラットフォームをつくることは、酪農・畜産業界全体の変革にもつながるだろう。
BeecoProgramは汎用的なデータベース基盤の構築により、あらゆる種類のデータを手間なく保持できるプラットフォームだ。牧場管理情報やIoTセンサー、紙面管理情報などさまざまなソースから個体群動態から飼料在庫、財務諸表など多岐にわたるデータを集約しており、生産者の事業をサポートするだけでなく、金融機関や飼料会社も含め幅広いステークホルダーのデータ活用を可能にしている。これまで散財していた業界データの統合はもちろんのこと、統合されたデータの可視化やデータの共有も実現することで、ユーザーの体験を向上させるための機能群が充実している。

生成AIの活用により最新研究をも社会実装
BeecoProgramのデータベース設計思想はとてもユニークだ。従来のシステムが「牧場」を主語にデータを管理していたのに対し、BeecoProgramは「牛」を主語に据えた。この発想の転換により、一頭の牛の生産データと牧場や会社の財務データが有機的に結びついた。多種多様なデータを結びつけることで、飼料と売上の相関などさまざまな問いに答えを出すことが可能になったのである。
さらに開発体制を外部ベンダーと内製エンジニアの混成チームへと切り替えたことも特徴のひとつと言えるだろう。チームはフルマネージドクラウドサービスを利用したサーバーレス構成のインフラ基盤構築により、内製においてはエンジニアチームとデジタル・イノベーション部と一体となってユーザーの声を聞き入れながらクイックな開発を進めていった。
その結果、BeecoProgramはさまざまな機能を充実させることに成功した。たとえば収集されたデータと複数の生成AIモデルや業界知見を組み合わせた独自のAIエージェント機能や、AI OCR、分析レポート配信サービスなど、単なるデータの集約や可視化にとどまらず、生産者を支えてくれる多くの機能が実装されている。
なかでもその先進性と独自性を象徴する機能と言えるのが、牛の体重を推定できるアプリ「BeecoProgram 3D Scanner」だ。2025年9月に発表されたこのアプリは、学術論文レベルの最新研究を社会実装したものであり、AIによる画像認識と機械学習モデルを活用し高精度に体重を推定可能。従来は約900kgに達する牛を1頭ずつ体重計に乗せなければいけなかったため作業負担が大きく十分な測定が行われていない状況にあったが、本アプリにより、牛を側面の1画角から撮影するだけで最速0.2秒で体重を推定できるようになった。体重データの蓄積・活用はこれまで感覚や経験則に基づいていた牛の成長の可視化につながり、より効率的な飼育と出荷が実現するだろう。

商社の真価が拓く、生産と消費の未来
BeecoProgramは単に生産性を向上させるだけでなく、日本の酪農・畜産業を世界で戦えるレベルまで押し上げようとしている。そのためにいま取り組もうとしているのが、生産と消費の間に存在する時間的ギャップの解消だ。
一般的に酪農・畜産業界では牛乳のような製品を消費者に届けるために数年前から準備を進める必要があるため、消費者のニーズの細かな変化への対応が難しいと考えられてきた。BeecoProgramはこの構造的なギャップをデジタル技術の活用によって埋めようとしている。消費者のニーズをリアルタイムで生産現場にフィードバックし、計画的な生産を可能にする。生産者にとっては食品ロスや価格変動のリスクを低減し、消費者にとっては安定した食料供給を実現することで、持続可能な食のサプライチェーンが構築されるはずだ。
BeecoProgramは丸紅グループが日本中・世界中にネットワークをもち、長い歴史のなかで培ってきた信頼があったからこそ実現したものだ。さらにはBeecoProgramを通じて得られたデータを通じて丸紅グループが扱う飼料の価値を定量的に評価することで、飼料の売上向上に貢献するなど、既存事業とのシナジーを生み出しうることも、これまで酪農・畜産業界でビジネスを展開してきた丸紅グループだからこそ起こせる変革だと言えるだろう。もちろん、単にネットワークや信頼があれば有用なデータプラットフォームをつくれるわけでもない。総合商社のもつ基盤とスタートアップレベルのスピードを融合させることで初めて、酪農・畜産業界全体をデジタル化しうる革新的なプラットフォームが生まれたと言える。BeecoProgramはデータという資源を活用することで生産者だけでなく無数のステークホルダーを巻き込んでいきながら、酪農・畜産業界のあり方そのものを大きく変えようとしているのだろう。


