

生成AI×OCRで複雑な受注業務を半自動化
従来不可能であった物流DXを最新技術で実現
CHECK POINT
- 旧来のアナログ業務が残る物流現場に、AI×OCRソリューションを導入
- 現場との密な連携とフィードバックループが、実用的なツールへの鍵
- グループ内開発だからこそ可能な、柔軟で進化し続けるソリューション
DXが追いつかないサプライチェーンの現場
あらゆる産業でDXの重要性が叫ばれ、生成AIをはじめとする技術も急速に発展するなか、デジタル化が進む産業とそうでない産業のギャップは日増しに大きくなってきている。特に長年の商慣習が複雑に絡み合うサプライチェーンの現場では、FAXや手書き書類といったアナログな業務プロセスが根強く残っている。それは単なる効率の問題にとどまらず、人的ミスや属人化といったリスクも内包しており、産業全体の競争力を削ぐ要因となりかねない。
丸紅のような総合商社の事業は、こうした課題と隣り合わせにある。それは同時に、丸紅がDXのフロンティアを切り拓く存在になり得ることを意味しているだろう。丸紅ロジスティクスと丸紅デジタル・イノベーション部(以下、DI部)が共同で開発し、大手米菓メーカー向け物流拠点に導入したAI×OCRソリューションは、まさに膠着した状況に風穴を開けるものと言える。
丸紅ロジスティクスでは、新潟県内に複数の製造・流通拠点を構える米菓メーカーの受注・物流業務を受託している。お菓子の製造業界ではいまだにFAXでの受発注が多く、丸紅ロジスティクスが処理する受注の約3割がFAXで行われていた。丸紅ロジスティクスではこれまでも複数回OCRによる業務効率化を試みてきたが、取引先ごとに異なる注文書のフォーマットや手書き文字が精度向上の壁となり、本格的な活用には至っていなかった。そのため、従来はスタッフが一枚一枚手作業で内容を確認し入力する、多大な時間と労力を要する作業となっていた。
生成AIによりデータ入力業務を半自動化
丸紅ロジスティクスは、グループ内で多種多様なデジタル技術開発を担うDI部とともに、この長年の課題を解決すべく動き出した。大きなブレイクスルーとなったのは、生成AIの急速な発展だ。本プロジェクトは、ChatGPTが脚光を浴びた2023年夏から簡易的な検証を開始し、翌年から本格的な実務導入の検討に入ったという。
システム開発においては、現場でのPoCを重ねながら、さまざまな方法が模索されていった。単に文字を読み取るだけでなく、発注コードを手書きで追記したり納品日に過去の日付を表示しないよう指定したり、現場の業務に即した細かなプロンプトエンジニアリングを重ねることで、実用的なレベルまで精度が高められていったのである。
その結果、FAXの発注書をもとに仕分け・入力・内容確認の3段階の作業を行うフローから、PDF化した発注書をOCRで読み取り、生成AIで所定形式のExcelデータを出力し、人が内容確認・修正を行うだけでシステムへ注文内容を一括でインポートできるシステムが完成した。従来は複数人の作業が必要だったが、人の関与が内容確認・修正だけとなったことで、ミスの可能性も大幅に削減されたと言える。
その成果は数字にも明確に表れている。これまでは1日あたり延べ17時間分の作業を要していた受注処理業務が、本システムの導入によって9時間分まで短縮され、実に8時間分もの工数削減が実現した。特に受注業務においては毎日の締め切り時間が決まっているため、FAXの処理に多くの人員を割かざるを得ない状況が長く続いていたこともあり、人件費の削減にも貢献していると言える。
開発と導入においては、精度・スピード・コストの最適なバランスが模索されたため、導入当初こそ100%の精度は実現されなかったものの、日々改良を重ねるなかで精度は向上している。人間による確認・修正業務の負担も軽減され、その作業は半自動化されている状況だ。
丸紅グループ内外へ生まれる広がり
そしていま、このシステムは、丸紅ロジスティクスの物流センターに留まらず、さらに広がろうとしている。丸紅ロジスティクス向けにつくられたこのツールをベースに、今後は発注書だけでなく請求書など多様な書類に対応できる汎用的なソリューションが開発される予定だ。将来的には丸紅グループが社内向けに提供する生成AIチャットボット「Marubeni Chatbot」への導入も検討されており、グループ内の誰もが活用可能なソリューションが生まれようとしている。加えて、丸紅ロジスティクスとしてもDI部とのコラボレーションをさらに深めるべく、現在は貿易業務における書類の突合といった新たな領域においてもソリューションの開発が進んでいるという。
このような柔軟かつ迅速な開発と展開が可能なのは、企画から開発、実装という一連のプロセスをすべて丸紅グループ内で完結できるからである。現場の課題を最も深く理解する事業部門と、最先端の技術知見をもつ専門チームが密に連携できる環境こそが、丸紅のDXを推進する強力なエンジンとなっている。
もちろん柔軟な外部ベンダーを採用することで迅速なサービス開発を行うことも可能だが、その一方で、受発注の関係を超えた積極的なコミットメントを引き出しづらいことも事実である。その点、DI部のミッションは単にほかの事業部の課題を解決することだけでなく、そこで得られた知見やノウハウをグループ全体の資産として蓄積し、新たな価値を創造することにある。現場のリアルな課題と真摯に向き合い、グループの総合力を結集して実現するDXこそが、多くの産業に変革をもたらすことは間違いないだろう。


