事例紹介

AI活用で営業計画を効率化
不二家ベトナムが東南アジアで挑む卸売DX

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AI活用で営業計画を効率化 不二家ベトナムが東南アジアで挑む卸売DX

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CHECK POINT

  • ベトナム国内のビジネス環境に寄り添いながらAIを活用
  • 現地の知見を活かしつつ営業計画を効率化・最適化
  • デジタル活用でローカルメーカーに比肩する営業体制を構築

東南アジア特有の市場環境に合わせた営業の効率化

人口増加と経済成長が著しく、新たなマーケットとして注目される東南アジア諸国。丸紅も多くの国々で事業を展開しているが、なかでも新たな取り組みと言えるのが2022年に設立された株式会社不二家との合弁会社「不二家ベトナム」だ。

同社は丸紅が培ってきた菓子卸売事業や加工食品の製造・販売ノウハウを活かし、日本でもよく知られる不二家の「カントリーマアム」ブランドを中心にベトナム国内で菓子の販売に取り組んでいる。現在は日本からの輸入販売を行っているものの、今後はベトナムのビスケット・クッキー市場成長を見据えて今後は国内工場での製造へと切り替えて事業規模を拡大する予定だという。

ところが、不二家ベトナムはとある課題に直面していた。

それは、東南アジア特有の市場環境に合わせた営業活動だ。東南アジア諸国には近代的なスーパーやコンビニエンスストアだけでなく「パパママストア」と呼ばれる個人商店がいまなお多く存在しており、ベトナムにおいては前者が7,000〜8,000件の店舗を展開するのに対し、後者は30万店舗ほどあるとされる。店舗間の連携やネットワークが構築されているスーパーとは異なり、個人商店は一軒ずつ実際に店舗を訪れながら営業活動を行う必要があるという。これまで不二家ベトナムはエクセルを使って店舗情報を管理し営業計画に取り組んでいたものの、人によって一日に訪問できる店舗数にブレが発生することや、受注できる可能性が低いタイミングで店舗を訪れてしまうことが問題になっていた。

 

現地のニーズに伴走しながらAIによる数理最適化を実証

そこで不二家ベトナムが丸紅とともに取り組んだのが、AIによる数理最適化を活用した営業計画立案ツールの開発だ。開発チームが現地を訪れて現場スタッフともコミュニケーションを重ねながら課題の可視化と要件定義に着手し、まずは営業チームが安定して毎日多くの店舗を訪問できるよう、1日に訪問する店舗間の距離の短縮をターゲットに、さまざまな指標を検討しながらアルゴリズムの開発が進んでいった。

もちろん、単に同じエリアの店舗をまとめれば課題を解決できるわけではなく、店舗ごとの月訪問回数の調整や訪問間隔など、留意すべき指標は多岐に及ぶ。これまでの訪問と受注の履歴や商品の受注量を分析しながら、あらゆるパターンを列挙し、最適なスケジュールを設計できるアルゴリズムがつくられていった。

加えて、膨大な量の個人商店を回るというベトナム特有の市場環境で機能するツールをつくるためには、単にAIでデータを分析すればいいわけではない。実際にデータだけ見れば非効率に思える訪問が店舗オーナーとの関係構築につながり将来的な受注の可能性が上がるケースも珍しくなく、最終的な営業計画の意思決定においては現地チームの判断が必要不可欠となる。そのため、本プロジェクトにおいても営業計画立案ツールの作成だけではなく、Microsoftのデータ視覚化ソフトウェア「Power BI」を活用した事業の可視化も取り入れることで、誰もが同じデータを理解し認識を揃えながら議論できる環境も整備されていった。

こうして現地視察を通じた深い課題理解やクイックなプロトタイピングによって、プロジェクト始動からわずか4カ月で実証が実現。すでに営業スタッフのスマートフォンへ毎朝その日訪問すべき店舗リストが通知される体制が整っている。

 

リアルとデジタル双方の強みを活かしたDX

現在は2025年9月のアプリケーション化に向けた本格開発が進んでいるものの、すでに現場チームは大きなインパクトを実感しているという。例えば従来は日ごと・人ごとに生じていた訪問店舗数の偏りが解消され、営業チームが多くの店舗を安定して回ることが可能となった。この他、種々営業活動のデータ分析による示唆出しや、事業会社のリーダーシップが功を奏し、営業の強度は維持したまま特定地域を担当する営業人員を20%削減することに成功している。最終的に30万件の店舗をカバーすることを踏まえると、このツールのインパクトは今後ますます大きくなっていくはずだ。

さらに、ツールの導入による営業活動の安定化も大きなメリットとなったという。ベトナムの労働市場は流動性が高く、特に営業職は短期間で転職を重ねることが多いとされる。従来は営業の知見やネットワークが属人化していたが、今回のツールによって担当者が変わっても安定的にパフォーマンスを発揮できるようになった。

伝統的な商慣習が根強く残る事業へのデジタル導入においては、しばしば現場とのハレーションが生じてしまうことも少なくない。今回の営業計画立案ツールがきちんと現場からも受け入れられるものになったのは、データの可視化を通じて議論の土壌が整備されていたのはもちろんのこと、現場責任者がクリアな意思決定を通じてリーダーシップを発揮し、そして開発チームが現地のニーズを深くしていたからだ。

いまなおローカルメーカーが覇権を握っていることも多い東南アジア市場において、不二家ベトナムはベトナム国内でも類を見ないAI活用によって現地市場へ大きなインパクトを与えようとしている。今後成長が続いていくとされる東南アジアでのビジネス展開のみならず、リアルな環境と切り離せないあらゆるビジネスのDXを考えていくうえで、不二家ベトナムのAI活用は新たなスタンダードとなりうるものだろう。

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